納豆ケーキとエーゲルについて
ストライクウィッチーズがロマーニャに再結集して間もない頃。
今日もカールスラントのエースコンビによってブリタニアに居た時と変わらない行為が繰り返されていた。
しかしそんな日常も、微妙に変化していた。
理由は、その2人が相部屋になったからだ。
ドアから見て右側がトゥルーデの、そして左側がエーリカの領地である。
当たり前の如く、エーリカの領地は非常に散らかっている。
2人の領地の境に有る赤い「ジークフリート線」を越えて、エーリカの私物は早くもトゥルーデの領地に侵入していた。
それを一瞥し、溜息をついてトゥルーデは何処にいるのか分からない相棒に声を掛けた。
「エーリカ!そろそろ起きんか!もう昼だぞ!」
すると、ゴミの中からエーリカの声がした。
「あと90分ー。」
もしかしたらこいつはゴミの妖精なんじゃないか、などとかなりどうでもいい事を考えつつ、トゥルーデはゴミに向かって怒鳴った。
「馬鹿げた事を言っていないでさっさと起きろ!お前は緊張感が無さすぎる!ここは最前線なんだぞ!?」
「zzz・・・」
エーリカは何を言っても起きそうにない。トゥルーデは本日2回目の溜息をついた。
「まったく・・・。」
とか言いつつも、どこに行っても変わらない相棒にトゥルーデは安心感を覚えている。
食べ物の匂いでも嗅げば起きてくるだろうと、エーリカを起こすのを諦め、部屋を出て食堂に向かった。
そこにいたのはミヤフジとリーネ、そしてシャーリー。
ミヤフジとリーネは楽しそうにデザートの支度をしている。
シャーリーは椅子に腰掛けて大人しくデザートの登場を待っている。
シャーリーがトゥルーデに気づき、振り向いて非常に爽やかな笑顔で声を掛けた。
「おはようございます、バルクホルン大尉。」
入り口に立っていたトゥルーデは訝しげな顔をして後ずさった。
「何だその呼び方は。お前にそう呼ばれると気味が悪いぞ。」
トゥルーデにそう言われると、シャーリーの
態度は一変した。
「なんだよ折角ちゃんと呼んでやったのによー。それはあんまりじゃねえか?」
不服そうなシャーリーに、トゥルーデは呆れた表情で言葉を返す。
「お前の普段の行動が悪いからだ。自業自得だな。」
そう言って食堂に入り、シャーリーの向かいに座った。
シャーリーはつまらなさそうにしながらトゥルーデを目で追いかけて、話を変えた。
「そんな事よりバルクホルン、お前何であいつの事名前で呼んでるんだ?」
「あいつ」と言われて一瞬誰の事かと思ったが、直感的にエーリカの事だと感じ取った。
「あいつとは付き合いが長いからな。自然な事じゃないか?それに、私が名前で呼んでいるのはあいつだけじゃないぞ。」
ミーナの事だって、とトゥルーデが付け加えると、シャーリーはにまにまと笑いながら
「ほおう。しかしなあバルクホルン、お前があいつの事を名前で呼ぶと何か友情以上のものを感じるんだよ。」
と言った。
「何だそれは。ふざけたことを言うな。」
トゥルーデが冷静に反論すると、ミヤフジがケーキを持ってやって来て言った。
「違うんですか?」
「な、宮藤!?お前まで何を言っているんだ!」
「てっきりそういう関係なんだと思ってました。」
ミヤフジと一緒に来ていたケーキを机に置きながらリーネが言った。
トゥルーデは更に驚いたが、とりあえず異臭を発しているケーキについて質問した。
2人は話していて異臭に気付くのが遅れたのだ。
「なあ、そのケーキなんだか変な匂いがするぞ?」
ミヤフジは嬉しそうに笑った。
「ああ、これですか?納豆ケーキです。納豆は体に良いんですよ。」
「それは分かったんだが、何故ケーキなんだ?」
「折角だし、美味しくしようと思って。リーネちゃんと一緒に作ったんです。」
ね、とリーネと笑い合うミヤフジ。
「そ、そうか・・・。」
トゥルーデはケーキを凝視した。
ケーキの断面からは納豆がのぞき、上には納豆が苺まさしく乗っている。
トゥルーではこんなに納豆たっぷりでよく形になったものだ、と感心した。
