reflection beat


 しとしとと雨の降る日。
 訓練や任務を終え、特にやる事もなくなった隊員達は、暇を持て余し、何の気なしにミーティングルームに集う。
 間も無くたわいもないお喋りなど始まるのが常だが……、ふと見渡すと、数名居ない。
「ハルトマンは何処へ?」
 辺りを探し、思わず口にしたトゥルーデに、シャーリーが暇そうにトランプのカードをめくりながら答える。
「あー。さっきサーニャと一緒にどっか行ったぞ。トイレじゃね?」
「にしては遅いな」
「サーニャが帰って来ない。サーニャが……」
 トランプのカードを片手に、落ち着きが無いスオムスのエース。
「お前を見ているとこっちまで不安になるぞエイラ。もっとしゃんと出来ないのか」
「そう言う大尉だっテ、何かせわしないじゃないカ」
「そんな事……」
「待っタ」
 エイラがトゥルーデの口を押さえる。何か聞こえたのか、エイラは何も言わずにそーっと部屋から出て行こうとする。
「待てエイラ、何処へ行く」
 トゥルーデもついていく。

 みっつ隣の部屋。扉が開いている。そこは空き部屋だったが、雨漏りがするらしく、床が所々濡れている。
 そこに、何処から集めて来たのか、コップやらバケツやらを沢山並べて天井から垂れてくる雨粒を受けとめている。
 エイラが「嗅ぎ付けた」通り、サーニャとエーリカはそこに居た。
「あ、エイラ」
 サーニャは笑った。
「サーニャ、今歌ってなかったカ?」
「さすがエイラだね。サーにゃんの歌なら遠くからでも聞こえるって?」
 苦笑するエーリカ。
「ハルトマン、お前達何をしていたんだ」
 トゥルーデの問いに、ふふんと得意げなエーリカ。
「サーにゃんとね、雨漏り対策ついでの暇潰し。聞いてみて」
 しーっと人差し指を立てて皆を沈黙させる。

 ……ぽと。ぽた。ぽちゃん。ぴちゃん。ぱちゃっ。ぽと。ぽた。ぱたっ……

 雨粒の音。大きさもかたちもばらばらの器に受けとめられ、それぞれ違った音を出す。
 それがでたらめの様で、一定のリズムを刻んでいる。

 サーニャがそこに、即興のハミングでメロディをつける。

 別の場所に雨粒が垂れてくる。エーリカは厨房から持ちだしたであろう茶碗をひとつ、受け皿として床に置く。

 偶然か必然か。
 ゆったりと、しかしはっきりとしたビートを刻む。

 それは人の心臓の鼓動に近い柔らかなリズムで……サーニャの魅惑的なハミングとも相まって、不思議な「コンサート」となる。

(なるほど。サーニャはそう言えば音楽が得意、だったな)
 部屋の壁にもたれ、一人無言で頷くトゥルーデ。エーリカはするりと横に来ると、にしし、と笑ってみせた。
 ……またお前って奴は。
 カールスラントの大尉は声に出さずエーリカに目でそう言うと、エーリカは「気にしない」とばかりにそっと腕を絡めてくる。
 エイラはサーニャの横で、ほんわかとした面持ちで彼女の声に魅了されている。
「こう言うのも、悪くない、か」
 彼女にだけ聞こえる位の囁き声を愛しの人から聞いた金髪の小柄な天使は、こくりと頷いた。

 ふと後ろを見ると……いつの間に聞きつけたのか、部屋のドアの付近には他の隊員達が群がっていた。
 ぎくりとするトゥルーデに、しーっと指を当てるシャーリー。
 あたしも何かやりたいと今にも飛び出しそうなルッキーニを押さえて、よく聞いてご覧、と小声で諭す。
 最初は、ん~、と複雑な顔をしていたロマーニャ娘も、次第にその声に惹かれ、小さく手拍子をする。
 少しびっくりした様子のサーニャも、雰囲気を察し、構わず即興のハミングを続ける。

「私は雨は好きではないが……エーリカ、今だけは止んで欲しくないな」
「トゥルーデもそう思う?」
 小声で囁き合い、穏やかな表情を浮かべる。

「ねえ、私だけなのもちょっと恥ずかしいから、皆で」
 サーニャは周りを見て、提案した。ルッキーニは早くもバケツの端を木切れでとんかんと叩いて笑っている。
「お、良いねえ。ちょうど天然の楽器があるし」
「私はサーニャと……」
「デュエットする?」
 微笑まれ、かちこちと頷くエイラ。
 自然と始まった手拍子に合わせ……水の音、人の歌声、器の響き……さまざまな“楽器”が集うコンサートが始まる。

「ねえシャーリー。あたしももっと音遊びしたい~」
 ルッキーニはシャーリーに言う。
「ま、いいじゃないか。そのうち凄い遊びになったりしてな」
「へ、何それ」
「いや、私達にとっては、未来の出来事かも知れないぞ?」
 シャーリーは意味深にそう言うと、笑ってルッキーニの頭を撫でた。

 芳佳達が夕飯を知らせに来るまで、小さな楽団は自らの音を楽しんだ。

end



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