カールスラントの騎士


t着任から数日、私は地上勤務に従事していた。
私はすぐにでも飛びたかったのだが、マルセイユ、ケイ少佐はおろか基地の皆にまで猛反対されたのだ。








『駄目だ。それは絶対に駄目だ。』
『許可できないわ。』
『な、何故だ!?』

着任の翌日、私はアフリカでの飛行に慣れるためテスト飛行と哨戒任務を兼ねて、飛ぼうと思ったのだが……

『お前のストライカーユニットの整備がまだ済んでいないだろう?』
『整備?サンドフィルターは付けてあるぞ?』
『冷却系のテストがまだだ。しばらくは地上でテストしないと危険だ。』
『しかしマルセイユ……』
『許可は絶対に出さないわよトゥルーデ。』
『ケイ少佐……』
『私もテストが終わるまで飛行は控えるべきだと思います。』
『ライーサ……お前もか。』

ここまで猛反対されるとは思っていなかった。

『分かった、皆の言うとおりにしよう。』

私はアフリカに来てからまだ日が浅い。
ここはアフリカに長く居る者達の言葉に従った方が賢明だろう。

『賢明な判断だ。後は整備班に任せておけ。』
『ああ、そうする。』
『ごめんなさいねトゥルーデ、以前マルセイユが……もが!?』
『こ、こらケイ!その話は秘密のはずだ!』

以前マルセイユが?
ケイ少佐が何か言おうとしたが、マルセイユが慌てて少佐の口を塞ぐ。

『お、おい?』
『何でもない!何でもないんだ!』
『もがっ!むぐぐーっ!!』

一体何だと言うんだ?
マルセイユの慌てようを見ると、ケイ少佐が話そうとしていたことはマルセイユにとっては有難くない話のようだ。

『それよりも整備班の様子でも見に行ったらどうだバルクホルン?』
『あ、ああ……そうする……』

気にはなるが、マルセイユ本人がここまで嫌がるなら無理には聞くまい。
それよりも自分の機体の調子の方が気になる。



『機体の調子はどうだ?』
『これは大尉殿、機体は……そうですね、今のところ問題はないですね。』
『そうか。』
『ただ冷却系のテストがまだ済んでいませんので、今のままでの出撃は危険です。』
『やはり……か。』

マルセイユも言っていたが、やはり冷却系か。
ふむ……考えてみれば、ここは灼熱のアフリカだ。つまりはエンジンが過熱しやすいのだ。
ならば皆が冷却系に細心の注意を払うのは当然だ。

『大尉殿、やはり……とは?』
『ん?あぁ、実はマルセイユ達に飛ぶなら冷却系のテストが終わってからにしろと言われてな。』
『ああ……なるほど。』

整備兵達の顔が途端に暗くなる。
何だ?私は触れてはいけない話題に触れてしまったのか?

『おい……一体どうした?』
『大尉殿はご存知ないのですか?』
『?』
『以前マルセイユ大尉が……その……』
『死にかけたんですよ……冷却系のトラブルで……』
『何……?』

マルセイユが死にかけた……だと?

『どういうことだ?』
『1942年の10月に新型ストライカーの事故がありまして……』
『あの時はF型が整備中で、それで仕方なくG型で緊急発進を……』

そうだったのか……それで皆あれほど……

『マルセイユ大尉も司令も、あの状況では仕方がなった、整備班に責任は無いと言ってくれましたが……』
『それでも……冷却系のトラブルですから……』
『アフリカの星が、エンジントラブルなんて下らない理由で死んでしまうところでした……』

責任を感じてしまっているということか……
新型の……それも未整備のストライカーユニットでの事故だ。
彼らに責任などあるわけがない。
責任があるとすれば、砂漠での活動を全く考慮していないユニットを送りつけてきた馬鹿共だろう。
だが……それでも、不調の機体で空に上がり死んだ者に文句は言えない。
責任は全て……ウィッチが……

『ですから私達は二度とあんな事を起こさないと誓いました。』
『ウィッチ達が不安なく飛べるように整備します。』
『ですから大尉殿、申し訳ないですが飛ぶのはもう少し我慢して下さい。』

ああ、我慢する。
我慢するとも……私自身のためにも。
そして何よりお前達のためにも。
無理に飛んで事故を起こし、整備班を悩ませたくはない。

『私も以前にな、試作品のジェットストライカーを使用して危うく死にかけたことがある。』
『大尉殿が……?』
『ああ、間一髪のところを戦友に助けてもらった。』

製作者のウルスラがわざわざ謝りに来ていたが、あれは……

『あれはジェットストライカーを使った私自身の責任だ。』
『大尉……』
『自分の道具には自分で責任を持つ、空に上がってからのことはウィッチが自分自身で負うしかないんだ。』

それが航空ウィッチというものだ。
ロマーニャのネウロイの巣を駆逐した時、坂本少佐を助けるため宮藤が取った行動……
魔力を使い果たし二度と空を飛べなくなると承知の上で、あいつはネウロイを倒した。
あいつは……自分自身で負ったのだ。
誰に恨みを言うでもなく……あいつは笑って空から降りた。
あいつは立派なウィッチだった。

『自分で責任を持つからこそ、自分の道具は自分で選ぶ、自分の機体を任せる整備兵を選ぶ。』
『……』
『マルセイユ達がお前達に自分のストライカーユニットを預けているのは、お前達を信用しているからだ。』

あいつのことだ。信用できない整備兵なんか追い出すに決まっている。
ここに長年居る彼らは、あのマルセイユが信用している整備兵なのだ。
整備の腕は保証付き、というわけだ。

『楽しみだ。』
『何がです?』
『アフリカの空を飛ぶことがだ。お前達の整備したユニットでなら負ける気がしない。』
『……』
『大尉殿……』
『私も手伝おう。回せば過熱の癖も確認できるだろう?』
『ええ……そうですね。』
『是非お願いします。』
『最高に仕上げて見せます。』
『ああ、頼む。』

整備班の連中に笑顔が戻って良かった。
私は、彼らに心の底から敬意を払う。空を飛ぶ者なら誰もがそうするだろう。
私達が空を飛べるのは他ならぬ、彼らのおかげなのだから。








そして地上勤務4日目だ。
私が回した効果もあってか、私のストライカーユニットの整備も順調に進んでいる。
この分だと今日には飛べるようになるらしい。
嬉しい限りだ。
早く飛びたい、飛びたいが……浮かれているわけにも行かない。
しっかり働かないとな。

「さてと……今日の予定は……」

予定表には様々なことが書かれていた。

「ん?」

今日は何やらマルセイユが雑誌や新聞の取材を受けるらしい。
ふーむ……今後私も色々な取材を受けることだし、今後のためにも見学させてもらうか。

「あら、おはようトゥルーデ早いのね?」
「ああケイ少佐、おはよう。」

予定表を見ていると、ケイ少佐がテントの中にやってきた。

「私より早起きなんて、もう少し寝ててもいいのよ?」
「気にしないでくれ。この時間帯に起きるのはいつものことだ。」
「ふふ、貴女らしいわね。」

将校として、部下より早くに起床するのは当然だ。
そうしないと部下に示しがつかない。

「少佐、何かやることがあるのか?」
「書類仕事、もう溜まっちゃって……全く嫌になるわ。」
「佐官の辛いところだな。ミーナもそんな感じだった。」

佐官になった途端に書類仕事、果ては上層部との打ち合わせ、苦労が絶えないそうだ。

「何か手伝おうか?」
「あら、いいの?」
「ストライカーユニットの件での私の仕事は終わりだ。後は整備班に任せておけば問題ない。」
「助かるわ、じゃあこの書類を片付けてもらえるかしら?」
「ああ、分かった。」

