ribbon II


 朝日が眩しい食堂の席、いつもより遅い食事の席に着いたミーナは、彼女よりも遅れて席に着いたトゥルーデを見つけ、
少し驚いて見せた。
「あらトゥルーデ、どうしたの」
「ん? どうかしたかミーナ?」
「私が聞いてるのよ。いつもなら隊の中でも早くに食事する貴方が、今日はこんな遅いなんて」
「いや、それは」
 恥とも照れとも言える顔を作るトゥルーデ。良く見ると、髪結いのリボンが片方無く、辛うじて結ってある方も、
今にも解けそうだ。
「あら、その髪」
「ああ。このリボン、大分使い込んで居たから、とうとうボロボロになってしまった。もう結べないな」
「なら、新しいのを……」
「そうなんだが。でも……」
 トゥルーデは手元の使い込まれたリボンを見つめ、名残惜しそうに微笑む。
 そんな彼女を見たミーナはふふっと笑った。
「それは取っておけば良いわ。確かこの前送られて来た補給物資に、日用品とか生活用品が有ったから、探せば有るんじゃないかしら」
「そうか。それは助かる」
 トゥルーデはそそくさと食事を済ませると、代わりのリボンを探しに、駆け足で出て行った。

 リストを元に物資を漁ると……果たして、積み荷の中から、髪結い用かどうかは分からないが、幾つかリボンが出て来た。
 鮮やかで、色の種類も太さも豊富だ。
 その中から今までと同じ色柄のものを選び、髪を結ってみる。
 しゅるりと、簡単に解ける。
「ありゃ。……困ったな」
「何が?」
「いや、髪が……って、居たのか?」
 背中にエーリカが張り付いているのに気付かず、驚くトゥルーデ。
「真後ろ取ったー」
「こう言う時にそう言う事を言うもんじゃない」
「なに? 非常事態?」
「見て分からないか?」
「トゥルーデ、髪切った?」
「どうしてこの状況でそうボケられるんだ」
「冗談冗談。リボン取りに来たなら、ここで結ばなくても」
「自室だろうと戦場だろうと、いつ解けてもすぐ結び直せる様にだな……」
「良いから、行こう」
 エーリカに手を握られ、部屋へと連れ戻される。

「それでエーリカ」
「何、トゥルーデ?」
「このリボンは光沢が有って手触りも良い。上等な品だ。但し」
「但し?」
「滑り過ぎなんだ」
「それ、普通は滑らかって言うんだよ」
「しかしだな……私の髪に合わない様だ。どうも、いつもみたいにうまく結べない」
 何度か試し、そのたびにしゅるりと解けてしまうリボンを見て溜め息を付く。
 しゅるり、とエーリカはトゥルーデの胸のリボンを解いた。
「こら、何処を解いてるんだ」
「こっち使ったら?」
「胸はどうするんだ」
「そのままで。お得だよ」
「だらしないだろう。それに誰が得をするんだ」
「私と……ミヤフジ?」
「何故エーリカと、宮藤が」
「そそ、こうやって」
「こら、やめろエーリカ……くすぐったい」
 こちょこちょとトゥルーデの胸元をいじるエーリカの髪の毛が、トゥルーデの頬と鼻先を擦る。
 エーリカのおふざけか、制服の上とシャツも少しはだけ、ネクタイ代わりに結んでいる胸のリボンも結び目を解かれる。
「ちょ、ちょっと……」
 言葉が止まる“堅物”。
 エーリカは手を休め、トゥルーデを改めてじーっと見た。
 いつもの、がちがちに結んだ髪も、きちっと決まった制服の姿でもなく……ゆったりと髪を垂らし、
服のシワもぞんざいに、少し胸をはだけた感じで少しだけ照れている、いとしのひと。
「良いよ、トゥルーデ。こりゃファンが増えるね」
「何だ、ファンって」
「私、ファンだから」
「何だそれは」
「で、ファンは私だけ」
「どうして」
「私だけのトゥルーデだから。誰にも渡さないよ」
「あのなあ……」
「とりあえず」
 エーリカはトゥルーデの横に座ると、髪に半ば埋もれた耳をかき分け、そっと口付けした。
「ひゃうっ、何を……」
「トゥルーデのせいだよ。そんなに色っぽいから」
「エーリカが勝手に私を遊んで……」
「とりあえず、今日はトゥルーデそのまま」
 答えるスキを与えず、今度は唇を塞ぐ。
 長い長いキスを味わい、深く呼吸する。息が熱くなるのが分かる。
「エーリカ、今日は何かおかしいぞ」
「トゥルーデのせいだかんね」
「意味が分からない」
「分からなくて良いよ。でも、今日は私に付き合ってよ」
「付き合うもなにも……」
 私達は非番じゃないか、と言う言葉が出せない。
 エーリカの執拗な口吻と、肌を這う舌の攻撃に耐えかね、あふう、と吐息が漏れる。
「トゥルーデ……」
「分かったよ、エーリカ」
 トゥルーデは髪を結ぶ事も、リボンを何とかする事も、服を直す事も諦め……エーリカをよいしょと抱えると、
ベッドに連れて行った。にしし、と笑うエーリカ。

 二人は夕食を過ぎても部屋から出てこなかった。
 その事では、誰も何も言わなかった。

「あれ、包装用のリボン、何処行ったんだろう……」
「おかしいね、もう一回ミーナ中佐に聞いてみようか」
 リーネと芳佳は、補給品のリストを見ながら、首を傾げた。

end



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