ツンツンメガネとビスクドール
ネウロイの襲撃も無さそうな、夏のとても暑いある日。
「トゥルーデ!」
「なんだ?」
自室にてトレーニングをしていた、バルクホルン。
「クリスからの手紙だよ!」
「本当か?!」
と、ハルトマンが手に持っていた手紙を半ば強引に奪い取るバルクホルンであった。
「おぉクリス…クリス…クリス!!…おっと、ヨダレが…」
「うわあ…気持ち悪いよ、トゥルーデ」
「えぇい!構わん!クリスのためだったらキャラ崩壊しても良いくらいだ!戦闘の時だけちゃんとしてれば良いんだ!」
「…早く読みなよ」
「おお、そうだな」
手紙の封を開けると、そこには可愛らしい便箋が入っており、姉へのメッセージが書かれていた。
「ほうほう…」
「ねね、なんて書いてあるの?!」
「お前には見せてやらん!!!!」
「…そうですか」
「嘘だ嘘だ、そんなに引かないでくれハルトマン;;」
そして、その手紙をハルトマンに渡す。
渡された本人は笑顔でその手紙を読み…、
「ねえねえ」
「なんだ?」
「クリスが何かを欲しがるって珍しいねえ」
「え?!そんなこと書いてあったか?!」
「…何読んでるのさ;;」
「いや…このクリスの書いた文字、その文体から滲み出ている、姉を欲する思いがもう…」
「………」
「だーかーらー!引かないでくれ!」
「意外とクリスも年頃の女の子だねえ」
「へ?なんでだ?」
「ほら、お人形さんが欲しいって」
「そうかそうか…じゃあ五徳堂の陸軍軍人の人形をヤフオクで、」
「年頃の女の子がそんなのを欲しがる?フツー…」
「ふむ…じゃあ、じゃあ何なんだ!!全く!」
「え、逆ギレ?!」
今までタンクトップ姿であったが、急に上に羽織るバルクホルン。
「ちゃんと読みなよ、えと…ビスクドールが欲しいんだって」
「はて…?」
「どしたの?」
「いや…クリスって、今まで人形で遊んでる姿は見たことなかったなって…な」
「気が変わったんじゃないのー?」
「あり得ない、クリスはクリスだ」
「…使い方間違えてるよ?;;」
「じゃあ何故…」
「まあ良いよ、今度ローマへ行ったら見に行こうよ」
「そうだな」
***
そして次の休暇。
エーリカとバルクホルン、そして何故かペリーヌもだが買い出しに同行していた。
助手席に座るバルクホルンは後ろの席に座っているペリーヌに話し掛ける
「悪いなペリーヌ」
「いいえ、正直ハルトマン中尉と2人で買い出しだなんて不安で不安で」
「ちょっとー、何それぇー」
「でもどうして買い出しにバルクホルン大尉も?」
「いや…ちょっとな」
「トゥルーデ、妹への贈り物を買いに行くんだってー」
「エーリカ!」
「そっ、そうなんですの?!」
「ゴホン…まあ…な」
「素敵じゃありませんか」
「そ…そうか?」
「えぇ!妹さんのためにだなんて…!」
「なっ、なら貴様も私の『いもうと』にしてやろう!」
「それは結構ですわ」
「………」
「………」
そして車が1時間走ったかという頃、
「…トゥルーデ?」
「ん?どうした?」
「どうしたのさ?」
バルクホルンはずっと、窓枠に肘を置き景色を見ていた
「いや…クリスのことをだな」
「…パンツをくんかくんかしたいとか?」
「そうだな…あの、数日間熟成させた匂いが…って、おぉい!」
「けけけーっ」
「それにペリーヌ!お前はドン引きするな!!!!」
「だって今の…結構本気のリアクションじゃあ…?」
「で、何を考えてたのさ?」
「…クリスの将来のことだ」
「将来?」
「あぁ」
「…と言いますと?」
後部座席のペリーヌが体を乗り出し、バルクホルンに質問をする。
「結婚…するのかなあってな」
「ねえ、トゥルーデ」
すると、ハルトマンはいきなりハンドルを握りながら真剣な顔をし…
「もし…したらどうするの?」
「一緒に住む」
「えぇぇぇっ??!!」
「トゥルーデ…実の姉が妹夫婦と同居するだなんて初めて聞くよ;;」
「え、おかしいか?」
「おかしいも何も…;;;」
「じゃっ、じゃあもし!もし、妹さんご夫婦がその…」
「あぁー…」
「なんだ?ペリーヌ。何をそんなに恥ずかしがってるんだ?」
ペリーヌは顔を赤くし、モジモジしながら、
「その…子作り…するときは」
「別に構わないぞ、むしろ作って欲しいぐらいだ。そうだなあ…2人は欲しいな、1人は男で1人は女だな」