ブリタニア、ロマーニャでミーナの手伝いをしていたので、書類仕事には慣れている。
どれ……これは補給品関連の書類か。
ストライカーユニットの予備部品の数は問題ない……弾薬が少し心許ない程度か。

「弾薬の補給を要請しておくぞ?」
「ええ、お願い。」

さて次は……




「大体片付いたかな?」
「ええ、ありがとう助かったわ。」
「役に立てたなら幸いだ。」

山積みになっていた書類も大体片付いた。

「そろそろ朝食の時間ね。」
「そうだな……皆も大体集まっている頃だろう。」
「じゃあ行きましょうか。」
「そうだな。」

おお、いい匂いだ。
真美とライーサの作る物は本当に美味しい。
宮藤、リーネといい勝負だ。

「おはよう。」
「あ、おはようございます!バルクホルンさん!」
「おはようございます。」

食堂に入ると、真美とライーサが笑顔で迎えてくれた。

「もう少しで出来るんで、待ってて下さい。」
「ああ。」

腹が減っては戦は出来ぬ。
朝食は1日の活力になる。決して欠かしてはいけないものだ。

「んーおはようございます。」
「おはようございます。」
「おはよう、シャーロット。おはようルコ。」

シャーロットとルコが眠たそうに目を擦りながら入ってくる。
全くたるんでいるな……ここは戦地なんだぞ?
だがまぁ大目に見てやるか。
ん?そう言えばマルセイユがまだ来ないな。

「マルセイユはどうした?」
「マルセイユは一番最後に起きてくると思うけど……」

ま た か。
ここ数日で分かったことだが、あいつはいつも一番最後に起きてくる。
それでは部下に示しがつくはずもない。
ここ数日は見逃してやったが、もう限界だ。

「全くけしからん!私が叩き起こしてきてやる!!」
「トゥルーデ、あまり乱暴なことは……」
「少佐、奴を甘やかしてはいけない!」

あいつにはガツンと言ってやらねばならんのだ!
上官である自覚というものがあいつには全く無い!!

「バルクホルン?」

マルセイユのテントの前にはマティルダが立っていた。
ということは、主は中だろう。

「マルセイユはまだ寝ているのか?」
「寝ている。」
「起こしに来た。入っていいか?」
「構わないが……鷲の使いは寝相が悪い、気をつけろ。」

寝相が悪い?
ふん!!それが何だ!
起きなければ、ベッドから叩き落としてやる!!

「おい!!!起きろマルセイユ!!!」
「ん~……」
「起きんか!!!!!!!!」
「ZZZ……」

こ・い・つ・は

「起きろマルセイユ!!!!これが最後の警告だぞ!!!起きないなら実力行使に移る!!!!」
「やってみろ……ZZZZ」

こいつ本当に寝てるのか!?
寝言でまで私を愚弄するか!!!!

「いいだろう……実力行使だ!!!!!!」

マルセイユの毛布を引っ剥がそうと腕を伸ばすが……

――がしっ!!!

「!?」

伸ばした腕を掴まれ、途端に私はベッドの中に引きずり込まれた。

「な……」
「おはようバルクホルン。」

私を押し倒すような体勢で、マルセイユは不敵に笑う。

「ふふ……やっと来てくれたか。」
「お前……まさか!?」
「待った甲斐があった、ようやく獲物が罠にかかってくれた。」

罠だと!?
こいつ……私が起こしに来ると踏んで毎朝寝たフリをしていたのか!?

「夜に誘っても全然来てくれないからな。」
「あ、当たり前だ!」

あんなの……毎晩できるわけがない!
ここは戦地なんだぞ!?
ふ、不謹慎だ!!!破廉恥だ!!!

「さてと……じゃあもういいかな?」

マルセイユの顔が少しずつ迫ってくる。

「ま、待てマルセイユ!もう朝食の時間だ!」
「朝食はお前だ。」
「おい!お、落ち着け!」
「私は欲しいものは必ず手に入れる主義だ。」

マルセイユの吐息がかかるほどに顔が近い。

「馬鹿!おい、止めろ!」
「鷲は獲物を逃さない……」
「待……むぐっ……んんん……」

私の制止も聞かずに、マルセイユは唇を重ねてきた。

「ん~♪……ちゅ……」
「む~っ!んぐっ!んんん!」
「ん……ちゅ……っ……ふう、ご馳走様♪」
「……な、何がご馳走様だ!!!!」

朝っぱらからふざけた真似を!

「あ、そうだ……」
「な、何を……」

マルセイユが悪魔のような笑みを見せる。
嫌な予感がする……

「おっと……大人しくしていろトゥルーデ。」
「何をする気だ!?」
「こうするのさ……あむっ!」
「なっ!?お、おい!?や、やめ……っ!」

私の首筋にマルセイユがキスをしてくる。
こいつは吸血鬼か!?

「はむっ……んっんっ……」
「や、やめろ馬鹿者!く、くすぐったい!!」

まるで吸血鬼が血でも吸っているかのようだ。

「……ぷはっ……これでよし。」
「何がいいんだ!?」
「鏡で見てみろ。」

ニヤニヤしながらマルセイユは手鏡を渡してくる。

「?」

一体何が……んんんん?
何だこの紅いの……まさかこれは!?

「っ!!!!」

鏡の中の自分の顔が途端に真っ赤になる。

「撃墜マーク……付けさせてもらったぞ、トゥルーデ。」
「なななななななっ!?」

な、何て事を!?
首筋の、丁度肌を露出させてる部分じゃないか!?

「どうしてくれるんだこれ!?」
「ん?」
「ん?……じゃない!!これから朝食だというのにお前は!!」
「見せ付けてやればいいじゃないか。」

こいつは……

「冗談だ、そう怖い顔をするな。ほらこれを使え。」

そう言ってマルセイユはマフラーを手渡してくる。
確かにこれなら首筋を隠せるが……

「何でこんな真似をする?」
「あんたが欲しいからさ、最初の晩にそう言っただろう?」
「だからってこんな真似を……」
「お前は私のものだ……誰にも渡さない。」

マルセイユの瞳が私を覗き込んでくる。
まるで私に暗示でもかけているかのようだ。

「ご、強引なやつだな。」
「欲しいものを手に入れるためなら、私は手段を選ばない。」
「私の意志はどうなるんだ?」
「そういえば聞いてなかったな。トゥルーデ、私のことが好きか?」

