フランと勝負ズボン


「えーっと、頼まれてたものはこれで全部かな」
買い物リストのメモにチェックを入れながら、栗色の髪の少女が隣の橙色の髪の少女に呟く。
彼女達はブリタニア連邦に位置する島、「ワイト島分遣隊」のウィッチ、
ウィルマ・ビショップ軍曹とアメリー・プランシャール軍曹だ。
2人は同隊の角丸隊長に頼まれ、本土のお店で必要な物を買い揃えていた。
「買い忘れた物とかないよね?」
「あっ、はい。必要な物は全部揃いました……あっ!」
「どうしたの?」
「いえ。そう言えばフランさん、もうすぐ誕生日だなーって思って」
「え? そうなの?」
そう、今日は7月8日――ウィルマとアメリーの同僚、フランシー・ジェラード少尉の誕生日の3日前だった。
その事をアメリーから聞いたウィルマは、少し考え込んでから口を開いた。
「せっかくだから何かプレゼント買っていこっか。船の時間までまだあるしね」
「はい!」
ウィルマの提案にアメリーが元気よく返事をする。
かくして彼女達は、フランへの誕生日プレゼントを探す事になったのだが……

「う~ん、フランさんが気に入りそうなものってなんだろう……」
お店の商品棚の周りをうろうろしながら、アメリーが呟く。
しばらくアメリーが辺りをうろついていると、ふとある物が目に止まる。
「あっ、このゴーグルなんかいいかも」
アメリーの目にふと止まったのは、バイクレース用のゴーグル。
フランの尊敬するウィッチ、シャーロット・E・イェーガー中尉がバイクレースで世界記録を樹立したレーサーという事もあり、
彼女がゴーグルに興味を持っていた事をアメリーは知っていた。
「うん。このゴーグルなんかフランさんに似合いそう……あれ? ウィルマさんどこ行っちゃったんだろ……」
アメリーがいつの間にかいなくなったウィルマをキョロキョロと捜していると、不意に後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「お~い、アメリー~! フランへのプレゼント、決まった?」
「あっ、はい。ウィルマさんは?」
「へへ、私はね……ズバリ! これをプレゼントしようと思うの」
「ええ!?」
ウィルマが差し出したそれを見て、アメリーは思わず顔が真っ赤になってしまう。
「ウィルマさん! 本当にそ、それをフランさんにプレゼントするんですか?」
「うん。なんだかフランにすごく似合いそうじゃない?」
そう言って悪戯っぽく笑うウィルマを見て、3日後が不安になるアメリーなのであった……

――それから3日後の深夜

「ふぁ~あ、ねむ……なんなのよ、こんな時間に」
眠気眼を擦りながら、寝間着姿のフランがウィルマ達の部屋の前で呟く。
0時になったらここに来るようにとウィルマに言われていたのだ。
フランが渋々ドアをコンコンと叩くと、扉の向こうから「どうぞ~」という声が聞こえてくる。
「あ、開けてくれるわけじゃないのね……」
フランが仕方なしにドアを開けると、同時に、クラッカーの音が部屋に鳴り響いた。
「へ?」
「フランさん、誕生日……」
「おめでとう!」
目の前にはクラッカーを持ってニコニコしているウィルマとアメリーの姿。
突然の出来事にフランは、状況を理解するのに多少の時間がかかった。
「え、えっと……」
「ほら、今日ってフランの誕生日でしょ? もしかして忘れてた?」
「ううん、忘れてたわけじゃないけど……祝ってもらえるなんて思ってなかったから……」
「ふふっ、誕生日は1年に1度の特別な日なんだから盛大に祝わないと。ね、アメリー?」
「はい。角丸隊長に頼んで午後にはみんなで誕生会を開く事になりました。ですがその前に、
私たちで個別にプレゼントを渡したいと思いまして」
アメリーはそう言って、小包みをフランに渡す。
フランがその小包みを受け取り、中身を見ると思わず感嘆の声が漏れる。
「わぁ、素敵……」
「フランさんが興味を持ってたバイクレース用のゴーグルです。イェーガー中尉のゴーグルと比べると、見劣りするでしょうけど……」
「ううん、そんな事ない……ありがと、アメリー」
アメリーからプレゼントされたゴーグルを大事そうに抱えながら、フランは微笑んだ。
「はい! じゃあ次は私の番ね。フラン、きっとあなたに似合うと思うの」
「え? なになに……」
フランは続けてウィルマから小包みを受け取り、その中身を見て驚愕する。

「な、何よこれ!」
中に入っていたのは、布の面積が異様に狭い、お尻の部分がT字になっているズボンだった。
「『てぃーばっく』っていうズボンらしいわ。1939年頃からお祭りの時に、リベリオンのダンサーが着用するようになったんだって」
「そんな事聞いてるんじゃないわよ! 何であたしにこんな物を……」
「ほら、フランっていつも紐ズボン穿いてるから、大胆なズボンが好きなのかなーって思って」
「あのねぇ……あのズボンは軍から支給されたもので、別にあたしが趣味で穿いてるわけじゃないんだけど」
「へー、そうだったの……まぁ、せっかくだし試しに穿いてみてよ」
「は、穿けるわけないでしょ! バカ!!」
「まぁまぁ、いいからいいから」
ふとフランは下半身がスースーするのを感じた。
気が付けば、いつの間にかズボンをウィルマに脱がされていたのだ。
「きゃっ! な、何すんのよ! ウィルマのバカ!!」
「へへ、フランったらせくし~」
中年男性のような笑みを浮かべながらウィルマは、フランにTバックのズボンを穿かせていく。
その様子をアメリーは、顔を赤らめながらただ黙って見る事しかできなかった。

「わぁ、フラン可っ愛い~」
「うぅ、これなら何も穿かないほうがよっぽどマシだわ……こんなズボン、誰が好んで穿くのよ」
「お店の人が言ってたんだけどね、このズボンを穿けばここ一番の勝負にも絶対勝てるようになるんだって」
それを聞いて、フランは朱に染まった顔を更に赤くする。
「へ!? しょ、勝負って、あたしまだそういう事するのは早いし……」
「えっ、"そういう事"って何? 私はネウロイとの戦闘の事を言ったんだけど……少尉殿は一体、何の勝負を連想してたのかな~?」
「……ウィ、ウィルマのアホ~!」
これ以上ないくらいに顔を真っ赤にしたフランがウィルマの肩の辺りをぽかぽかと殴りかかる。
「うんうん。やっぱフランはちょっと生意気でマセてるほうが可愛いわ。なでなでしてあげる」
「な!? あたしに向かってその態度! じょーかんぶじょくなんだから~」

(ふふっ、最初はどうなるかと思ったけど、何だかフランさんが楽しそうで良かったです)
自分より小さな上官の頭をくしゃくしゃに撫でるウィルマと、小言を言いながらもまんざらでもなさそうな顔をするフラン。
そんな2人の様子を微笑ましく見守るアメリーなのであった。


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