reheater
倉庫の片隅で、何やら荷物らしき物体と格闘している同僚を見つけたトゥルーデ。
何をしているかと思い近付きながら声を掛ける。
「どうしたリベリアン」
振り向いたシャーリーは、一瞬ぎくりとした顔をしたが、トゥルーデの顔を見ると、無理に笑顔を作った。
「あ、堅物か。バーベキューしようと思ってさ。準備してたんだけど……」
言ったそばから、ごろんと転がり落ちる、ドラム缶の破片。
「そのドラム缶……前に作ったバーベキューグリルとか言う……」
「そう。こっちでも一応作ったんだけど、圧力弁がうまく開かなくてね……」
機械いじりが得意なシャーリーが、自ら作った仕掛けを前に、何やら自信なさげだ。
「空気弁だろう? 見た目単純な構造なのにな」
前に見た装置を再度眺め、ぽつりと言うトゥルーデに、シャーリーは言葉を返す。
「機械音痴なあんたに言われるとちょっと腹立つけど……まあ、実際そうなんだけどさ」
「どこかに何かが引っ掛かってるんじゃないか? 試しに、誰かに切って貰ったらどうだ」
「切るって?」
「例えば少佐に……」
言いかけて言葉を止めるトゥルーデ。
考え込むシャーリー。そして、ドラム缶を指差して言う。
「あの人、グリルを縦まっぷたつにしそうだからやめてくれよ」
「まさかドラム缶を扶桑刀で斬るなんて……。いや、そう言えば確かネウロイ斬ってたな」
「だろ? だから少佐は良いって」
“調節”以前に“破壊”されそうな不吉を感じ取ったシャーリーは、両手で「NO THANK YOU」の仕草をした。
「じゃあ、簡単な網焼きの方で良いんじゃないか。いつも豪快に火柱を上げてやっている……」
トゥルーデの提案を聞いて頷くシャーリー。
「ああ、グリルね。まあそれでも良いか。せっかくだから堅物もどうよ」
「暇だし手伝ってやらん事もない」
言い終わると同時に、ぐうぅ、とトゥルーデの腹が鳴る。横を向き、無かった事に出来ないか辺りに視線を巡らすも
陽気なリベリアンの前では無駄だった。
シャーリーは笑いながら真面目なカールスラント軍人に声を掛ける。
「素直に腹減ったって言えないのかねー。じゃあ、グリルの準備するからこっちのドラム缶持って。あと炭と……」
重量物ばかりを指定され、疑惑の目を向けるトゥルーデ。
「何だか重労働じゃないか、私だけ」
「魔法を有効活用するのさ」
「納得いかない」
「まあ良いじゃないか。とりあえず、これバルコニーに運んどいてくれ。あたしは肉と野菜の下ごしらえしてくる」
「お、おいっ! 私にこっちを全部やれと言うのか!?」
「運ぶだけでいいよ。まあ、火くらい起こしてくれても良いけど。うまく出来るかい?」
「火起こし位出来るに決まってるだろう。カールスラント軍人を甘く見るな」
「じゃあそう言う事で宜しく」
「ま、待て!」
三十分程経過した後、二人は再び顔を合わせた。それぞれが準備した用具と、具材を突き合わせる。
満足そうに頷くシャーリー。横で腕組みし様子を見るトゥルーデ。
グリルに種火と炭をセットし……火を付け……炭がオレンジ色になる程加熱した所で、下ごしらえした肉やら野菜を
適当に載せ、じゅうじゅうと香ばしい音を上げ、焼いていく。
「こんなに肉を使って大丈夫なのか」
腕組みして様子を眺めるトゥルーデ。
「宮藤とリーネが使って良いって言うから持って来た。大丈夫だろ」
じゃんじゃん盛っていくシャーリー。
「アバウトだな」
「これ位豪快な方が美味いんだ」
呆れるトゥルーデ。
「よし。もっと火力だ」
焼き加減を確かめながら、シャーリーは炭の入った袋を指差した。
「これ以上無闇に炭を入れたら、熱過ぎて肉が焦げるぞ」
「大丈夫。どさーっと」
「蒸気機関車じゃあるまいし……」
言いながらも、適当に炭を放り込んでいくトゥルーデ。
やがて立ち上る煙と、香りにつられた隊員達が集まり……ちょうど昼食の時間と言う事で……めいめいに食器と飲み物が渡され……
「イエー カンパーイ!」
全員で祝杯の音頭を取り飲み物を口にしたあと、即席のバーベキューを堪能する。
「結局パーティーみたいになってないか」
「みたい、と言うより思いっきりパーティー化してるんだけど」
辺りを見回しながら、何故か軽い疲労を覚える501の大尉ふたり。
「ただの昼飯の筈が……どうしてこうなったんだ」
他の隊員に促されるまま、肉を焼き、皿に盛り付けるシャーリー。
「ニヒー いいじゃんシャーリー! 楽しんだモノ勝ちだよ! おいし~いお肉ちょーだい!」
空になった皿を持って、シャーリーの前でくるくると踊るルッキーニ。
「こらルッキーニ、肉だけじゃなく野菜も食べないと」
「ヤダー! もっと食べてシャーリーみたいになるんだもん」
顔を見合わせるシャーリーとトゥルーデ。
「まあ、良いんじゃないか」
思わぬトゥルーデの答えに眼をぱちくりさせるシャーリー。
「珍しいな。いつもなら栄養のバランスを~とか言うのに。熱でも有るのか?」
「何を言う。私は至って普通だ。何だその疑いの目は」
「……ま、良いか。さて、あんたの相棒にもしっかり食べさせてやりなよ。待ってるぞ。ほら」
皿に肉を大盛りにして、トゥルーデに渡す。
「ああ……。そうする」
トゥルーデはエーリカの座るテーブルに向かう。
「何だかんだで、甘いね、堅物は」
ま、それで良いんだけどね。とこっそり呟くシャーリーの言葉は誰にも聞こえず。
けど、横でもふもふと料理を美味しそうに頬張るルッキーニの笑顔を見ていると、軽いもやもやとした気分も晴れていく。
「どしたのシャーリ-?」
「ん? 何でもない。ほら。もっと食べなよ」
「ありがとシャーリー」
満面の笑みにつられ、自らの顔もほころぶ。
そこへ、お皿を持って芳佳とリーネもやって来た。
「シャーリーさん、このお肉美味しいです! 何か隠し味でも?」
「塩胡椒程度だけどな。あー、ビネガー少し入れた位かな」
「へえ。凄いですねえ」
「芳佳ちゃん、どこ見てるの」
「あう……」
「あっはっは! 宮藤もしっかり食べないと大きくなれないぞ?」
「そーそー。あたしみたいにねー」
「ルッキーニちゃんに言われたくないよー」
「ニャハー 芳佳はまだまだ残念賞だから~」
賑やかな様子を見る、指揮官二人。へきしっ、と帯刀した扶桑軍人がくしゃみをする。
「あら、美緒どうしたの? 風邪?」
「いや、朝から時折……誰か私の噂でもしていたのか?」
「まさか。さ、私達もせっかくのバーベキュー、頂きましょう」
「ああ。賑やかで良いな」
ミーナと美緒の登場に隊員達は活気付き、早く早くと手を引き……いつしか、本格的なパーティーとなる。
end