故郷
なんとなく風呂に行った。
そしたらたまたまトゥルーデが居たから、いたずらをしたくなった。
私がいたずらをする度に必ず叱るトゥルーデは、絶好のターゲットだ。
まずは浴槽で手でお湯をすくって手に溜めた。
そしてにやにやしながら、忍び足でとトゥルーデに近づいた。
まあそもそもトゥルーデはシャワーを使っているのだから、足音なんて聞こえないと思うんだけどね。
「トゥルーデ」
ぱしゃっ、とちょうど髪を洗い終えたトゥルーデにお湯をかけた。
するとトゥルーデが振り向いた。
いつも通り叱ってくるのかと思いきや、トゥルーデは泣く子も黙るもの凄い形相をしていた。
要するにめちゃくちゃ怖い。
普段とは明らかに違う様子の相棒に怯えていると、トゥルーデが立ち上がり、私の後ろに回って私の頭を掴んだ。
「ちょっ・・・トゥルーデ!?」
トゥルーデが魔法を使っているのかはわからない。何せ顔が見えないから。
そして毎日鍛錬を欠かさない怪力のトゥルーデは、私の頭を掴んだまま浴槽に向かって歩き始めた。
引きずられるのは嫌だったので大人しく歩いた。
そして浴槽に到着。と言っても大した距離じゃないんだけど。
そしてお湯に浸かり、頭を押さえつけられた。
要するに沈んでるよ。やばい。息が出来ない。
ごぼごぼがはっ。
なんとかトゥルーデの拘束を逃れて浮き上がることが出来た。
トゥルーデは私の頭ををもう一度押さえつけることはしなかった。
「何?どうしたのさ、トゥルーデ。」
相棒のあまりにも唐突な行為に疑問を感じ、驚愕しつつも聞いてみた。
トゥルーデは何も言わない。
静かな青く澄み渡る空を眺めている。
「カールスラントが恋しいの?」
すると、トゥルーデはさっきの恐ろしい表情から一変して、間の抜けた顔をこちらに向けた。
「エーリカ、なんで」
わかったんだ、と言おうとした相棒の声を遮って、私は言った。
「わかるよ、それぐらい。何年の付き合いだと思ってんのさ。」
そしたらトゥルーデが真面目に数え始めたので、びっくりした。
「え、ちょ、覚えてないの?」
私が焦っていると、トゥルーデが
「冗談だ。覚えてないはずがないだろう?」
トゥルーデがあんまりにも綺麗な笑顔で言ったもんだから、私は言葉を失ってしまった。
照れているのを誤魔化すように、私は慌てて話を変えた。
「えっと、で、さっきのは?なんでやったの?」
「ん?ああ、あれか。」
「もしかして私が掛けたお湯が目に入ったとか?」
「いや、そんなことはないさ。故郷での思い出に浸っていたらお前が邪魔してきたんだ。だから仕返ししようと思ってな。」
そういうことだったのか。浴槽に浸かりながらならまだしも、髪を洗いながらなんて、変わってるなあ。
「どんなこと思い出してたの?」
トゥルーデは目を閉じて、思い出に耽り始めた。
「クリスの事、両親の事、そしてお前の事だ。」
クリスだけかと思ったら、意外にも私の名前が出てきた。
「あ、私もいるんだ。」
「ああ、お前がまだひよっこだった頃の事はよーく覚えているさ。」
「えっなにそれ恥ずかしい・・・そんなの忘れてよ!」
「何を言っているんだ、501でお前のあの時期を知っているのは私だけなんだぞ。」
「弱み握ってるだけじゃん!」
「普段散々振り回されてる分、切り札は持っておかないとな。備えよ常に、だ。」
「それ使い所間違ってない?」
「間違ってなんかいないさ。それにしても、お前は故郷に思いを馳せることはないのか?」
「まあたまにはあるけど・・・そんなしょっちゅうしないよ。」
「勘違いをするな、私だっていつもしているわけではないぞ。たまにだ。」
「へえ~。」
故郷ねえ・・・ネウロイさえ居なければ、あの地で平穏に暮らせてたんだろうなあ。
でもそしたらトゥルーデにもミーナにも・・・501の皆とも会わなかったわけだよな。
それはなんか寂しい。
それに、皆と出会って、私は変われたから。
トゥルーデもそうだ。
良い意味で変わった。
そして実感した。
トゥルーデはやっぱり、私の最高のパートナーだと。
「トゥルーデー」
「何だ?」
「大好きー」
「!?!?!?ななな何を言って・・・!」
トゥルーデ顔真っ赤。可愛いなあ。
そんな愛おしい彼女をにまにましながら見つめ、言った。
「もー初めて言った訳じゃないんだからさー、いい加減慣れてよ。」
「無茶を言うな!慣れれる訳がないだろう!」
「トゥルーデは私のこと好きー?」
「すすす好きに決まっているだろう!?」
うん、トゥルーデってほんとに可愛い。最高だよ。
これからも末永くよろしくね、相棒。
END