hunter life


 トゥルーデはふと目を覚ました。いつものベッドの筈が、肌に触れるシーツが妙にちくちくと感じる。
 部屋で寝ていた筈が……どこか異国の地に見える。色とりどりの木の葉が舞い、遠くから川の流れも聞こえる。
 ゆっくりと身体を起こして気付いた。見覚えのないモノを身に纏っている。
「何だ、これは?」
「似合ってるよ、トゥルーデ」
 横から聞こえたエーリカの声。振り向くと、彼女も何やらいつもとは違った服装……いや、「鎧」を着込んでいる。
 しかし鎧と言っても妙なもので、中世の騎士団が着用していたものとは何かが違う……何かの素材を豪快に使っている感じだ。
「さて、リミットは五十分だよ」
「何の事だ?」
 エーリカは短めの剣を二本、肩に掛けると歩き出した。
「おい、ちょっと待て、私には何が何だか」
「大丈夫よ、トゥルーデ」
 ベッドの脇、焚き火の前でくつろいでいるのはミーナ。ミーナも何か不思議な鎧を纏っていたが、出撃する雰囲気ではない。
「フラウ、トゥルーデ。エリア6に反応。翼は畳んで……今は随分とリラックスしているみたいね」
「じゃあ、さっさと行ってぼころう」
「?」
 銃は? 私のMG42は? ストライカーは? と言うかここはどこだ?
 色々と質問したかったが、その場の雰囲気に気圧され、ああ、と頷くしかできない。
 ミーナの横では、いつもより大き過ぎる……扶桑刀に似た刀……を背負った美緒が、遠くを魔眼で見ていた。
「弱点は頭、雷属性に弱い。ペリーヌがトネールを使えばな……。破壊可能部位は……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ少佐。私には何の事かさっぱりわから……」
「ほら」
 美緒から、ひとふりの「ハンマー」を渡される。拳銃の一部をやたらと大きくした様な、不格好な武器。
「とりあえずこれでも何とかなるだろう」
「は、はあ……」
「大丈夫、お前ならすぐやれるさ……本当は私も行きたいんだが、ミーナに止められてな」
 刀の柄に手を掛け、物凄く残念そうな美緒。しかし服の袖をミーナがぎゅっと握っている辺り、強烈な意思表示と見える。
「まあ、少佐はミーナとここでゆっくりしていてくれ」
 トゥルーデはよいしょとハンマーを担ぐと、エーリカの後を追った。

「エリア6に行くには、こっちが良いんだよ」
 小さな滝の横を抜け、ごつごつした山肌をとことこと走っていくエーリカ。
「なあ、ハルトマン」
「大丈夫、皆も先に行ってるから」
「皆? ああ、他の奴等か」
「あ……ミヤフジ達が敵に見つかった」
 ぽつりと呟くエーリカ。
「おいおい。急がないと」
「大丈夫、裏からシャーリーとルッキーニも回って来ているし、辺りの雑魚はエイラとサーニャが片付けてるよ」
「なるほど。それは心強いな」
「あそこの谷を下りるとエリア6。急ごう、トゥルーデ」
 そこで、ぐうう、とトゥルーデの腹が鳴る。
「そう言えば、何か腹が減ったんだが……」
「はいどうぞ」
 慣れた感じで、コンロを渡される。と言ってもシャーリーが簡単なバーベキューをしそうな程度には大きい。
「エーリカ、お前どこからこんなモノを?」
「肉はさっきのエリアに居た鳥から剥ぎ取ったものを……」
「鳥? あの丸っこいやつか」
「そそ」
「なんか、色々と違う気がする……」
 頭を抱えるトゥルーデ。エーリカから生の肉を渡される。どしりと重い。
「はい、火にかけて」
 焼く事しばし。エーリカはにやにやと見ていたが、トゥルーデは加減が分からず派手に焦がしてしまう。
「ありゃ。まあ、たべてみたら?」
 がぶりとかじりついて豪快に食べるが、途中で焦げ臭さと苦さに耐えられずむせてしまう。
「私の携帯食料あげるよ。はい」
「すまない」
「さあ、急ごう。ミヤフジ達が危ない」

 谷を下りた所は、実に見事な景色が広がっていた。
 滝のすぐ脇を流れる風流な川の流れ、鮮やかな色で舞う木の葉……、そして見た事もない、大型の“生物”。
「おぉい! 何だあれは! ネウロイじゃないよな!? 違うよな!?」
「慌てない。飛竜種の一種で……」
 飛び掛かってくる巨大生物を紙一重で回避する。
「ああ、バルクホルンさんにハルトマンさん、遅いですよ……もう駄目かと思いました」
「立ちなさい宮藤さん。まだまだ行けるはずですわ。リーネさんは背後から狙撃を」
「は、はい!」

