ここに居なきゃいけない理由


「あなたねえ!何度言ったらわかるの?!」
「ひいっ!!トモコ中尉ぃ、ごめんなさいっ!」

廊下で、そして大声で智子に怒られているエルマ。

「戦闘の時に逃げ腰になるなってあれほど…っ!!」
「っ…!!」

必死に涙をこらえているエルマ...

「あのねえ!泣けば良いってものじゃないわよ?!」
「なっ、泣いてなんか…っ!!」
「ほら泣くわよ、3・2・1…」
「うわあああああん!!!!」
「はああ…」

すると背後から、

「Oh!トモコがエルマを泣かせたねー!」
「ちょっ、キャサリンあなたねえ!」

蜂の巣をつっついたように騒ぎだすキャサリン。
いつの間にかハルカとジュゼッピーナがエルマの背後に移動し、

「大丈夫ですよ~、エルマ中尉」
「今度は私たちがトモコ中尉を泣かせる番なんで」
「ひいっ?!」
「ト・モ・コ中尉ぃ~」
「泣かせちゃ…いけませんよぉ~」
「いっ…いやあああああ!!!!」

そうして、廊下でもみくちゃにされるトモコ。
スキを見計らい、ビューリングが食堂へ連れて行った…。



エルマの目の前に熱々のコーヒーカップを置くビューリング。

「落ち着いたか」
「はい…ひっく…」
「ったく…アイツも怒り過ぎだ」
「私が…私が悪いんです!」
「まあそんな悲観するな。後で私からもキツく言っておく」
「…ビューリングさんは」
「ん?」
「ビューリングさんは、どうしてそんな強いんですか?」
「強い?私がか?」
「ええ…」
「…何言ってるんだ、私はもの凄く弱いぞ」
「へ…???」

今まで吸っていたタバコを灰皿に一旦置く

「こう見えてもな、死んだヤツのことが今でも忘れられないんだ」
「………」
「アイツ、今生きてたらこれくらいの階級で…もっと言えば結婚してたかもしれない。何せ一人の未来を奪ったからな」

俯くエルマ...

「もっと言えば、悪夢に魘されるんだ。アイツが私のことを恨んでるって感じの」
「ごめんなさい、なんか変なこと聞いちゃって…。話題変えませんか?あ、ペンギンの可愛さについてだとか!」
「…今の流れからペンギンの話か?」
「………私、実家帰ろうと思うんです」
「は…?」
「もうわかったんです、このスオムスの空は私には守れないって」
「ちょちょちょ…ちょっと待て!どうゆうことだ?」
「その言葉通り…軍を辞めようかと。入った時は、この国を守りたい!と思いました。けど…けど今は、もう皆さんが居ます!もう私が別に居なくても大丈夫ですよ!」
「…っ!!」

ガンッ!!!!

ビューリングは近くにある椅子を蹴り、ビクッと反応するエルマ...

「ふっ、ふざけるな!!!!」
「…なんでビューリングさんが怒るんです?私がここに居なきゃいけない理由でもあるんですか?」
「それは………それはなあ!!!!」
「…ほら、すぐ言えないじゃないですか」
「………」
「すぐに言葉が出てこない…ってことは、それほどの活躍をしてないんですよ私」
「………」
「…何か言ってくださいよ!!!!」

初めてだろうか、エルマは大声を上げる。

「…ごめんなさい、もう寝ます」
「………」


***


翌朝、事件が起こる…。

朝食時にみんなが食堂で集まっていた時だ。

「…あれ、エルマ中尉は?」
「朝見たねー!買い物行ってくるとか言ってたねー」
「…おいおい、この間買い出しをしたばっかだろ?」
『………』

ビューリングの一言により、静まりかえる食堂…。

「ちょっと寝室へ行ってくる!」
「待って、私も行くわ!!」























案の定、

「ない…」
「ないな…」

エルマのベッド周辺にあったはずの、私物の本や服などが無くなっている。

「わ…私のせいだ」
「ちょっと、何言ってるのビューリング」

ビューリングは脱力したのか、ベッドに腰かけた

「あー…ちょっと吸って良いか?」
「何言ってるの…」

焦る智子と、何がどうなってるのかわからないビューリング。
タバコに火を付け、

「ふう…」

一服する。

「…よくこんな時に吸えるわね」
「…全然美味しくないな」
「当たり前よ!」
「どうして…あんなことを言ったんだろう…」
「何?!あなた、エルマに何か言ったの?!」
「言った…」
「あぁぁぁ………なんて言ったの?」
「言ったというか、答えられなかった」
「何をよ?」
「昨日な…」

立ち上がり、窓の外を見るビューリング。

「アイツから相談されてたんだ。ここに居る理由をな」
「…で?」
「答えられなかった」
「はあ…なんで…」
「じゃあお前は答えられるのか?!」
「私に振らないでよ!」
「お前だって答えられないじゃないか!どうして私が責められなければならないんだ!」
「はぁ?!責任転嫁?!」
「2人とも、うるさい…」
「「っ??!!」」

言い争っている2人の後ろには、ベッドの上で学術書を読んでいるウルスラの姿がそこにあった。

「ウ、ウルスラ…」
「あなたいつの間に…」
「朝食を摂った後、すぐにここへ戻ってきた」
「そう…」
「………」
「…今日は何日?」

…とウルスラを本を閉じ、眼鏡を外す。

「今日?6月の3日だけど」
「それがどうしたんだ?」
「そう…」
「???」
「トモコー!ビューリングー!」

すると遠くからドタドタと走って来る音がし、

「Oh!ウルスラも一緒ねー!」
「どうしたの?」
「フツーにエルマが帰ってきたねー」
「「…はぁ??!!」」


***


ドタドタドタ...

