未来の先にあるもの
「エイラさん、エイラさんってすごいですよねー」
いつもの間延びしたような口調で唐突にそんなことを言い出した宮藤に対して私は困惑しつつもいつもの横柄な態度でもって応じた。
「んー、なに言ってんダ、オマエ。それだけ言われてもなんのことかさっぱりダゾ」
あぁ、そっか、ごめんなさい、と少しだけ顔を赤らめた宮藤に私は毎度の如く溜息を吐く。こいつはどこまでが本気なんだろうか。真面目なのは間違いないんだけど。
「で、私のどこがなんだって? そんなことよりもサーニャのすごいところをもっとダナ……」
「エイラさんの未来視の固有魔法ですよ。あれ、ホントにすごいなぁ、って」
こいつ、サーニャのことは全力でスルーかよ。あとでお仕置きダカンナ。
と、頭の中で愚痴を零すのは宮藤の曇りなき真っ直ぐな視線に少しの気恥ずかしさを感じていたからだ。こいつはお世辞でもなくちょっとした世間話の種にでもなく、本心からそう言っている。そういう奴だって知っていても、私は動揺する心を隠せていないだろう。私もまたそういう奴だから、嬉しさをほんの一握りだけ滲ませたしかめっ面で宮藤を見やった。
「べ、別にそんなんじゃネーヨ。魔法は人それぞれなんだし、ミヤフジだって治癒魔法とかシールドとか、誰にも負けない魔法が」
そこでまたこいつも慌てて、いやいや私なんてまだまだで、って言うのだろう。と思ったところで予想外の反応が返ってきた。
「いえ、そういうことじゃなくって……。その、なんて言ったらいいのか自分でもよくわからないんですけど。エイラさんには、その魔法を使うときに、何が視えてるんですか?」
期待と不安と好奇心と猜疑心と、いろんな感情が入り混じった瞳に射抜かれた私は言葉を失った。
たまに宮藤はこういう表情をする。言ってしまえば何を考えているのか判らない表情だ。そして宮藤は私の解に何を求めているのだろうか。
未来視って言っても別に明日や明後日のことが判るわけじゃねーぞ、とか、訓練したってオマエが身につけられる代物じゃねーんだぞ、とか、そういう当たり障りの無いものではないのだろう。
しばらく逡巡してから、私が出した解は否定の言葉だった。
「別に私は未来を視ているわけじゃないんダゾ」
それを受け取って宮藤はどう反応したらよいものかというように口をポカーンと開けた状態で固まった。
「あの、えと、それはどういう……」
「だから、私が視るのは未来じゃない。逆に言えば、無数の未来が視えている、ってとこダナ」
さっきまでの無表情とは打って変わって、あからさまに頭上にクエスチョンマークを展開させている宮藤はほっておいて私は言葉を続ける。
「私が視るのは決まり切った未来なんかじゃないし、可能性の一つや二つなんかでもない。そんなハッキリしたもんじゃないんダ。ミヤフジ、オマエが何を考えてんのかは知んないけどサ、未来に正解なんかないんダ。不正解もない。いや、もっと言えば不正解しかない。だから私は、最悪の結果にならないように全力で対処してるだけなんだ。それで、何が視えてるか、だったっけ? 言葉にできるもんじゃないんだけどナ、強いて言うなら小さな結晶みたいなもんかな。水晶みたいに透き通った小さな小さなカケラ。それを通して私は視るんだ。無数に分散していく光をナ。そんでそのカケラに辿り着いたらな、ソレは粉々に砕けてハジけるんダ。それじゃ未来は視えないじゃないかって? そうだ、そうなんだよ。未来はこの掌の中でな、一度壊れるんだ。そして、壊れた未来を再構成して、私の思ったように描くんだ。私は未来に沿って動いているわけじゃない、未来は私が決めているんダ」
少しばかり長くなってしまったがとりあえず言いたいことを言いたいだけ吐き出した。相変わらず宮藤は解せぬといった表情を崩していないが、何か思うところもあるのだろう、ぶつぶつと独りごちてそしてまた私に向き直った。
「えっと、じゃあ、エイラさんがネウロイのビームとかを全部避けれるのは……」
「そう難しく考えんな。たいしたことじゃない。ただ他の人より、そういう感覚が鋭くて頭の回転が速いだけサ」
ナンテコトナイッテ、と戯けてみせた私に対して宮藤は、やっぱりすごいじゃないですかー、とまた照れるようなことを言い出した。そして私はまた適当にあしらっての繰り返し。結局、宮藤の問いの真意は解らなかったが、私もいい加減な解答をしたんだから何も言わなかった。
未来は視えるもんじゃないゾ、自分で創り出せばいいんダナ。