無題
頬にあたる風は温かく、アメリーの髪を弄ぶ。
優しきパリの本来の風は、出陣を見送るこの場にはどこか似つかわしくなかった。
「平和ですわね」
ペリーヌ・クロステルマンは美しい髪をかき上げながら、アメリー・プランシャールのそばに寄る。
「もう、行かれるのですか?」
「ええ」
二人は立ち並ぶ。
「ガリア解放の恩義を今こそ報いるときですわ」
決然としたペリーヌの横顔をアメリーは寂しげな瞳で見つめる。
「私も・・・」
―共に闘えたら良かった。
という言葉を飲み込んだ。実力の差も、戦場の状況もよく理解していた。
未練がましい言葉は、旅立ちの前には相応しくなかった。
「泣かないのですな」
「え?」
「てっきり、また大泣きをされると思っていまして」
「・・・これから旅立たれる中尉を心配させられませんから」
アメリーはうつむきながらつぶやいた。
「そう」
「私・・・泣きませんから」
え?-と今度はペリーヌがつぶやいた。
「中尉が帰ってくるまで・・・私は泣きません。
中尉が居ない間、ガリアで私がやるべきことはいくらでもあります。
泣いている暇なんてありません」
「・・・頼もしくなりましたわね」
ただ―そう言って、アメリーは微笑むペリーヌと視線を絡ませた。
「中尉が帰ってきたら、その胸で泣かせて下さい。
だから・・・だから・・・」
早く・・・帰ってきてください。
Fin