「なんかトゥルーデ…子供の名前も決めそう」
「何言ってんだ!…もちろんだろう!私とクリスで名前を決める!」
「旦那さんは無視なのね;;;」
「もっと言えば子どもの保護者会や運動会にも参加してそうですわ…;;」
「何言ってんるんだ、私は保護者だぞ」
「あくまでも義理のね;;」
しかし、ペリーヌはちょっとマズそうな顔で…、
「でも大尉…それに、自分の愛する妹さんがどこの馬の骨がわからない男に、体を捧げる訳ですわよ?」
「…何言ってるんだペリーヌ、私にとってセックスは『スポーツ』だ!」
「おぉ、言うねえトゥルーデ」
「私とクリスは深い絆で結ばれてるのさ(ドヤ」
「深い絆…と言うか、血の繋がった姉妹でしょ;;」
「ふう…これはあくまでも私の推測ですわ」
「なんだ、言ってみろ」
「たぶん妹さんご夫婦は大尉を気遣って、夫婦2人でロマーニャへ旅行と偽り『子作り旅行』をするんですわ」
「…続けろ、ペリーヌ」
「もう妹さんは、大尉に見せたことのないような顔を旦那さんの前でするんですわ」
「…問題ない」
「ロマーニャのリゾートホテルにて一戦交えて、シャワー浴びて、一戦交えて、シャワー浴びて、シャワー、一戦、シャワー、一戦、一戦、シャワー、一戦…」
何故か脂汗を流すバルクホルンは、ずっと握り拳をしたままである…。
「そしてヘトヘトになって帰ってくるんですわ」
「…そっ、それで子供が出来たんなら万々歳だ」
「ヘトヘトになって、『お姉ちゃん、疲れたー』って言って行く前既に作り置きしてたアイスバインを大尉の夕食に出すんですわ」
すると急に、
「たっ…大尉っ…!!くるし…っ!!!!」
「っ!!!!」
「ちょ…トゥルーデ落ち着きなって!」
体を乗り出していたペリーヌの首を絞めるバルクホルン
すぐさま車を路肩に停め、
「殺す!旦那を殺す!アイスバインを出す前に殺す!!!!」
「落ち着きなってトゥルーデ!あくまでもこれはペリーヌのフィクション!…ね?」
「そ…そうか!」
「ゲホッゲホッ…た、大尉…」
「済まないペリーヌ、つい…」
「『つい』のレベルですの?!今のは!!??」
***
「…ねえトゥルーデ」
「何だ?」
「これってさ…」
「ん?」
「通貨の単位はマルクだよな?」
「…同感だ」
ハルトマンとバルクホルンは用事を済まし、余った時間でおもちゃ屋に来ていた。
「…やっぱり現実見よう、トゥルーデ。ここはロマーニャ、リラだよ!!」
「しまったなあ…今月は使える金がないんだ」
「クリスの入院費の他に何か支払ったの?」
「新たなトレーニングマシンをな」
「………」
「そっ、そういうエーリカこそ金はないのか!?」
「エーリカちゃんは全てお給料をお菓子代に使ってまーす」
「クソッ…」
「お待たせしましたわっ!」
2人が悩んでいる間に、ペリーヌもおもちゃ屋にて合流する。
「どうしたんですの?」
「あ、ペリーヌ。お前は今いくら持っている?」
「え…!?カツアゲ!?」
「違うっ!あ…あれが欲しいんだ…」
指を差したのはいかにも高価そうな陶器で出来た人形のビスクドール
「懐かしいですわあ…」
「え、ペリーヌ持ってたの?!」
「ええ。昔ですが、よくお人形さん遊びしてましたわ」
「意外ーっ」
「失礼な、私にだって『乙女心』はありますのよ!?」
「今でもペリーヌの家が残ってればなあ…」
「…ごめんなさい大尉、貸してあげたいのは山々ですがお給料のほとんどをガリア復興費に使っているもので…」
「そう…か。そうか、わかった。悪かったな、ペリーヌ」
「す…すいません…」
「エーリカ、私はちょっと疲れた。お菓子を買って来ても良いぞ、私はちょっと車の中で休んでる」
「え、トゥルーデ…?」
そして、明らか様に肩を落として店から出て行くバルクホルン。
残された2人は…
「なんか…」
「ん?」
「なんか、可哀そうですわね」
「まああんなに高い物だとは私もわからなかったよ」
「今回は残念ですが…また来月、お給料が入ったら買いに」
「…っ!!」
何かを思い出したかのように、豆電球が頭の上に浮かんだハルトマン
停めている車まで戻り、シートを倒して横になっている相棒に…
「ねえトゥルーデ!」
「…おっ、なんだ?」
「可愛ければOKなんだよね?!」
「???」
「だーかーらー!クリスへの贈り物」
「可愛ければ…ってワケじゃないな、あの人形がやっぱり…」