自分で言っておいて何だが、どう見ても墓穴を掘ってしまった。

「私はお前のことが……好きだぞ。」

マルセイユは私のことを好きだ、と言ってくれた。
嘘偽りのない、真摯な告白だ。

「私にはまだ良く分からない。確かにお前には腹の立つ時だってある。だが……嫌いではない。」
「本当に?」
「本当だ。」

真摯な態度には、真剣に応えよう。
私は自分の本音をしっかり言ってやった。

「よし、見込みはあるわけだな。」
「?」
「お前を私の虜にしてやる。絶対にだ。」
「全く……強気だな。」

こいつの自信は一体どこから沸いて来るんだが。

「腹が減っては戦はできないからな、行くぞトゥルーデ!」

食堂に戻る頃には全員が勢ぞろいしていた。
食事中皆は時折、私の首に不自然に巻かれたマフラー視線を送ってきたが、誰もそれを話題にすることはなかった。







時計の針が10時を指した頃、基地に各国の取材陣が続々と集まってきた。
501に居たときも、ハルトマンが取材を受けているのを見たことはあったが……

「すごい人数だな。」

全部で何人いるんだこれは?
新聞、ラジオ、雑誌……様々なメディアの人間がいる。
おっと宣伝省の人間までいる。

「驚いているようね。」
「ああ、こんな数のメディアの人間を見るのは初めてだよ少佐。」

さすがにケイ少佐はこの光景を見慣れているようだ。

「大丈夫?今後は貴女に彼らの相手をしてもらうのよ?」
「大丈夫だ……と言いたいところだが、不安だな。」

どんな風に受け答えをすればいいのか見当もつかない。
お、マルセイユが来たな。

「我らがアフリカの星のお出ましね。」
「ああ、じっくり見学させてもらおう。」

流石に慣れているようだな。
まぁ……元々あいつは物怖じするような性格ではなかったしな。
メディアへの露出はあいつが適役だ。

「ところでケイ。」
「何かしら?」
「ユニットの調整も昼過ぎには終わる。午後になったら哨戒飛行とテストを兼ねて飛びたいんだが、許可願えるか?」
「いいけど……気をつけてね?」
「ああ、分かっている。」

今日の哨戒区域は戦線後方の南部地区だ。
ネウロイと会うこともないだろうし、テスト飛行にはうってつけだ。

「どう?教え子が立派になった感想は?」
「……マルセイユのことか?教え子って……私が実質的に教えたのは1ヶ月かそれくらいなんだが……」

いや、もっと短いかもしれない。
あいつはハルトマンと同期だが、すぐにJG27に異動になった。
戦場で顔を合わせることは多かったが、これといって特に指導をした憶えもない。
ビフレスト作戦の時だって……一緒に戦いはしたが……

「子は親の背中を見て育つ。」
「何?」
「子供っていうのはね親を見て育つ……そういうものよ。」
「マルセイユが私を見て育ったと?冗談はやめてくれ。」
「冗談なんかじゃないわよ。マルセイユの心の奥にはいつも貴女がいたもの。」

私がマルセイユに影響を与えたということか?
うーむ……心当たりがないんだが……

「まぁ……悪い気はしないな。」
「あら、それだけ?」
「ウィッチとしてもあいつは立派だ。私が教えることはもう何もない。」

あいつは立派になった。
いや、マルセイユだけではない。
ハルトマン、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、シャーロット、サーニャ、エイラ……
皆立派になった。
この31部隊の連中だってそうだ。
そう思うと中々感慨深い。

宮藤も……立派なエースになっただろうに……

「次の世代を担うウィッチ達が立派に育っていくのを見るのは、感慨深いものだな。」
「そうね。」
「私も後2年……飛べるか飛べないか……」

私も、もう18だ。
後2年もすれば『上がり』を迎える。

「後2年もあるのに随分気が早いのね?」
「そうか?」
「そんな風だとあっという間にお婆ちゃんになってしまうわよ?」
「ははは、違いない。」

そうだな、後2年もあるんだ。
この2年は大事に使おう。

「この2年を使って、次の世代にいい未来を託せれば幸いだな。」
「そうね……私も頑張らないと。」
「でもまぁ……余計なお節介かもしれないな。」
「?」
「あいつらを見ていて確信したよ。全ては受け継がれ流れているとな。」
「そうね。」
「でもまだ退くつもりはないぞ?ネウロイを駆逐するまでは前線に留まるつもりだ。」
「貴女らしいわね。」
「でも……あいつらになら……安心して後の事を任せられる。そんな気もするんだ。」
「ええ……」

この先、戦争はまだまだ厳しくなる。
辛い目にも遭うし、絶望だってするかもしれない。
だが、それでも彼女達ならきっと乗り越えられる。
互いに助け合い、どんな困難でも乗り越えてくれることだろう。

「私達の後輩が立派だと、本当に安心できるわね。」
「ああ……安心だ。」

立派な後輩を持つことが出来て、私は本当に幸せ者だ。






マルセイユの取材が終わったのは11時、それから昼食までの1時間、ケイ少佐の書類仕事の手伝いをした。
その後昼食を済ませ、私は整備班からストライカーユニットを受領した。
整備も完了し、ストライカーユニットは間違いなく最高の出来に仕上がっている。

「バルクホルンより基地管制へ、これより哨戒任務に出る。離陸許可を求む。」
『了解離陸を許可する。』

エンジンを思い切り吹かし、大空へと舞い上がる。
ああ、久しぶりだなこの感覚。
ロマーニャ以降、こうして空に上がるのは久しぶりだ。
大空を自在に駆け巡るのは、とてもすばらしいものだ。

『上がったようねトゥルーデ。』
「ああ、ケイ少佐。機体も安定している、問題ない。」
『それは何よりね、貴女の哨戒する区域は戦線の後方だからネウロイは来ないと思うけど用心してね。』
「了解した。」
『それと貴女の機番は黄色の7よね?』
「ああ、7になっている。」
『昨日の内にマルセイユが整備班に頼んだそうよ。バルクホルンの機番は幸運の7にしてくれって。』
「それは有難い。幸運は弾薬を同じくらい必要だ。」

黄色の7、幸運の7か……うん気に入った。

『というわけで、貴女のコールサインは黄色の7ってことで。』
「了解した。黄色の7これより哨戒区域に向かう。」

眼下に広がる熱砂。
こうして空からアフリカの砂漠を見るのは初めてだ。
輸送機の中から見るのとはわけが違う。
機体の調子も文句なし、最高だ。







「バルクホルンはもう上がったのか?」
「ええ、上がったわ。」
「昼飯の時から随分ご機嫌だったが……まるで子供だな。」

マルセイユ……トゥルーデの31部隊配属が決定した時の貴女も、子供みたいにはしゃいでいたけどね。

「司令、ノイエ・カールスラントから通信が入っています!」
「ノイエ・カールスラント?」

何かしら?ノイエ・カールスラントって言ったら……あ!もしかして!

「もしもしお待たせしました。31統合戦闘飛行隊の加東です。」
『あ、どうもお忙しいところ申し訳ありません。私カールスラント国防軍総司令部のラインダース少佐と申します。』
「とんでもございません。わざわざご連絡ありがとうございます。」
『今回ご連絡差し上げましたのは、ゲルトルート・バルクホルン大尉の柏葉・剣付騎士鉄十字章のことでございまして……』

やっぱり!こないだ書いた推薦書、向こうに届いたのね。

『こちらと致しましては、バルクホルン大尉が受け取って下さるのなら叙勲を、と。』
「本当ですか!?」
『ええ勿論です。ですが……過去に2度バルクホルン大尉の方から辞退の申し出があったので……その……バルクホルン大尉に受け取る意思があれば嬉しい限りなのですが……』
「本人も受け取る意思があるので是非!」
『そうですか、いやこちらとしても有難い限りです。』
「そうですね。あ、でも大尉が辞退したのは決して悪意があったわけではなく……」
『存じております。大尉本人から辞退の旨を書簡でいただいておりますので。』
「そうでしたか。」
『彼女の誠実さが伝わってきましたよ。ですからこちらも彼女に悪い印象は全く抱いておりませんのでご安心を。』
「そうですか、それは幸いです。」
『授与式等の段取りは、全てこちらが行いますのでご安心下さい。』
「ええお願いします。」
『では失礼します。』
「はい、失礼します。」

ふう……これで勲章の件はこれで落着ね。

「今の通信、バルクホルンの勲章の話か?」
「ええ、これで大尉の勲章に剣の飾り物が付くのは確定したわ。」
「そうか!」

マルセイユったら、本当に嬉しそうな顔をするのね。

「そんなに嬉しい?」
「ん?……あ、いや……その何だ。ま、まぁあいつが勲章を授与すればこの部隊もさらに有名になるからな!」

嘘ばっかり。まるで自分のことのように喜ぶのね。
いや……もしかしたら自分の時より喜んでいるんじゃないかしら?

