どっちがお好み?


「ところでミヤフジ、さっきのはどういうことダ?」
 それから、すごいですよー、と、ソンナンジャネーヨ、を一頻り繰り返したところでエイラが宮藤に問うた。
「さっきのって、私何か言いましたっけ?」
 相変わらず察しが悪い宮藤に対して、エイラは一層ジトっとした目線を向けた。
「何か言ったのは私の方ダゾ。それに対してオマエは何も言わないでサラッと流したじゃないカ」
 それでもまだ存ぜぬといった風の宮藤に、痺れを切らしたエイラは毅然とした口調で命じた。
「とりあえず、サーニャのいいとこすごいとこ十個挙げてけ」
「ええぇ、十個も」
 思わず素で反応してしまったところで宮藤はハッと気付いた。気付いて口を押さえる仕草をするも時すでに遅し。目の前のエイラは更に睨みを効かせた視線で迫ってきた。
「も、ってナンダヨ、も、って。そんな失礼なこと言うようなヤツには、お仕置きが必要ダナ」
 指をワキワキさせながら、表情をニヤニヤさせながら、近づいてくるエイラに対してその身を庇う、というか胸を隠すような体勢を取る宮藤。
 こういうときに咄嗟に背を向けて逃げようものなら鷲掴みにされて格好の餌食となることを身を以て体験していた宮藤は、下手に逃げようとせずに対峙して隙を窺っていた。
 しかし相手はスオムスが誇るスーパーエース、傷を知らないダイヤモンド、エイラ・イルマタル・ユーティライネンその人だ。
 相手を逃がさんとする意思表示か、狐の耳と尻尾を現出させたエイラが不敵に笑う。宮藤が不覚を取るにはまだまだ早い。
 一瞬の視界に映ったものに、あっ、と言わんばかりの表情を作った宮藤の隙を、見逃さないエイラではなかった。
 サッと身を翻し、いとも簡単に宮藤の死線を横切ると背後を侵した。
 そして素早い動作でエイラは宮藤の、お尻を揉みしだいた。
「ひゃあ!」
 と情けない悲鳴を上げた宮藤だが、驚きの余りに逃げ出せない。
「お、おおぉ。オマエ、こっちもなかなか成長期じゃないカ?」
 揉む力を更に強めるエイラに宮藤はいじらしく声を上げる。
 それでも宮藤が動けないのは、物陰に隠れたもう一人の刺客のせいであった。
 そしてその影は踊るように飛び出し、華麗で大胆な機動を描きつつも、宮藤に逃げる隙を与えなかった。
 ヤツが仕掛けてきたときが好機と踏んで留まっていた宮藤だったが、このガッティーノもまたロマーニャの誇るスーパーエースであることを軽く失念していたのだ。
「よしかぁ~、変な声出してな~にしてんの?」
 俊敏な動きで懐に入り込んだルッキーニによって、宮藤の胸は敢え無く陥落した。
 つい先刻、宮藤の視界に入り、図らずも一瞬の隙を作り出したのがフランチェスカ・ルッキーニその人であった。そしてエイラとルッキーニ、おっぱい星人コンビの連携は見事な作戦成功を収めたのだ。

 結局、二人に捕らえられて揉みくちゃにされた宮藤は、撃墜寸前のところでようやく解放された。
「もー! ひどいよー。エイラさん、ルッキーニちゃん!」
「へへ、ナンテコトナイッテ。それにしてもミヤフジ、胸の方も少しは成長してるんじゃないカ? なぁ、ガッティーノ」
「まだまだ残念賞だけどね~。あ、でももう少~し成長したら努力賞あげてもいいかも」
 二人のおっぱいマイスターによる勝手な品評会に、宮藤は大げさに溜息を吐いた。
「それにしても驚きましたよー。エイラさんがお尻を狙ってくるなんて……」
「不意打ちだったダロ? いつもいつも胸ばかり見てるからナンダナ」
 さりげない指摘に宮藤は反論が出来ない。やっぱり皆からもそういう風に思われているのだろうか。
「そういえば、エイラー、私がいるのよくわかったね」
「私の固有魔法を忘れたのか? それくらい朝飯前ナンダナ」
 相変わらず無駄なところでも能力を発揮するのは悪戯好きの本能だ。
「ときにミヤフジ。私の見立てによるとオマエ、胸よりお尻の方が大きいんじゃないカ?」
 唐突に問われた宮藤は一瞬ギクリと身を震わせた。それを見逃さないエイラはニヤリとすると畳み掛けるように言った。
「ま、オマエくらいのサイズだったら気にすることでもないけどナー」
 何気に気にしてることなのに! とこれには噴火せざるを得ない宮藤に、マジで気にしてたのかヨ、とエイラは面倒臭そうに応じる。
 そしてルッキーニの無邪気でさりげない一言が、事態を更なる混沌の渦へと叩き落とした。
「お尻と言えば、やっぱりミーナ中佐が一番だよね~」
 刹那に悪寒を感じたエイラは神速の機動で物陰にその身を隠した。
 その様子をポカンと見つめていた二人は、その意味を数秒後に知ることとなる。
 談話室の入口付近から放たれる赤い閃光に、いち早く気付いたルッキーニは滝のような汗を流し出した。
 キュッ、と何か不穏な音が聞こえた気がした次の瞬間、ルッキーニの背後には無慈悲な笑みを湛えたその人が立っていた。
「誰の何が一番ですって? フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」
 据わりきった瞳で見下ろされるルッキーニは、最早カタカタと震える石像と化していた。赤毛の司令官、スペードのエース、女公爵ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐による先日の二百機目撃墜で、そのワードは隊内(豪放磊落で天然ジゴロな副官は除く)において暗黙のうちにタブーとなっていた。
 ルッキーニは今まさにその禁を犯したのである。
「うじゅぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
 奇妙な悲鳴を上げて連れ去られるルッキーニに宮藤は心の中で合掌した。と、不意に足を止めたミーナは談話室を振り返り、絶対零度の視線と声色で机の陰に隠れるもう一人の悪戯猫を射抜いた。
「そこに隠れてるエイラさんも、一緒に司令室に来てくれるかしら?」
 疑問形なのに命令に聞こえるその迫力は何処から湧いて出てくるのか。そんなんだからさんじゅうはっさ、ゲフンゲフン、とか言われるんだよ、と心の中で悪態をつくエイラ。口に出そうものなら軍法会議をすっ飛ばして銃殺刑だ。
 大人気なく固有魔法=三次元空間把握能力を発揮したミーナは、二人を引きずって談話室を後にした。
 残された宮藤は絶対にお尻には手を出さないようにしようと胸に誓い、また胸のことばかりを考え始めた。


   終わり


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