「ちょっと待ってて!1時間くらい」
「…そうか。待ってる、終わったら起してくれ」
「了解!」
「あ…あのぅ、中尉」
「んー?」
ハルトマンとペリーヌが居たのは…
「何故私たちはここに…?」
「見ればわかんじゃん」
「いや、わかりますわ。けど…いまだに状況整理出来ませんわ」
「おっ…おやっさん、一枚お願いしまーす」
2人が居たのは街中の写真館。
そしてペリーヌは、
「あ、あのぅ…」
「おっ!大丈夫、似合ってるよー!これぞ、ビスクドール3D!」
「3Dどころか、実際に着てます;;」
フリフリな水色のドレスに、白い靴下。
そして黒い靴に、小花の束とリボンが付いた帽子を被ってカメラの前に座っている。
「でも…ホンット、絵になるねえ」
「………」
「ほら、そんなムスッとしない!クリスに送るんだから!」
「でっ、でも…妹さんは本物が欲しいと思ってるんですよ?」
「うん」
「そんな…私なんかの写真を送っても…虚しくなるだけですわ」
「なんか誤解してない?ペリーヌ」
「はい?」
「確かに今月は買えないけど…今月はこの写真で我慢してもらうんだ」
「中尉…」
「あ、トゥルーデには内緒だよ!」
「…嫌です!」
「へ…??」
「その時は…私も、ぜひ少しですがお出ししますわ」
「…ありがとう、ペリーヌ」
「いいえ、これは貴族として当然の行為…ノーブレスオブリージュですわ」
「あ!」
何かを思い出したかのように、ビスクドールもといペリーヌに近づくハルトマン
「ふふふー♪」
「なっ…何ですの?!」
「えい!」
「きゃっ!」
近づいたと思えば、眼鏡を強引に取ったのであった
「みっ、見えないですわ!」
「眼鏡を取った方がよりお人形さんっぽく見えるよー!あ、おやっさん一枚お願いします♪」
***
数日後...
「エーリカ!」
「ん?」
基地内にてバルクホルンの怒鳴り声が廊下じゅうに響く
「おっ、お前クリスに何か送ったのか??」
「え、うーん…どうしよっかなあ」
「はあ?私が言ってる意味通じてるか?」
「ごめん、冗談。送ったよ」
「何をだ?」
「ペリーヌの写真」
「…だからか」
その場でしゃがみ込み、
「クリスが…ペリーヌに会いたがってる」
「へ、そうなの?!」
「なあ…一体、何をしたんだ?お前らは」
「…さあね」
「『さあね』ってお前!!」
「ペリーヌは会わせても大丈夫っしょ、少なくともエイラよりは」
「…まっ、まあそうだが」
「じゃあ良いじゃん」
「ぐぬぬっ…あ、あとお前に伝言だ」
「ん?」
「『本物』の方はいらないって書いてあったんだが」
「…そっか」
「でも珍しいな、物が欲しいって突然言い出したら今度はペリーヌに会いたいだなんて」
「まっ、気が変わったんじゃない?聞いた話によるとクリスって相当な『ウィッチおたく』なんでしょ?」
「ああ…最近はマルセイユにハマってて困る…」
いつの間にか傍の椅子に座り、
「と言うか思い出した、何故あの人形を欲しがったのか」
「なんでなんで?」
「戦いが始まる前…私が軍に入る前にだ、父から誕生日祝いに人形を貰ったんだ」
「ふんふん」
「で、いつかあげてやるって言って…先の大戦で、その人形を失くしてしまったんだがな」
「…あのさ」
「どうした?」
「つまり、人形をダシに甘えたかったんじゃないかな?」
「はぁ?」
「人形が欲しいって言えば、ブリタニアの病院に来てくれるかも!って思ったのかもよ」
「…?」
「だぁかぁらぁ!クリスは…トゥルーデに会いたがってるんだってこと!」
「…はっ!!??」
「もう…鈍感なんだからトゥルーデは、危うく伯爵にお見舞い行くよう頼む寸前だったよ」
「アイツを呼ぶな、絶対!…そもそも私のしたことがっ!!!!」
「行っといで」
「ブリタニアにか…?」
「うん、お土産のペリーヌと一緒に」
「お土産って…お前なあ;;」
「ミーナには私が言っとく」
「た、頼む」
「うん」
焦った表情で部屋から出て行くバルクホルン。
「はぁ…マジ天使なエーリカちゃんは、今日も天使のお仕事をしましたよーだ」
とベッドの上で寝っころがる。
「…たまにはウルスラにも手紙を書くかな」
急に起き上がり、そのまま机へと向かった。
そしてその後、バルクホルンとペリーヌは2日間休暇を取ってブリタニアへ向かったのであった…。
【おわり】