「嬉しいのね?」
「む……だから部隊が有名に……」
「嬉しいんでしょ?」
「ぐ……分かったよ……あいつの叙勲は嬉しいよ。ケイに隠し事はできないな。」

何年一緒に居ると思っているのかしら?
マルセイユが隠し事をしたってすぐに分かるわよ。

「やっぱり好きな人が勲章授与されるのは嬉しい?」
「好きって……」
「悪戯だけでキスマークを付けるの?」
「知ってたのか。」

普通分かるでしょ。
貴女を起こしに行ったトゥルーデが中々戻ってこないし、おまけに首にマフラー巻いて戻って来るんだもの。

「確かにあいつのことは好きだ、愛している。でも、それと勲章の話は別問題だ。」
「どういうこと?」
「撃墜数、カールスラント撤退時のあいつの行動は称えられて然るべきだ。」

カールスラント撤退戦か……
私は祖国を失った経験などないし、内地が戦場になったことも殆ど無い。
だから私には分からない。民衆が逃げ惑い、戦友が斃れ、その最中を撤退していく苦しみを。
その苦しみが、どれほどのものなのか……
想像も出来ない苦しみの中、トゥルーデはマルセイユに尊敬されるようなことをしたのだろう。

「使命を果たした者は十分に報われるべきだ。」
「そうね……」
「例え今回の勲章が、あいつの撃墜スコアだけを称えたものであっても……それでも構わないさ。」
「それはちょっとおかしくない?」

トゥルーデが撃墜スコア以外でも称えられるべきことをしたというなら、今回の勲章の件とは別に勲章をもらうべきだ。

「いや、いいんだ。」
「どうして?」
「あいつはきっと……『私は皆と同じことをしただけ。当然の責務を全うしただけだ。』、こう言うだろう。」

確かに……トゥルーデならそう言うかもしれない。

「公式文書でのバルクホルンへの叙勲理由が撃墜スコア数でも……私やハルトマン、それに助けられた人間の目には違って見える。それで十分だ。」
「分かる人間にだけ分かるってことね。」
「そういうことだ。あの頑固者の勲章に剣の飾り物が付く、それはとても嬉しいことなんだよケイ。」

本当に嬉しそうな顔をしちゃって……
あーあ、少し妬けちゃうかもしれないな。

「妬いているのか、ケイ?」
「……そんなことないわよ?」
「何年一緒に居ると思っているんだ?隠し事をしたって分かる。安心しろ、バルクホルンと同じくらいケイも大切だよ。」

ニヤニヤしちゃって……全くもう、さっきの仕返しのつもり?

「でも……」
「ん?」
「いつか、彼女のしてきた事が報われる日が来ればいいわね。」
「……ああ、そうだな。」

きっと来るに違いない。
マルセイユも私も……それを強く願っているのだから。








見渡す限り一面の砂漠、地平線の向こうまで砂漠が広がっている。
地上にも、空にもネウロイの影も形もないな。
戦線の後方なんだし、当然と言えば当然か。
アフリカ軍団は一時、トブルク正面まで押されていたと言うのだから、この辺りも少し前までは激戦区だったのかもしれないな。

「ん?」

何だ?遥か前方に機影が見える……友軍機か、それともネウロイか?
もう少し接近しないと分からないな。
よし……慎重に距離を詰めてみよう。
距離を詰めるにしたがって、徐々に黒点が輪郭を帯び始める。

「あれは……リベリオンのB-17か?」

どうやら友軍らしい。

『未確認機に告ぐ、こちらはリベリオン空軍第91爆撃航空群第324爆撃飛行隊所属メンフィスベル号。そちらの所属姓名を明らかにせよ。』
「こちらは第31統合戦闘飛行隊所属、コールサイン黄色の7、ゲルトルート・バルクホルン大尉だ。」
『ストームウィッチーズか?こんな所で何を?』
「この区域の哨戒飛行任務だ。そちらは?」
『君と一緒だよ。』

哨戒飛行か。この区域を担当しているのは私だけではなかったようだな。

『やれやれ肝を冷やした……はぐれネウロイかと思ったよ。』
「お互い様だ。」
『僕は機長のロバート・モーガンだ。ウィッチと会えて光栄だ。』
『副操縦士、ジェームズ・ヴァーニスだ。よろしく戦友。』
「ああ、よろしく。」
『ウィッチか、俺が見えるか?右側面銃手のガシマー・ナスターだ!』

右側面銃座を見ると、元気よくこちらに向かって手を振っている男の姿が見えた。

『おい!どけよガシマー!左側面銃手のクラレンス・ウィンチェル、よろしく!!』
『通信士のロバート・ハンソンです!狭いよ!お前らどけ!!!』
『邪魔だ!ボケ!上部旋回銃手のハロルド・ロッホだ!よろしくな!』

大の男が4人、場所を争い右側面銃座から手を振ってくる。
リベリアンは陽気過ぎるというか何と言うか……

『はははは馬鹿共め!こっちからは彼女の姿がハッキリ見えるぞ!爆撃手のヴィンセント・エヴァンズだ。よろしくお嬢さん。』
『何を格好つけてるんだが……航法士のチャールス・レイトンです。迷った時は私に連絡して下さい。』

機首の方の窓から男が2人手を振ってくる。

『畜生見えない!おい!お前ら、俺のことをここから出せよ!』
『誰が出すもんか、お前はずっとそこにいろ。』
『お前にはまだ早い。』
『お前ら、兄弟に対する愛ってもんがないのか!?』
『ポーカーの負け分、今日中に払うなら愛してやるよ。』
『ひでえ奴らだ……』

喧嘩するほど仲がいい、ということにしておこう。

『くそったれどもめ……ウィッチになんて滅多に会えないのに……』
『持ち場に戻れ馬鹿共、任務中なんだぞ。』
『はいはい分かりましたよ機長様。』
『イエッサー、機長殿。』
『畜生め……俺だけ見れないのかよ……』

そんなに落ち込むことか?
……何だか少し哀れに思えてきた。

「落ち込んでいるお前の名前は?」
『か、下部旋回銃手のセシル・スコット!』

下部旋回銃手と言うと……あの機体の下に付いている丸っこいやつか。
恐らく誰かに入り口を開けてもらわないと出入りできんのだろう。
……やれやれ仕方がない。
私は高度を落とし、ギリギリ近づけるところまで、近づいてやった。
お互いの顔もハッキリと見える。手を伸ばせば届きそうなくらいだ。

「第31統合戦闘飛行隊所属ゲルトルート・バルクホルン大尉だ。よろしくな、セシル・スコット。」
『よ、よろしくお願いします!』

互いに敬礼し、挨拶をする。
よしよし、これで少しは元気に……

『セシルお前ずるいぞ!』
『この野郎!てめぇ!』
『や、やった……すごい……こんな近くで……』
『近……どんくらい近かった!?』
『手を伸ばせば届きそうだった!』
『てめぇ!』
『ざ、ざまあ見やがれ!バルクホルン大尉、ありがとう!!』
「げ、元気が出たなら何よりだ。」

喧嘩の種を作ってしまった気もするが、まぁ……いいのかな?