「あ、トモコ中尉にビューリング少尉おはようございます」
「おはようって…お前…」
「ちょっと!!何処行ってたの?!」
「何処に行ってたって…買い出しですが?」

エルマは手に持っていた紙袋を見せる

「あれ、キャサリンさんに言ったんですが…。買い置きのバターとかジャムとかが無くなって補充しに、あとジュゼッピーナさんからパスタを買ってきて欲しいって。あとシャンプーも!」
「…で?」
「えと…早起きしてバスに乗って市場へ行って来たんですが…どうしたんです?2人とも」
「じゃあ!お前のベッドの周りの本とか服は?!」
「今日シーツとかをまとめて洗おうと思ってですねぇ…で、ついでに周りも掃除しちゃおうって思って」
「よ…良かったぁ」
「へ??何がですか??」
「…このバカ!心配かけさせないでよね!」
「えぇぇぇ?!トモコ中尉…;;」

そして、大股開きで智子は何処かへと行った…。




























「ふう…」

辺りがシンと静かな、そろそろ日付けが変わろうかとする時間に、
ビューリングは基地の敷地内にあるちょっとした内庭でタバコを吸っていた。


「あ、ビューリング少尉」
「…エルマか」
「寝ないんですか?」
「ああ」
「そうですか…」
「お前こそ寝ないのか?」
「ええ」
「どうしてだ?」
「いやあ…なんか眠くなくって」
「そうか…」
「………」
「………」
「…昨日はごめんなさい」
「へ?あ、ああ。私こそ悪かった」
「私、もうちょっと…もうちょっとだけ頑張ってみようかと思います」
「ふん…」

奇妙な時間が、2人の間を流れる...

「…衝撃的な発言しても良いですか?」
「程度による」
「じゃあ話しますね………実は今朝、実家へ戻ろうと思ったんです」
「っ?!」

ビューリングは驚き、吸っていたタバコを地面に落としてしまった。

「荷物も纏めて、離隊届もちゃんと書いて…みんなが寝てる時間に基地から出て行こうと思って」
「………」
「けど、バレてしまったんですね~…ウルスラ曹長に」
「そ、そうだったのか…」
「今でも腕が赤くなってるんですが…必死に私を引き留めようとして、ギュッと掴んできたんです。で、ムキになって私も無理やり引っ張ろうとして…」
「珍しいな、アイツがか」
「ええ、いつもとは人が違うみたいに。ウルスラ曹長、昨日のやり取りを全て聞いてたそうです」
「………」
「あ、そもそも私はよく一緒にシャワー入ってウルスラ曹長の頭を洗ってるんです。したら、『誰が髪を洗ってくれるの?』って…怒られちゃいました、あはは」
「アイツはもう1人で洗えるだろ…;;」
「でも良いんです、その一言で…私にもちゃんと仕事があるんだって」
「…じゃあ何で外に出たんだ?」
「シャンプー」
「…は?」
「ウルスラ曹長…明日、私の誕生日だってことを覚えてたそうなんです。したら、いつも洗ってくれてるから明日は私のを洗ってくれるって」
「………」
「こんなこと言われちゃったら、出るにも出られなくなりますって」
「………」
「さてと、私明日の訓練に備えてもう休みます。おやすみなさい」
「あ…ああ、おやすみ」

部屋に戻ろうとしたエルマを、

「なあ!おい」
「はい?」
「わっ、私…おっお前のその笑顔…好きだぞ。ずっとここに居てほしいって思ってる」
「へっ?!」

そして、ビューリングは今口走ったことを思い出したのか顔を真っ赤にする...

「えっあっ…その、な…」
「もしかしてビューリングさんも『女の子好きー』なんですか?!ケモノさんなんですか?!」
「違うっ!」
「…ふふふ、わかってます。ありがとうございます、なんか…元気が出ました」
「そうか?」
「はい」
「あの…お礼してもよろしいでしょうか?」
「お礼?」
「ええ」

と、エルマはビューリングに近づき…


チュッ...


一瞬、何をされたのかわからないビューリング。
エルマは彼女の頬にキスをしたのだ…。

「…おい」
「はい?」
「なんのつもりだ?」
「お礼です」
「………」
「…私のおばあちゃんが、ケンカや励ましの言葉をもらったらほっぺにチューしなさいって言わました」
「そ、そうか…」
「おやすみなさい」
「あ…ああ」

ニコニコと、自分のベッドへ戻って行く…。

次の日、『いらん子中隊』の全員によるエルマ誕生日パーティーが行われた。
そして当時に、ビューリングはこの日を境にエルマへ特別な感情を抱くようになったのであった…。



【おわり】


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