 場違いな巨大生物を相手に、これまた場違いな面子が、普段とは異なった武装で立ち向かっていた。

「あれ? 弾がない……弾詰まり?」
 銃の様子を確認するリーネ。
「リーネさん、しゃがみ撃ちするときは残弾に気を付けろとあれ程……」
「ひゃああ!」
 突進をまともに浴びてごろごろと転がるリーネ。
「ああ、リーネちゃん!」
「宮藤さん、リーネさんに治癒を」
「はい」
 三人は辛うじて連携を取っている。
「さて、私達も行こうか。トゥルーデは頭だけ狙えば良いから」
「頭? ああ」
 訳も分からぬまま、ハンマーを手に取り、敵に向かう。
「なんか戦況結構酷いね。皆、目塞いでね。行くよー」
 エーリカはそう言うと、何か手榴弾みたいなモノを投げた。途端に辺りが眩く光り、敵が立ちくらみを起こす。
 好機とばかりにエーリカは両手に剣を握り、するりと懐に潜り込むとまるで疾風の如く舞い、敵を刻んでいく。
 間も無く剣が紅く光り、エーリカの身体からもオーラが見えた。
「まずは下ごしらえ完了。さっさと行くよ~」
 更に速く、すばしこく、攻撃を避け、鮮やかに敵を斬りつけていく。思わずその動きに魅了されるトゥルーデ。
「ほらほらー。トゥルーデもさっさと頭を殴る」
「わ、分かってる!」
 重いハンマーをぶんと振り、敵の脳天目掛けて振り下ろす。敵がよろけたところで、もう一撃、さらに一撃と加える。
最後に思いっきりスイングし、頭をぐらつかせる。
「良い感じだね」
「そうか? 私にはよく……」
「お待たせー」
「ニャハー おまたせー」
 遠くから声が聞こえたかと思うと、背後からどかどかと何かが突進して来た。どんと背中を突かれ、派手に転ぶトゥルーデ。
 突進して来たのは槍を構えたシャーリー。持ち前の加速で勢いを付け、まるで敵を突き抜けるかの様にずばずばと強引にダメージを与える。
「おいリベリアン、気を付けろ! 今、私を吹っ飛ばしたな?」
「軸線上に居たアンタが悪い」
「なんだと」
「ほらシャーリー早くー」
 一方のルッキーニはえらく軽装で、異国風の銃器を手にすると、ぱぱぱんと連射を浴びせる。
「百発百中~」
 銃を手ににんまりと笑う。
「お、ここに居たカ。周りの雑魚はあらかた退治してきたから、残ってるのはコイツだけダナ」
 谷の奥から、エイラとサーニャがやって来た。
「右ダナ」
 エイラはサーニャの手を取り、ささっと位置取りをする。襲い来る敵の尻尾は見事に空を切り、弾かれた落ち葉が水に濡れる。
「ねえエイラ、もうすぐこの敵……」
 サーニャが魔導針で様子を伺う。
「ヨシ。おーい宮藤、シビレ罠準備シロー」
「は、はい!」
「ツンツン眼鏡はトネール禁止ナ。皆を巻き込むからナ」
「何度も連発出来ませんわよ!」
「トゥルーデ、ついでに脇のブレードみたいな部分も壊してね」
「注文が多いな」
 文句を言いながらも、何とかげしげしと殴りつけ、翼の端に傷を付ける。悲鳴を上げる敵。
「大丈夫。もう捕獲行ける」
 サーニャがエイラの手を握って、声を上げる。
「宮藤、準備は?」
「は、はい! 大丈夫です!」
 狙いを芳佳に定めて突進する敵。しかし途中には罠が置かれており、ビリビリと拘束される。
 そこに芳佳が何発か麻酔用の弾を投げつけた所で、敵はがくりと崩れ落ち、寝いびきを立て始めた。
「お疲れー」
「お疲れ様」
 揃った皆は口々に健闘を称え合う。
「案外早かったね。五分針ぎりぎりってとこ」
 エーリカが時計を見て言った。
「なんだそれ」
 意味が分からないトゥルーデ。
「まあいいからいいから」
「で、この寝ているのはどうするんだ」
「ギルドが引き取ってくれるよ」
「??」
「もう。トゥルーデはもうちょっと勉強しないと」
 エーリカは笑いながらこつん、とトゥルーデの兜を小突いた。

 はっと目が覚める。
 いつもの部屋の天井……いつものベッド。
 トゥルーデは自分の身体をぺたぺたと触って感触を確かめる。パジャマと、下着、ズボン以外、身に付けていない。
 当然だ。ここは501の基地の中。私は非番で……
 そこで、エーリカがすぐ横で寝ている事に気付く。だらしなく伸びた腕がトゥルーデの額に当たったらしい。
「何だったんだ……さっきのは」
 時計を見る。寝直すには微妙な時間だ。まだ十分も経っていない。
「……ん?」
 何か違和感を覚えるも、トゥルーデは首を振り、まあいい、と呟いてごろんとベッドに横になった。

end


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