『尾部銃手のジョン・クインランです。僕も大尉の姿が見れなくて、少し元気が……』
「な、何?仕方ないな……」

今度は後ろに回りこみ、尾部銃手に顔を見せてやる。

「こちらが見えるか?」
『バッチリです大尉!』
「元気出たか?」
『勿論です!』

満面の笑みだ。
まぁ元気が出て何よりだ。

『大尉、俺も元気が……』
『俺も。』
『俺も。』
『馬鹿共!!任務に集中しろ!!!ったく。大尉、部下が迷惑をかけて申し訳ない……』
「いや、気にするな。私の顔で元気が出るなら何よりだ。」

私の顔を見たぐらいで、士気が上がるなら……
……士気が上がる、か。
そうだな……私の顔で士気が上がるならメディアに顔を出しても悪くはないな。

『大尉一つ聞いてもいいかな?』
「何だ?」
『ストームウィッチーズと言えば前線の花形だ。それが何故こんな所で哨戒飛行を?』
「私はアフリカに来たばかりでな。テスト飛行と哨戒任務を兼ねて飛んでいる。」
『なるほど。』
「そちらは何故?」

リベリオン空軍の爆撃飛行隊と言えば、前線の空の要塞だ。
ネウロイが押し寄せて来たときに、爆弾をばら撒く……ネウロイに対する備えの1つだったはずだ。
それが何故こんなところで哨戒任務を?

『25回の任務を終えた者は、安全な後方の哨戒任務に就く……こういう規則があるのを知っているかい?』
「初耳だ。」
『これはリベリオン空軍独自の決まりなんだ。』
「なるほど。つまり……」
『ああ、我々は25回の爆撃任務を終えたのさ……奇跡的にね。』

奇跡的に……か。
話には聞いていた、爆撃任務の厳しさを……
ネウロイからの激しい攻撃の最中を、無防備同然で飛び爆撃を敢行する。
私達ウィッチはシールドを張れるからまだいい。
だが……彼らは違う。
1発攻撃を喰らえばそれで終わりだ。
彼らの技量がいかに優れていようと、それは意味を成さない。
彼らが恃みにできるのは、自分達の運だけだ。
だから機長の言った『奇跡的』という言葉は決して大げさなことではないのだ。

「……そうか。」

何故彼らが……そんな無謀とも言える任務に就かなければならないのか。
答えは簡単だ。
ウィッチの数が足りない。その穴埋めだ。

『大尉……君は我々を軽蔑するかい?』
「いや?何故そう思う?」
『我々は25回の任務を終えただけで、こうして安全な任務に回される。君達ウィッチが命がけで戦っているのにね。』

軽蔑などするわけがない。
命がけで任務を果たした者を誰が軽蔑などするか。

「私は貴方達を軽蔑などしない。25回の出撃……貴方達は地獄を見てきたのだろう。」
『……ああ。』

彼らは間違いなく潜り抜けてきたのだ、地獄を。
次々堕とされていく戦友達……無線越しに聞こえる戦友達の悲鳴……
それは正真正銘の地獄だ。
地獄を駆け抜けてきた彼らを軽蔑などできるわけがない。
こればかりは戦場を経験した者にしか分からない。
私も地獄を見てきた。だからこそ分かるのだ。

「貴方と貴方の部下達は人類のため、勇敢に戦った。地獄の様な有様をその心に刻み、今も戦い続けている。」
『戦い?』
「戦いだ。後方地域の哨戒任務も、機体の整備も、補給も、工場での機体や弾薬製造も。」
『そうか……』

それらは全て戦いだ。
1つとして欠けてはならないものだ。

「そろそろ私は別の区域の哨戒に行く。」
『ああ、そうだな。引き止めてしまって悪かったね。』
「気にするな。」

ここ一帯は彼らに任せておけば安心だ。

「じゃあな戦友。」
『ああ、ありがとう戦友。またな。』







『行っちまったな。』
『ああ……』
『いい子だったな。』
『うん、本当にいい子だ……』
『ゲルトルート・バルクホルン大尉……か。』
『カールスラント人……だよな?』
『だな。』
『俺らなんかより、よっぽど辛い目に遭ったはずだよな。あの子……』
『見たくもないもの沢山見て、聞きたくないもの沢山聞いただろうな……』
『……自分の故郷を失うってどんな気持ちなんだろうな。』
『俺達には分からねぇな……』
『ああ、分からない。』
『あの子……いやウィッチ達には死んで欲しくないな。』
『死んじゃあいけねえよ……』
『ああ、そうだ。』
『バルクホルン大尉……どっかで聞いた気がするな。』
『どこでだよロバート。』
『新聞か何かで見た気がする。』
『有名な子なのか?』
『さぁ……思い出せないよ』
『役に立たない奴だよ、お前は。』
『うるさい。』
『有名でも無名でも、いい子なのには変わらないさ。』
『違いない。』








ゲルトルート・バルクホルン大尉。
カールスラント空軍JG52第2飛行隊司令、正式撃墜スコア350機。
1940年戦況の悪化からガリアへ撤退。
1941年戦況の悪化からブリタニアへ撤退。
連合軍第501統合戦闘航空団に参加し、ブリタニア、ロマーニャを転戦。
ロマーニャ地方のネウロイの巣消滅後、アフリカ戦線へ異動。

これが、彼女に関しての記述。
たった数行の記述書。
私はこの手の記述書を見ると陰鬱な気分になる。
兵士が命を賭して戦った戦記が、たった数行の文字で済まされてしまうのだから。

私の名はエミール・フォン・ラインダース。
カールスラント国防軍少佐だ。

父が国防軍の大将であることから、こうして安全な後方勤務要員として働いている。
私は自分を恥じる。
年端もいかない少女達が命がけで戦っているのに私は……
本来なら職業軍人であり、男である自分が真っ先に戦地に赴くのが道理だろう。
私は……卑怯者だ。

そんな卑怯者の私にできる私の恩返しと言えば、こうして功績を上げた彼女達に勲章を渡すことしかできない。
だが、彼女達にとって勲章になんの価値がある?
生と死の狭間を飛び、功績を上げた彼女達に対する報いがこれだけ?
職業軍人である私なら名誉に思う。
だが……彼女達は年端もいかない少女なのだ。
その彼女達に対して勲章を渡すというのは……つまり彼女達を軍人として扱う、ということだ。

年端もいかない少女達を軍人として扱う……これは許されることなのか?
現状戦力でネウロイに対抗する有効な手段は、ウィッチを中心とした戦法しかない。
無論それは私にも分かっている。
だが……それでも彼女達を戦場に送り出すことに私は……

「ラインダース、バルクホルン大尉の件はどうなったかね?」
「ヤーンケ大佐……ええ、受け取ってもらえるそうです。」

ヤーンケ大佐。私の上官だ。
周囲の者は彼のことを無能者と呼ぶ。

「おお、そうか。いやよかった!」
「ええ、嬉しい限りです。」
「嬉しいと言う割には……どうした?悩み事か?」

確かに彼は家柄だけで、大佐への階級に上り詰めたのは事実だ。
本人も、自分は無能者だと言っているくらいだ。

「いえ、何も。」
「嘘を言うな……私には分かる。また自分を責めているんだろう?」
「大佐……」
「お前は卑怯者でも臆病者でもないよ。兄と弟が戦死して、それで仕方なく後方勤務要員になったんだろう?」

