if you say...


  トゥルーデにははっきりと聞こえた。エーリカの決意ともとれる、一言。
 「私がしっかりしたら安心してくれる?」
  分かってはいる。
  しかし、とトゥルーデは反論した。
 「お前、それがどう言う事か分かっているのか? 今までの様に、ただ単純に戦ってさえいれば良いと言う訳では無い。
  部隊間の連絡調整、部隊の指揮、今までお前がやった事の無い……」
 「分かってるよ。大丈夫、トゥルーデが全部出来たんだもの。私にだって出来るよ」
  少し大人びた天使は、やや伸び気味になった髪をふぁさっとかきあげ、笑顔を作る。
  そう。
  この控えめな微笑みに、何度助けられて来たか。
  しかし、今は……。
  ネウロイを、最後の一匹をこの大陸から叩き出すまで、戦いから逃げる訳には行かない。トゥルーデの決心。
  それを見透かしたかの様に、エーリカは繰り返した。
 「私がしっかりしたら安心してくれる?」
  いつ来たのか、クリスがそっと腕を取る。
 「もう、銃を握らなくても良いから。お姉ちゃん、私と手を繋ごう? 一緒に暮らそう? もう一度、二人で」
  最愛の妹、クリスに言われる。冷たく固い銃のグリップとは正反対の……、柔らかく、小さな手がトゥルーデの手を握る。
  トゥルーデの瞳が潤む。
  違う。そうじゃない。
  トゥルーデは首を振った。確かにとても素敵な未来……だが、違う。
  違うんだ。

 トゥルーデは叫んだ。
 そして自分自身の声に驚いて、がばっとベッドから飛び起きた。
 声と動きに反応したのか、横に寝ていたエーリカもうーんとひとつ唸って、目を開けた。

「私がトゥルーデに引退勧告?」
 エーリカはふわあ、とあくびをしながらトゥルーデに問うた。
「夢の中、での話だ。あくまでも、夢だからな」
「随分はっきりと具体的な夢を見るんだね」
 エーリカはそっとトゥルーデの顔に手をやると、そっと指先で目尻を拭った。
「泣いてる」
「しっ仕方ないだろう……あんな夢」
 嫌がっても、結局はエーリカのなすがままにされるトゥルーデ。
 指先から伝わる彼女の優しさ、それに対する自分の不甲斐なさを一層に感じ、うつむく。
「しっかし、トゥルーデが泣く程って相当だよね。私がねえ……」
 パジャマ姿で、トゥルーデのふとももに頭を載せるエーリカ。トゥルーデが膝枕する格好になる。
 うつむいた顔を覗き込むポジションに位置を取った小柄な天使は、愛しの人の顔をじっと見た。
 トゥルーデも、否が応でもエーリカと目が合ってしまう。ぼんやりと彼女の姿を見る。
 夢の中でもその輝きが変わらなかったブロンドの髪は……違う事と言えば、伸び具合。
「ずるいぞ」
 ぽつりとそう言うと、トゥルーデはふとももをくすぐるエーリカの髪を、そっとすくい上げる。
 はらりはらりとしだれ落ちるエーリカの髪はいつもと変わらぬ輝き、美しさ。そして長さ。繰り返すうち、言われる。
「トゥルーデ、ちょっと引っ張ってるよ?」
「ああ、すまない。つい」
「もう。らしくないなあ。もっとしゃんとしなよ」
「エーリカ、お前にだけは言われたくない」
「そんな事言っちゃってさ」
 エーリカは身を起こすと、トゥルーデにずいと顔を近付け、悪戯っぽく、言った。
「私がしっかりしたら、安心してくれる?」
 トゥルーデはごくりと生唾を飲んだ。
 その言葉、何故?
 彼女の心情を察したかの様に、エーリカはすぐに笑顔を作ると、そっと頬に手を添え、軽く唇を重ねた。
 ゆっくりとお互いの気持ちを落ち着ける、魔法のひとつ。
 しんと静まりかえった夜。
 二人の鼓動が少しばかり高鳴る。
 そのまま身体に腕を回し、身体を預ける。甘え方も心得ているエーリカ。トゥルーデに、勝ち目は無かった。

「言うかもね」
 ベッドにもう一度二人して横になって暫くした後、ぽつりとエーリカは言った。
「言うって、何を」
「トゥルーデが夢で見た事」
「何っ!?」
 ぎょっとして顔を向けるトゥルーデ。エーリカはくすりと笑い、トゥルーデの唇を人差し指の先でちょこんと押さえてみる。
「でも、少し違う所も有ると思うけどね」
「それはどう言う……」
 エーリカは何も言わず、トゥルーデの手を握った。微かに擦れ合う、ふたりの指輪の感触。
 指先から伝わった彼女の思いを受けとめ、トゥルーデはそっとエーリカを抱きしめた。

 今は、まだ。せめてもう少し。
 彼女の偽らざるキモチ。

end



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