stay awake
深夜、ふと目覚めるトゥルーデ。
横で一緒に寝ていた筈のエーリカが居ない。
トイレにでも起きたのかと思ってぼんやり微睡んでいたが、暫く経っても戻って来ない。
「夢遊病か」
毒づく口先とは裏腹に、愛しの人が心配で仕方ないトゥルーデは、パジャマ姿のまま部屋を出た。
エーリカは基地のバルコニーにひとり、佇んでいた。
手摺に両肘をつけ、ぼんやりと空を眺めている。
月のない空は満天の星空で、星明かりが、僅かに辺りを照らす。
「トゥルーデ」
エーリカは足音に気付いたのか、振り向いて笑顔を作った。
「エーリカ」
名を呼び、顔をじっと見る。
「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」
「珍しいな。どうしていきなり起きたりしたんだ」
「ちょっとね」
はぐらかすエーリカに、トゥルーデは手に腰を当てて呟いた。
「お前の事は、たまに分からなくなる。一体何を考えているのか、いきなり何処へ行くのか……」
その言葉を聞いたエーリカは、ちょっとすねた口調で答える。
「私だって、少しは考えたりする時間有っても良いんじゃない?」
そう言ったきり、エーリカは背を向け、夜空に視線を戻す。
「それは、そうだが……その」
言い淀み、そっと近付くトゥルーデ。
エーリカの表情は、いつもの天真爛漫なそれとは違い、何処か愁いを帯びた表情で……
自分を抑えきれなくなったトゥルーデは、後ろからそっとエーリカを抱きしめる。優しく、ガラス細工を触る様な繊細さで。
エーリカもそんな仕草に気付いたのか、ふうと息を一つ吐くと、トゥルーデに身体を預ける。
「心配なんだ、エーリカ。お前が」
トゥルーデの偽らざる言葉を聞いたエーリカは、僅かのこそばゆさと、大きな安心感に包まれる。そして呟く。
「分かってる」
「何か有ったら、私に遠慮なく言え。今更遠慮する間柄でもないだろう」
「分かってる」
繰り返すエーリカ。
そう。
エーリカは分かっている。
ただ、エーリカには心配な事がひとつ。自分がトゥルーデに甘え過ぎたら、今度はトゥルーデが、その“重荷”をどこにぶつければ良いのか? と言う事。
「私を心配してくれているのか」
何気ないトゥルーデの言葉にぴくりと身体を震わせるエーリカ。
いつもは鈍いのに、こう言う時だけ妙に鋭いのは……
「ずるいよ、トゥルーデ」
エーリカの小さな呟きを聞いたトゥルーデは、首を傾げた。
「どうしてそうなる」
「乙女心が分かってないな、トゥルーデ」
「何を言うエーリカ、私だって、その、一応女だし……」
「ごめん、ちょっと言い過ぎた」
「気にするな。お前が居てくれるからな。それだけでいいんだ」
思いも寄らない、答えが返ってくる。
(私の掛けた重荷を私にって事? それって一体……)
エーリカは少々混乱する。そんな軽い眩暈を覚えたエーリカを抱きしめたままのトゥルーデは、囁く。
「エーリカが居るから、私は私で居られる。エーリカだけでいい」
「そ、そう言う事じゃないよ、ばかばかトゥルーデ」
耳を真っ赤にして抗うエーリカ。だが逃がすまいとトゥルーデはぎゅっと抱く力を強める。
「今までもそうであった様に、これからも、ずっと好きだ」
ストレート過ぎる感情表現。思わず軽く吹き出してしまう。真面目な堅物が、どうしてこんな台詞を吐けるのかと。
「トゥルーデってば。酔ってる?」
「起き抜けだ」
「寝惚けてない?」
「エーリカと一緒さ」
腕の中で、ぐるりと身をよじり、顔を突き合わせるエーリカ。
いつになく真面目なトゥルーデを見る。吐息が混じり、潤む瞳が愛おしい。
そっと、口吻を交わす。優しく、何度もお互いを確かめる様に。
そっと唇を離したエーリカは、トゥルーデの胸に顔を埋め、呟く。
「ヤバイ。どんどんトゥルーデのこと好きになってる、かも」
「それは嬉しいな」
優しく頭を撫でられる。素直に心地良い。お互いがお互いの寄り何処であり居場所であり、回帰する場所である証。
二人は抱き合ったまま、空を見つめた。
夜空に一筋の光が走ってすぐに消える。流れ星。
「部屋に戻りたくないって言ったら、どうする?」
「勿論、付き合うさ」
たまには良いよね、とエーリカは微笑むと、トゥルーデの頬にそっと唇を当てた。
返ってきたのは、トゥルーデの濃厚なキス。
夜空の涼しさも、エーリカの憂鬱も蒸発する程の熱気を感じ、そのまま愛しの人に身を委ねた。
end