兄は40年のビフレスト作戦で、弟は41年のダイナモ作戦の最中に死んだ。
航空ウィッチの妹が生きているのが唯一の救いだ。
残された男である私は、ラインダース家を継ぐためこうして後方勤務要員になったのだ。

「お前は勇敢に戦ったんだ。初めから後方勤務要員だった私と違ってな……」
「私は勇敢になど……」
「頬にこんな大きい傷を付けているのに?」
「……」
「な?ここで働いている者で無能で臆病者は私だけなんだよ。」

この人は確かに書類仕事などできやしない。
でもこの人は決して卑怯者ではない。
周囲の者が、この人を無能者と思いつつも慕っている理由がこれだ。
だからこそ、皆がこの人を支えるために働いているのだ。

「彼女達を戦場に送り出すのは私だって心苦しい……」
「大佐……」
「10代は人生で一番大切な時期だ。その時期に戦争に行くだなんて……」

この人は……本当に悲しそうな顔をする。
他人の痛みを自分の痛みの様に感じられる男。
だからこそ私は……

「大佐。気弱になってしまい申し訳ありませんでした。」
「ん?あ、いや……うん。お前が元気になったんならいいんだ。」
「自分達にできる最大限のことで彼女の功績に報いましょう。」
「そうだな……で?……どうしようか?」
「贈り物など如何でしょう?品物の選定は私にお任せ下さい。」
「やってくれるか?頼んだぞラインダース。彼女が喜ぶような物を選んでくれ。」
「お任せ下さい。」

彼女達のためにも、大佐のためにも私は自分のできる務めを果たす。









異常なし……と。
はぐれネウロイもいない。

「黄色の7より基地司令へ、ポイント青異常なし。」
『了解、引き続き哨戒されたし。』
「黄色の7、了解した。」

ネウロイがいない事に越したことはない。
明日以降は嫌でも見ることになるだろう。

「……?」

何だ?何か地平線の彼方に何か見えた気がする。
友軍機か……?
いや、違う。
黒点の数が1つ……2つ……どんどん増える。
この辺りには哨戒飛行している友軍機しかいないはずだ。
あんな編隊で飛ぶわけがない。

「付近に展開中の各部隊に告ぐ!ポイント青にてネウロイを発見!繰り返す、ポイント青にてネウロイを発見!」

間違いない、ネウロイだ!

「規模は大型飛行ネウロイ1、中型飛行ネウロイ15、小型飛行ネウロイ20、南方から侵入し北上している!」

戦線を大きく迂回し、南から侵入してきたというのか!?
くそっ!!

『こちらメンフィスベル号、黄色の7聞こえるか!?』
「ロバート機長か!?」
『そうだ!そちらを視認した、こちらが見えるか!?8時の方向だ!』

8時の方向を見ればB-17が1機、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。

『ネウロイはどこだ!?』
「3時の方向だ!」
『確認した!こちらで詳細な座標を付近の部隊に伝える!』
「感謝する!」





「モントゴメリー閣下!」
「何事だ?」
「哨戒機がポイント青でネウロイを発見しました!」
「何だと!?規模は!?」
「規模は大型飛行ネウロイ1、中型飛行ネウロイ15、小型飛行ネウロイ20、南方から侵入し北上している模様です!」
「何だと……!?すぐに航空魔女を緊急発進させろ!」
「はっ!!」
「まずいぞ……あの場所には……」





「ケイ司令!!」
「どうしたの?」

通信兵が慌てている。
こういう時は大抵ろくなことがない。

「緊急発進命令です!!ポイント青にて大型飛行ネウロイ1、中型飛行ネウロイ15、小型飛行ネウロイ20が北上していると!!」
「何ですって!?すぐにマルセイユに知らせて!!」
「了解!!」

ろくな話どころではない。
報告が正しいとすれば……ネウロイは補給基地を狙っていることになる。
武器、弾薬、おおよそ戦いに必要なものを揃えてある基地だ。
あそこを潰されたら前線部隊は補給を受けられなくなる。
最悪の場合……戦線が……

「回せーーー!!!!!」
『準備出来次第発進しろ!急げ!』
『マルセイユ発進する。』

マルセイユが、そしてその後を追うようにライーサ、そしてマミも発進していく。
お願い間に合って!

『こちらバルクホルン、ケイ少佐聞こえるか!?』
「トゥルーデ!?貴女今どこに!!?」
『ポイント青にてリベリオン空軍のB-17と共にネウロイを監視中だ。』

そうだった……トゥルーデが哨戒飛行している場所はポイント青だった。
戦線の後方でネウロイも来ないから、テスト飛行には丁度いい、と。
あの場所にネウロイは来ない。誰もがそう思っていた。
だからあの場所に補給基地を設けたのだ。

『緊急発進はしたか!?』
「マルセイユとライーサ、それにマミも飛んだわ!」
『そうか……ならこのままネウロイを見失わないように監視を続ける。』
「……」

そうか……トゥルーデは知らないんだ。
ネウロイの目指している先に補給基地があることを。
私は……どうするべきだろうか?
彼女に教えれば……彼女は恐らく……

『ケイ少佐?』
「……聞いてトゥルーデ……そのネウロイが目指している先には補給基地があるの。」
『……マルセイユ達は間に合うのか?』
「ここからポイント青まで30分、そこから補給基地まで20分ってところね。」

このままだとネウロイが補給基地に着く方が絶対に早い。

『補給基地を潰されたらどうなる?』
「前線部隊への補給が滞るわ。」
『その間にネウロイが攻撃してきたら?』
「戦線が崩壊する……かも。」
『ケイ少佐、交戦許可を。』
「……トゥルーデ……」
『迷っている暇はない。ケイ、貴女は指揮官だ。時には冷徹になることも必要だ。』

冷徹な指揮官か。
そんな指揮官になるのだけはごめんだわ。
でも……このままじゃ戦線が崩壊し、人類はアフリカを失うことになりかねない。
そうなれば、これまでアフリカで死んでいった兵士達は犬死したことになってしまう……
でもだからと言って……こんな命令出したくない……
命令を出したら彼女はたった1人で……

『私は死なない。』
「……え?」
『マルセイユと約束した、絶対に死なないと。だから安心しろ。』
「……本当に?」
『本当だ。』
「たった一人で戦えるの……?」
『戦える。』
「大型飛行ネウロイ1、中型飛行ネウロイ15、小型飛行ネウロイ20よ……生きて帰ってくる?」
『私を誰だと思ってる?』

ゲルトルート・バルクホルン大尉。
カールスラント空軍カールスラント空軍JG52第2飛行隊司令。
正式撃墜スコア350機のスーパーエース。

……ありがとうトゥルーデ……

「交戦を許可します。可能な限り足止めをして。」
『黄色の7、了解。』

お願いよ、死なないでねトゥルーデ……







「黄色の7、交戦を開始する!」
『交戦って……冗談だろ!?』
「冗談なものか。この先に補給基地があるらしい。そこを潰されたらアフリカ軍団はおしまいだ。」
『しかしだからと言って……』

無謀なのは百も承知だ。
でも、今ここで時間稼ぎをできるのは私以外誰もいない。

「大丈夫だ。こんな状況、カールスラントや501に居た頃と比べたらピンチの内にも入らん。」
『本当に大丈夫なのか!?』
「ああ、問題ない!」

ネウロイのコアの場所は、ケイ少佐が作成した資料に記載してあったので分かる。
後は、一撃離脱の戦法でネウロイを少しずつ削いでいけばいい。

『501……あ!思い出した!』
『こんな時に何だよロバート!?』

まずは先導しているネウロイを潰す。
そうすれば、編隊は乱れるはずだ。

『前に新聞に書いてあったんだよ!』
『だから何がだよ!?』

よし、行ける。
この程度の攻撃ならシールドを張れば問題ない。

『ガリアを開放、ロマーニャでネウロイの巣を駆逐した第501統合戦闘航空団に、撃墜数350機の凄腕ウィッチが居たんだ!』
『それがどうし……おい、まさか?』

コアの場所は分かっている、堕ちろ!!!

