Alright!!
ここは基地内の廊下。
窓のある角っこでビューリングと智子は話をしていた。
「ねえ…私たちのこと、バレてないわよね?」
と周りをキョロキョロする智子。
「ああ、大丈夫だ」
心配する智子をよそに、タバコを吹かすビューリング。
「…ねえ、エリザベス」
「やめろ、恥ずかしいだろその呼び名…」
珍しく顔を赤くするビューリング
「良いじゃない、2人っきりなんだし」
「…なんだ」
「あなた平気なの?私がその…毎晩その…ハルカやジュゼッピーナに…」
「別に」
「ちょっ、ちょっと!!すっ、少しは妬いても良いんじゃない??!!」
「別に私はお前と『カラダ』目的で付き合ってるんじゃない」
「それはよくわかってるけど…」
「なんだ…して欲しいのか?」
「へ…?」
ビューリングが発言した後、いきなり廊下で智子を押し倒す
「ちょっ…エリザベス!!正気??!!」
「いつだって私は正気だ」
「後でするから今はっ!!!」
バサッ!!!!
「………」
「っ!?ウルスラ曹長?!」
「おっ、お前いつから…!?」
2人が廊下にて押し倒したり、押し倒されている間に
いつの間にかウルスラが彼らの後ろに立っていた。
そして、ウルスラの周りには書類が散乱していた。
「あー、あのな…これはな」
珍しくあたふたするビューリング。
「これはね、その…運動?金魚運動?いや、ツイスターゲーム?」
支離滅裂な事を言い出す智子。
あわてる2人を尻目に、
「………」
無言で散乱した書類を拾い集め、傍の会議室へと入って行った...
「………」
「………」
「………どうするんだ?」
「み…見られちゃったわね…」
「終わりだ、いっそ私を殺してくれ…」
「それは同じよ、エリザベス…」
「………」
「………」
2人は10分間、何も言わずその場で茫然と立っていた。
ガチャッ...
すると、先ほどウルスラが入って行った会議室のドアが開く。
「あの~ぅ…智子中尉とビューリング少尉、そろそろ入ってくれます?ミーティングがそのぅ…始まるんですけど」
声の主はエルマであった。
***
「遅いねー、トモコとビューリングー。日が暮れるかと思ったねー」
「………」
「………」
無言でそそくさと部屋へ入る2人。
「さて、始めましょう!」
「…何を始めるのよ?」
そしてやっと智子が口を開き、
「以前から行ってたじゃないですかぁ!!『いらん子中隊』って名前があんまり良くないんで改名しようって!!」
「なんかそんなこと言ってたわね…」
『こんなくだらない事でわざわざ会議なんか開かないで!』と普段なら怒る智子だが、今日はそれどころの気分じゃない。
彼女が気になるのは、一応『会議中』にも関わらず学術書を読み漁っているウルスラのことだ。もちろんビューリングの視線もウルスラへ向いている。
「トモコ中尉とビューリング少尉!」
「はっ、はぃぃぃ?!」
「…っ?!」
「ちゃんと会議に集中してください!!」
「ごめん」
「済まない…」
「じゃあ始めますよ~!ジャ~ン!」
珍しくノリノリで、進行役兼書記係を引き受けたエルマは机の下から段ボールで作られた投票箱を取り出す。
「これって何ですか?」
と疑問の声を上げるハルカ。
「あ、これ食堂の脇にあったわ」
実はこの箱の存在を知っていたジュゼッピーナ。
「はい!基地のみんなにも考えてもらおうと思って投票箱を設置したんです!もちろんハッキネン司令の許可を取ってます!」
エルマが箱をひっくり返すと、投票用紙がドサッと出てくる。
「見てくださいこの反響!いかにこの部隊が好かれているかわかりますね!」
「やったねー、エルマ中尉!」
「いやいや、これもキャサリンさん達のおかげですって!」
「…早く開票しなさいよ」
「あ、すみません;;じゃあ始めますよ!『エルマタイム』!」
「エッ、エルマタイム?」
「じゃあ発表します!!!!」
と明るく、大声で投票用紙をランダムに選び、開いて読み上げる。
「スオムスいらん子中隊」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…次、読みますね」
先ほどの勢いは何処かへ行ってしまったのか、急に声のトーンが落ち発表をし続けるエルマ。
「『スオムス義勇独立飛行中隊』……『スオムスいらん子中隊』……『スオムスいらん子中隊』……『スカイガールズ』……『スオムスいらん子中隊』……『スオムスいらん子中隊』……」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…まだ続けますかぁ?!」
何故か涙目で、そしてキレ気味で一同に話しけるエルマであった…。
***
「エルマ中尉は?」
「あぁ、さっきキャサリンが部屋に行って慰めに行きましたー。精神的ダメージが強すぎて、大泣きしているそうでーす」
「まああんなに張り切ってましたもんねぇ、少しでも悪いイメージを払しょくしようと必死でしたもん」
「あんなんじゃヘコむわよ…」
そしてハルカは残りの投票用紙を取り出す、
「他にどんなことが………うわ、半数以上が『スオムスいらん子中隊』。まあこの名前、浸透してきましたもんね」
「あとは『第08MS小隊』だの『ハイスクール奇面組』だの」
「『バーミヤン』だなんて…コイツ、真面目に考えて投票してないわ」
「『トイレが詰まりやすくなっています。修理してください』だって」
「そうそう、私も思ってました。でも御意見箱になってる…」
そして智子はある一枚の投票用紙を取り上げる、
「えと何なに、『トモコ中尉とビューリング少尉は付き合ってる』…っ!!??」
ドスンッ!!!!
