buddy
あの時、何故トリガーを引けなかったのか。
あの時、挟み撃ちにされて、どうして何も逃げなかったのか。いや、逃げられなかったのか。
あの時、あいつが来なければ……、あたしは……。
ストライカーの魔導エンジンをいじくりながら、ハンガーの隅でぼんやり考える。
結果的に事なきを得たのは事実だけど、あいつが魔法力、体力を削ってまで来なければ、あたしは海の藻屑となっていた。
だから、どうした。
多分あいつはそんな感じでさらっと流すに違いない。
自分の事もほっぽり出して、へろへろで飛び立って、魔力を吸われ、気を失ってまで、あたしを助けた、あの馬鹿。大馬鹿。
あたしが全力を出して抱きかかえた時の、何とも言えぬ感覚。触覚。ルッキーニのそれとも違う……
全てを預けて来る、そんな身体の触れ合い。
「あーもう!」
あたしは何となしに苛ついて、手にしていたスパナを放り投げた。乾いた音を立てて、近くに転がった。
知ってる。分かってる。悪あがきだ。どうしようもないって事を。
あいつはいつも、規則だなんだと怒ってる様で(実際表面的にはそう見える)、だけど心の中ではとても心配してる。
凄惨な戦いを生き延びたからこそ、なんだろうな……。あたしはそこまで奴の事を知らないし、分からない。
でも。
もう少し位、良いじゃないか。何でいつも、いつも……。
もっと、あたしを。
「ニヒヒ、どったのシャーリー? 何かうまく行かない事でもあった?」
ルッキーニか。何でもない。
「シャーリー、どうしたの?」
ルッキーニこそどうした、改まって。
「だって、シャーリー、泣いてる……」
はは、嘘だろ? 冗談。あたしが何で泣くんだ? そんな必要もないしそう言う時でもないし。
「あたしで良ければ、何でも話して?」
あはは……。ルッキーニは可愛いし優しいな。安心するよ。
遠慮無しに全体重を預けてくる彼女の華奢な身体も、あと数年も経てば立派なナイスバディになるかもな。
だけど、今はその無邪気な優しさが、かえってあたしの心に突き刺さる。
何ていえば良いのか……分からない。
今ただひとつ言える事。それは、彼女の前では泣かない事。
これじゃあたしは“保護者”失格だな。
「ねえシャーリー、整備うまくいかなかったの? あたしも手伝おうか?」
はは、そうだな。今日はだめだったよ。もうお終い。
あいつは話を聞かないからな。
そうだな、次はルッキーニにも手伝って貰うよ。
……え、「あいつ」って誰かって? 今は内緒って事にしといてくれよ。
大丈夫、あたしは……。
end