『正式撃墜スコア350機!カールスラント空軍、ゲルトルート・バルクホルン大尉だ!!!』
『350!?』
『おい見ろ!先頭の中型ネウロイをやったぞ!』

よし、先導機は落とした。
む?小型ネウロイが……なるほどこいつらは護衛役か。

『すげえ……』
『お、おい!小型ネウロイが大尉に!!』

こいつら中型に比べて攻撃力は劣るものの、機動性は脅威的だ。
大型、中型からの攻撃も激しい……一旦引き離すか。

『おいおい大丈夫なのかよ?』
『小型ネウロイに追い回されているぞ!?』
『機長!何とかならねえのかよ!?』
『バルクホルン大尉!こっちまで小型をつれて来い!そうすればこちらの機銃で何機か堕とす!』

申し出は有難いがそれは却下だな。
小型の攻撃とはいえ、20機も集まればB-17を堕とすには十分な攻撃力だからな。
それに……そちらに頼るまでもなく、こうすれば!

『小型ネウロイが大尉を追い抜いた!?』
『オーバーシュートか!?』

こちらが加速すればするほど、追いかけてくるネウロイも加速してくる。
その時に私が急に減速すればネウロイは勢い余って、私のことを追い抜いてしまう。

「もらった!!!」

ネウロイが体勢を立て直すよりも先に、私のMG42が火を吹く。
よし10機は削れた。
後はシールドを張りながら攻撃しても十分に凌げる。

『すげえ!小型ネウロイを次々に堕としてる!』

すばしっこくて弾を当てるのが少し難しいが、やれないことはない。
よし……後7機か。

「機長、小型ネウロイをそっちに連れて行く!私がそちらの真横を飛ぶから堕としてくれるか!?」

ネウロイに私の後を追わせ、B-17の真横を飛び抜ける。
7機なら撃ち漏らして、B-17が反撃を受けることもない。

『任せてくれ!皆準備するんだ!!』
『準備ならとっくに済んでる!早くこっちに来てくれ!』
「よし行くぞ!」

小型ネウロイは……よし付いて来ているな……
オーバーシュートを狙ってもいいんだが、弾の無駄になる。

『いいか、合図で一斉射撃だ。』
『分かってる……』
『バルクホルン大尉が来るぞ。』
『今6時の方向だ、よし来るぞ……』

危険なことに巻き込みたくはないが、弾の消費を抑えるためだ……すまない。

『来るぞ……』
『大尉が横をすり抜けた!』
『撃て!!!!』
『糞ネウロイ共が!!!!!』
『地獄へ送ってやれ!!!!!!』

私が通り抜けた直後に凄まじい銃声が聞こえたが、小型ネウロイはどうなった!?

『やったぜ!!!』
『ざまぁ見やがれってんだ!!!』

後ろを振り向き、ネウロイの姿を探すがそこにネウロイは居ない。
そこにあるのはキラキラと輝くネウロイの残骸だけだ。

「ありがとう、助かった!」
『これくらいどうってことないぜ!!』
『見ろよ、大型ネウロイと中型ネウロイが鈍り出したぞ!』

味方を多数失い、動きが鈍り出したのか?
動きは鈍ったが……それでもマルセイユ達の到着は間に合いそうにない。

「引き続き攻撃を仕掛ける。」
『まだやるのか!?もう十分だろう!?』
「いや、このままじゃ補給基地が潰される。」
『君は確かに強い……でも!』
「機長やれねばならないんだ。それに……」
『それに?』
「こんな、たるんだネウロイ共には教育が必要だ。」

護衛機がやられたからと言って、怯むとはなっていない証拠だ。

『分かった……でも気をつけるんだよ?』
「ああ、分かっている。」

残りのネウロイは大型1、中型が14機か。
小型ネウロイの護衛もないから、一撃離脱に専念できる。
高速で接近し、コアの部分に集中射撃をし、全速力で離脱する。
これを繰り返せば何とかなる。
何とかなるが……それは中型だけの話だ。
大型のコア周辺の装甲は分厚く、MG42の弾幕だけで削りきれるかどうか……
もし仮に中型を全滅させたとしても、大型の攻撃力は中型の全滅を補って余るほどの脅威だ。
この大型1機でも、補給基地を潰すには十分な火力がある、というわけだ。

「やれやれ……」

結局、大型は最優先で潰しておかないといかん……か。
できる限り弾薬の消費を抑えつつ、大型を潰す術。
結局あれしかないわけか。

『な、何だ?大尉が急上昇していくぞ?』
『大尉!?』

よし、これくらいまで上昇すればいいだろう。
後は急降下して、私の固有魔法を使えば……何とかなる!

『バ、バルクホルン大尉、急降下!!!』
『馬鹿な!?ネウロイに突っ込むつもりか!?』
『あの大尉がそんなことするかよ!おいロバート!写真撮っておけ!』
『あ、ああ!』

目標を外さないようにしないと……
くっ……さすがにネウロイも死に物狂いで狙ってくる。
落ち着け……砲火に惑わされるな……恐れるな……ネウロイのコアを……叩き潰す!!

「はあああああああああああああああ!!!!!」
『嘘……だろ?』
『信じられん……ネウロイを銃床で殴って……真っ二つにへし折りやがった……』
『これが……カールスラントの魔女の力……なのか?』

よし、何とかコアも潰せたようだ。
これで残ったのは中型14機だ。
後は一撃離脱を繰り返して、マルセイユの到着を待てばいい。










「頼む!間に合え!」

何であいつが1人で戦う羽目になる?
何であいつは1人ぼっちになってしまうんだ!!
いつもそうだ、あいつは地獄に取り残されてしまう!
何故だ!?
今も思い出す、ビフレスト作戦の時もそうだった。




『最高司令部の連中が逃げ出した!?』
『そんな……』

市民の避難を助けるため、私達はベルリン近郊で絶望的な戦闘を続けていた。
いや……私達だけではない。
陸軍も空軍も死闘を続けていた。
そんな中……指揮を行うべき最高司令部の連中が逃げ出したのだ。

『え……ひっ……』
『うわぁ……!!』

呆然とその場に立ち尽くす者、恐怖に駆られ逃げ出す者……
無理もない。最高司令部を当てにしていなかった私でさえ、呆然としてしまったのだから……
士気が崩壊した瞬間だった。