一応ショートケーキのようだったので、トゥルーデはこのケーキを「苺ショートケーキ」ならぬ「納豆ショートケーキ」と名付けようと決めた。
シャーリーは驚きのあまり何も言えず、トゥルーデと共に納豆ショートケーキを凝視している。
「流石にこれはちょっと・・・。」
とトゥルーデが遠慮がちに言うと、ミヤフジとリーネはしゅんとした。
「あっ、いや違うぞ!?凄く斬新な発想でびっくりしただけだ!」
しゅんとしていた2人がぱあっと顔を輝かせた。
「本当ですか!?では早速食べてみて下さい、きっと美味しいですよ!」
「え・・・。」
何も考えず必死にフォローした結果がこれだよ・・・。
トゥルーデが頭を抱えていると、眠そうなエーリカがやって来た。
「ふあ~、4人共何してんの?」
救世主がやって来たと言わんばかりに、トゥルーデは嬉々としてエーリカに話し掛けた。
「丁度良かった、エーリカ!これを食べてくれ!」
トゥルーデはエーリカを自分の左隣に座らせ、一切れの納豆ケーキとフォークが乗っている皿を差し出した。
「何これ、変な匂いする。」
エーリカは嫌そうな顔をした。
「い、良いから!体に良いしきっと美味しいぞ!」
エーリカはトゥルーデの必死さに押し負かされ、
「分かったよ・・・。」
と言ってフォークでケーキを食べ始めた。
自分には白羽の矢が向けられていないことを悟ったシャーリーがようやく正気に戻った。
本題を思い出し、真剣な表情でトゥルーデに話しかけた。
「それで実際どうなんだ?」
やっぱりこのケーキ不味いと呟くエーリカを見ながらシャーリーが言った。
「まだ言うかリベリアン。決して私たちはお前が思っているような間柄ではない。」
「じゃあ何なんだよ?」
「ただの戦友だ。」
トゥルーデ命名納豆ショートケーキを一口だけ食べたエーリカが会話に入ってきた。
「シャーリー、あんま人の恋愛事情に口を挟んじゃ駄目だよ。」
「やっぱりそういう関係だったんじゃないか。」
「こらエーリカ!余計な事を言うな!大人しく納豆ショートケーキを食べていろ!」
「え~、だってあれ不味いよ。もう食べたくない。」
エーリカの言葉を聞いてまたもやしゅんとするミヤフジとリーネ。
そんな2人をよそに、シャーリーは一番正直に教えてくれそうなエーリカに話を振った。
「で、本当はどうなんだよハルトマン。」
「ひみつ~。」
意外にも、エーリカの口から肯定の言葉は出なかった。
「ちぇっ、ケチくさいなあ。教えてくれたって良いじゃんか。」
「ぅっ・・・、ならもうエーリカとは呼ばん!ハルトマンだ!」
するとエーリカがトゥルーデの耳元に口を寄せてきて、
「勿論しかるべき時は下の名前で呼んでくれるんだよね?」
と、カールスラント語でささやいた。
「・・・当たり前だろう。」
冷静を保ちつつも顔を赤らめ、恥ずかしそうにしているトゥルーデの返事はカールスラント語ではなかった。
「そっか。そういうのもなんか良いな。」
嬉しそうにエーリカが言った。
「おいおいなんだよ、そういうのずるいぞ。」
「悔しかったらカールスラント語勉強しなよ。」
勝ち誇った顔で挑発的にエーリカが言った。
シャーリーが悔しげな顔をしているとフランカがやって来て、シャーリーの膝の上に寝転がった。
「あ、ルッキーニ。」
「ルッキーニちゃん、ケーキ食べる?」
ミヤフジが納豆ショートケーキを勧めると、ルッキーニは即座に断った。
「いらな~い。」
「お、本能で悟ったか?」
「どういう意味ですかシャーリーさん!」
ミヤフジとリーネが頬を膨らませて息ピッタリに言うと、シャーリーは笑い飛ばした。
「あっはっは、そう言う意味だよ宮藤軍曹、ビショップ曹長!」
「相変わらずだな。納豆ショートケーキはもうやめて欲しいが。」
「相変わらずだね。納豆ショートケーキはもうやめて欲しいけど。」
同じタイミングで同じ事を言った二人は笑いあった。
土地は違えど、ストライクウィッチーズの変わらない日常。
微かな変化は、少女達に何をもたらすのだろうか。
そんな中、ミヤフジとリーネは納豆ショートケーキ喜んで食べてくれそうなもっさんとミーナの来訪を待つのであった。
END