「ちょっ…ビューリング少尉、どうしたんですか??!!」
何故かビューリングは椅子から転げ落ちていた...
「こっ…これ…っ!!」
「嘘よっ!!嘘だわっ、こんなのっ!!!!こんなの、誰が書いてこの箱の中に入れたの??!!」
「さ、さあ…;;;」
「落ち着いてください智子中尉;;」
刀を取り出した智子を必死に取り押さえるハルカとジュゼッピーナ。
「それにビューリング少尉、タバコ持つとこ…逆ですよ」
「え?………熱っ!!!!」
***
「大丈夫ねー?」
「大丈夫だ、問題ない」
「…それどっかで聞いたことあるフレーズねー」
「良いから早く包帯を巻け!」
誰も居なくなった会議室にて、キャサリンはビューリングの手当てをしていた
「それにしてもどうしたねー?」
「あのなあ!人のプライベートをいちいち詮索するな!」
「悲しいことを言わないでねー、私たち『スオムスいらん子中隊』仲間よー?」
「はああ…」
キイィッ...
部屋に入ってきたのは…、
「ウッ、ウルスラ…?」
学術本を片手にウルスラが入ってきたのであった。
「ごめんなさい。ここまで大事になるとは思わなかった」
「やっぱり犯人はお前か…」
「???」
「…悪いがキャサリン、ちょっと席を外してくれないか?」
「えー」
「『えー』じゃない、出てけ」
「はーい。用事が済んだら呼んでねー」
とキャサリンを退室させた。
「あのなあ…お前なあ…」
「こんな大事になった事は謝る、けど発表した事は謝らない」
「………お前っ!!」
「2人が付き合ってる事を発表して何が悪いの?」
「そっ、それは…」
「見てて、すごくもどかしい」
「は???」
「堂々と発表した方が、清々する」
「は…はあ…;;」
あまりのウルスラらしくない発言に、とても驚くビューリング。
「ビューリングにはどこか、罪悪感でも感じてるの…?」
「罪悪感?何がだ?」
「親友を死なせてしまった自分は、恋愛なんかしてはいけないって」
「…そこまでは思っていないが…でも確かに、そうゆう身分ではないと最近まで思っていた」
「なんで過去形?」
「トモコが変えてくれたんだ、私を」
「トモコ中尉が?」
「ああ。つい最近まで私は…悪夢に魘されていた、親友だったアイツを自分が殺してしまったんだと」
「………」
「そんな魘されてる時、ふと目を覚ますと心配してくれたのか額にかいた汗を必死に拭いててくれたんだ。トモコは」
「それがきっかけ?」
「まあ…そんなところだ。私を闇のどん底から救ってくれた」
「………」
「色々なアドバイスしてくれたぞ、アイツが死んでから一回も墓に行ってなくて…今度行くべきだと言ってくれたり」
「…じゃあなおさら、発表すべき」
「あのなあ…私はな、」
「ビューリング少尉はトモコ中尉が好き」
「…な、何故話が一番最初に戻るんだ??!!」
「中途半端に付き合うのはトモコ中尉に悪い…と思う」
「…そうか」
そして夕食時、
「えと…お前らに報告がひとつある」
「あ、あのね…みんな…」
そうして、『交際宣言』をした智子とビューリングであった…。
「あ、あの…ついでにやはり『スオムスいらん子中隊』の改名も…」
「もうその事はどうでも良いねー…;;」
【おわり】