magical girl


「ねえトゥルーデ」
 耳元に甘い声で囁かれたトゥルーデは、瞼を無理矢理こじ開ける。
 薄目で見ると、いつ起きたのか、エーリカがトゥルーデの顔を見て、にやっと笑っている。
「どうした?」
「いつもは早いのにね。寝坊?」
「何っ!?」
 慌てて身体を起こして時計を見る。まだ起床時間ではない事を確認すると、やれやれとばかりにゆっくりと身体を横たえる。
「二度寝?」
「まだ朝にもなってないだろう」
「少佐はさっき出て行ったよ」
「少佐は朝になる前から出掛けていくからな……で?」
 まだ眠気が残るトゥルーデは、曖昧に……ややぶっきらぼうに問う。
 エーリカはそんなトゥルーデを見た後、解かれてベッド上で自由に広がる髪をすくって、軽くキスをする。
「何だ、エーリカ……」
「ねえ、トゥルーデ」
 エーリカは繰り返した。
 甘い囁き。
 そして、囁きは続く。
「私達、『魔法少女』、らしいよ?」
 突然の言葉に意味が分からず、ぼんやりと数秒考えた後、どう言う事だと答えるのが精一杯。
「言葉の通り。さしずめ私は『せくしー魔法美少女』ってとこかな」
「なんだそれは」
 トゥルーデは呆れて、寝返りを打とうとした。
 エーリカは逃すまいとトゥルーデの身体を抱きしめ、顔を正面に持ってくる。
 見事に捕まった格好の堅物大尉は、眠気と呆れが混じった顔で呟く。
「私達はウィッチ、魔女だろう。違うのか」
「そうじゃなくてね、トゥルーデ」
「じゃあどう言う事なんだ」
「魔法少女」
 無邪気に繰り返される言葉を聞いて、トゥルーデは思わず笑った。
「一体何なんだ。私はもう十九で、少女と呼べる歳でも……」
「トシの話はしない方が良いよ。ミーナの前では特にね」
「何故ミーナが出てくる……」
「まあ良いから」
 エーリカは何か言いかけたトゥルーデの唇をそっと塞ぐ。
 少し呻いたトゥルーデも、エーリカの愛情を受け容れ、お互いの感触を確かめ合う。
 つつっと、唇を離す。
 微かに雫が零れ落ち、ベッドのシーツに小さな染みを作る。
「ねえ、トゥルーデ」
 彼女の声で、次に彼女が何を求めているかトゥルーデには分かっていた。

 エーリカ、お前って奴は……。

 トゥルーデは心の中でそう呟くと、エーリカの肩をぎゅっと抱きしめ、とびっきりのキスをプレゼントする。
そっと唇を這わせ、頬をなぞり、首筋にきゅっと吸い口を付ける。エーリカも負けじとトゥルーデに同じ事をする。
 やがて、目覚まし時計の存在に気付くまで……アラームはエーリカが止めたので鳴らなかった……、
二人はお互いの肌を肌で感じ、気持ちを確かめる。それを何度も繰り返す。
頭の中が、心が覚醒する。酔いしれる。お互いの感触、ココロを。

「で、結局」
 もそもそとトゥルーデは寝坊した言い訳を考えながら、エーリカに問うた。
「何が?」
「お前の言っていた『魔法少女』の意味だ」
「深く考えないの」
「何だかな。とりあえず、寝坊した理由を……」
「それは私から言うよ」
「余計ややこしくなるだろう」
「じゃあこれ、はい」
 エーリカは絆創膏をおもむろに取り出し、トゥルーデの首筋にぺたっと貼った。
「少しでも隠す努力はしておかないとね」
 はにかんで笑うエーリカを見て、かあっと頬が熱くなる。エーリカの手から一枚取ると、彼女の首筋にも一枚貼る。
「ありがとうトゥルーデ。行こう?」
「ああ」
 身体の“同じ位置”に絆創膏を貼り付けた二人は、足取りも軽く、食堂目指して走り出す。
 いつもと、変わらぬ風景。変わらぬ「魔法少女」ふたりの姿。

end



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