high wind
強風吹きすさぶ501の基地。
隊員達は基地の中に閉じこもってしまったが、あえてこの風の中、外で過ごすウィッチがふたり。
「珍しいね、こんな風強いなんて」
「ああ。これは離着陸が大変だ。気をつけないとな」
ベランダから滑走路を眺め、ぼんやりと呟くエーリカとトゥルーデ。
「今日の哨戒任務誰だっけ?」
「シャーリーと宮藤だったか……、まあ、あの二人なら大丈夫だろう」
「そうだね。ミヤフジがちょっと心配?」
「まあ、大丈夫じゃないか?」
気にしてないぞ、と言う顔を作るトゥルーデ、それを見てふふんと笑うエーリカ。
午後の休憩(お茶会)も基地のミーティングルームで……と言う事になり、外のベランダに出て辺りを見ているのは
エーリカとトゥルーデの二人だけ。
「まさか、お前のせいじゃないだろうな」
不意にトゥルーデが呟く。
「どうして私?」
数秒の沈黙の後、トゥルーデはぷいと横を向いた。
「いや、何でもない」
「まさか、私の固有魔法が暴走したとか言いたい? またまた~」
「……」
顔を見せないトゥルーデを見て、エーリカはトゥルーデの肩をぽんぽんと叩いた。
「あれ、マジだった? トゥルーデが冗談言うとはねー。こりゃ今夜は大荒れだよ」
「そこまで言うか!? ……ちょっとした冗談のつもりだったんだ」
「みんなには言わない方が良いよ。多分私以上の反応するだろうから」
「言われなくても」
ようやく横顔を見せるトゥルーデの頬は、ほんのり赤く……それは強風のせいか、照れのせいかは分からない。
「ま、この風に対抗してみても良いんだけどね」
両手を風に向かって突き出してみるエーリカ。慌てて止めるトゥルーデ。
「無茶は止めろ。変に力が掛かって、基地が壊れたりしたらどうするんだ」
「それもそっか」
結局、ベランダに肘つき、風もお構いなしに流れゆく風を感じる。
ぼんやりと眺める辺りの景色は……海が激しく波打ち、木々が風に翻弄され、時折何かのゴミか紙屑が飛んでいく程度には、
普段よりも変化はしていた。しかし、大嵐が来た程ではなく、ただただ風が強いだけであった。
ぶわっと、空気の塊が二人を包み、一瞬で抜けていく。
風圧に圧され少しよろけたエーリカの肩を、がっしりと掴むのはトゥルーデ。
ただ力が強いだけでなく……さりげない優しさも持った、501の「頼れる姉」。
エーリカはそのまましだれ掛かり、そして手を伸ばし、トゥルーデの髪縛りを片方解いた。
「お、おい!」
またも吹き抜ける一陣の風。
エーリカが持つリボンの軛から解き放たれたトゥルーデの髪は、片方だけ、ざーっと押し寄せる空気に流され、激しく波打った。
「これだから、私は縛っていた方が良いんだ……落ち着かない」
「私は別に良いけどな」
「どうして」
「楽しいし、トゥルーデっぽいし」
「私っぽい? 何処がだ」
「ベッドの上で眠るトゥルーデ?」
「な、な、なんてことを……」
「にしし」
「とりあえずリボンを返せ」
「部屋戻ったらね。今こんな風の中でうまく縛れないでしょ。リボン飛んでくのも嫌だし」
そう言うと、エーリカはリボンを服の胸ポケットにしまった。
「全く……」
「あ、見て。シャーリーとミヤフジだ」
ハンガーからよろつきながらタキシングしてくるシャーリーと芳佳を見る。
「今から任務か。強風で……大丈夫か」
「さっきトゥルーデ大丈夫だって言ったじゃん」
「まあ、そうだが」
「じゃあ、見てようよ」
「ああ」
シャーリーと芳佳のロッテは……ふらつきながらも離陸した。離陸直後、シャーリーと芳佳がこっちを見た。
控えめに手を振るシャーリーと芳佳。エーリカとトゥルーデも手を振り返す。
やがて、シャーリーと芳佳はストライカーを加速させ、あっという間に上昇した。
「雲の上に出るつもりか……上空の風はどうなっているんだ」
「そこまで心配?」
「いや、大丈夫だな」
「そそ。問題ないってね」
エーリカはそこで、くしゅんと小さくくしゃみをした。トゥルーデはハンカチを取り出しエーリカの鼻を拭く。
「もう戻るか。あんまり風に当たり過ぎても良くない。ストライカーも無しでな」
「そう言えば、何で外の様子見ようって事になったんだっけ?」
「それは……」
言われて気付く。その辺りの記憶が何故か曖昧な事に。
まあ、良いか……。トゥルーデはそう呟くと、エーリカと一緒にミーティングルームに向かった。
きっとリーネが二人の為に熱いお茶を淹れて待っているだろう。残った連中が少なからず茶化すだろう。
しかし501とはそう言う部隊であり、そんな家族的な雰囲気こそが強さの源かも知れない。
きっとミーナは控えめに、美緒は豪快に笑うだろう。それで良いのだ。それが501なのだ。
end