『退くな!退くんじゃない!』

そう命ずる司令の声は余りにも虚しかった……

『司令!ここはもう駄目です!退くべきです!』

そんな時だった、バルクホルンの声が聞こえたのは。

『だが、しかし!!』
『私が時間を稼ぎます!その間に退いて下さい!』
『お前……何を……』

私は混乱する戦場の中、バルクホルンの姿を探した。
そして見つけてしまった。見てしまった。
両手にMG34を抱え、無数のネウロイ共の前に立ちはだかる1人のウィッチの姿を……
その姿をその場に居た奴は全員が見ただろう。
あいつはまさしく英雄だった。
地獄の様な戦場に残った、たった1人の……いや違う。
地獄の様な戦場にたった1人、取り残されてしまった英雄だ。

『中尉!!!!』

私はたまらずエンジンを吹かし、あいつの後を追おうとした。
私も英雄になろうと思ったわけではない。英雄なんて真っ平ごめんだ。
ただ、バルクホルンを英雄にしてはならないと思った。あの女を1人で死なせてはならないと思った。
でも私に何ができる?軍規もろくに守らない厄介者だ。
だが、バルクホルンに襲い掛かってくるネウロイを堕とし、シールドを張りあいつを守ることならできる。
それが叶わなくても、一緒に死んでやろうと思った。
あいつを1人ぼっちで死なせはしない。死なせてはならないんだ。

『駄目だハンナ!』
『離せ!伯爵離せ!!』
『駄目だ!ハンナお願い行かないで!』

伯爵と、ハルトマンが2人がかりで私をその場に押しとどめた。

『馬鹿!離せ!中尉が1人で!!』
『もう間に合わない!君まで死んじまう!!』
『お願いだから……行かないで!』

伯爵もハルトマンも大粒の涙を流していた。
無論、私もな……

『死ぬなバルクホルン!!!死ぬなぁ!!!!』

私はネウロイに突っ込んでいく、バルクホルンの背中に何度も叫んだ。
だが、あいつが振り向くことはなかった……







「死ぬな……バルクホルン!」
『ハンナ落ち着いて!』
『分かっているライーサ……だが!』
『焦っても仕方がないよ、それにバルクホルン大尉なら上手く時間稼ぎをしてくれてるよ。』

確かに……あいつの技量なら時間稼ぎは簡単にできるだろう。
でも万が一ってこともあるんだ。
とてもじゃないが安心はできない。
頼むバルクホルン、死ぬな!!死なないでくれよ!

『マルセイユさん!あれ!』

マミの指差す方向に多数の機影が見える。
あいつは……バルクホルンは無事か!?

「……?」

おかしいな?報告では確か……

「ライーサ、報告だと大型ネウロイ1、中型飛行ネウロイ15、小型飛行ネウロイ20のはずだよな?」
『う、うん!……あれ?』

私の目が確かなら、中型ネウロイが6機しか見えない。大型、小型に至っては1機もいない。

『えーと……1、2、3、4、5、6……あっ!?1機減った!?』

私の目にもそう見える。
どうやら私の幻覚ではないようだな。

『すげえ!!また1機やりやがった!!』

これは、あのB-17の無線か?

『これで大型1機、中型10機、小型13機だ!!』
『すげえ……戦史に残るぞこれ!!』
「おい!こちら第31統合戦闘飛行隊のマルセイユだ!!緊急発進してきた!!」

一体何が起こっているんだ!?

『こちらはリベリオン空軍メンフィスベル号だ!やっと来てくれたか!』
「バルクホルンは無事か!?」
『無事だ!早く来てくれ!』

よかった……バルクホルンは無事か。

「バルクホルン聞こえるか!?」
『マルセイユか!?よかった間に合ったんだな!!』
「ああ、後は任せろ!」

間に合った……
よかった……今度は見捨てずにすんだ……

「黄色の14交戦開始、ライーサ、マミ、後に続け!!」
『了解!』
『はい!』







ふう……間に合ってくれたか。
あの3人でなら残りのネウロイは苦もなく堕としてくれるだろう。
マミの持っているのは……40ミリ対空砲か?
すごいな、1発撃っただけでネウロイが粉々だ。
マルセイユも器用にネウロイのコアを狙っていく。射撃の腕は天下一品だな。
ライーサは……マルセイユとマミの援護か。見事なものだ。

『最後の1機だ!マミ、やれ!!』
『はい!!』

最後の1機を片付けたか。
見事な連携だ。

「終わったか。」
『ああ、終わった。バルクホルン無事で何よりだ。』
「ああ、ありがとう。」

マルセイユと私は、互いに安堵の声を出す。
弾薬が心細くなってきてどうなるかと思ったが……何とかなったな。

『バルクホルン……何でこんな無茶をしたんだ……?』

安堵の声から一転、マルセイユが怒りを露にしている。

「マルセイユ……」

マルセイユが怒る理由は分かっている。

『何でいつもこんな無茶ばかりする!?』
「すまない……」

こうする他なかったんだ。
アフリカ戦線崩壊の危機だったんだ。
別に英雄になど……なりたかったわけではないんだ。

『すまないじゃない!一歩間違えれば……お前死ぬとこだったんだぞ!?』
「……」
『馬鹿!この大馬鹿!!』

反論の余地もない。
以前の私ならマルセイユに馬鹿と言われれば、たちまち憤り反論していたかもしれない。
でも、今は違う。
マルセイユの気持ちが、いやというほどほどよく分かる。
その場に居合わせたライーサ、マミ、B-17の連中も止めだてできなかった。
あのアフリカの星が……マルセイユが私への怒りを露にしながら泣いているんだ。

『自分なんかどうなってもいいと思っているのか!?』
「あの状況ではこうするしかなかった。補給基地が潰されたらアフリカ軍団はどうなる?」
『だからって自分の命を……!くそっ!大馬鹿!!』

マルセイユだって分かっているのだ。
あの状況ではこうするしかなかったのだと。
それでもマルセイユが怒るのは、そうした1人で戦わざるを得ない場所に何故私がいるのか?何故、毎回毎回私なのか?
そういった如何ともしがたい数奇な運命、言うに尽くせぬ言葉を怒りにするしかないんだろう。

『なんでお前が……お前だけが!いつもいつも地獄に取り残されるんだ!?』

それは誰にも分からない。
何故私なのか、そんなこと分かるはずがない。

「マルセイユ……心配させてすまなかったな……」

不器用な私には、マルセイユに何と言葉をかければいいか分からない。
だから私はただ謝り、マルセイユのことを優しく抱きしめることしかできない。

「泣かないでくれマルセイユ。お前の泣き顔を見るのはとても辛い。」
『私の方がもっと辛かったんだぞ……?』
「ああ……すまん。」

私の胸ですすり泣くマルセイユ。
ああ……辛い。これは本当に辛い……

『もう嫌だ……お前がたった1人で戦場に取り残されるのを見たくない……』
「そうだな……」
『神がこの世にいるとすれば、何でお前を1人で戦わせようとするんだ……』

運命の悪戯か?
いや違う。

「マルセイユよく聞くんだ。」
『……?』
「私達は神や誰かの道具などではない。私達も、死んでいった英雄達も自分の信念で戦ったんだ。」

地獄に残り散った者、生き残った者……それぞれが自分の信念を信じて戦ってきたんだ。
決して誰かの操り人形だったわけではない。
国のため、故郷のため、家族のため……皆、大切な何かを守るため戦ったんだ。
尊い行いが、尊い犠牲が、誰かの描いたくだらない筋書きであってたまるものか。

「それに今回は1人ではなかったぞ?」
『え……?』
「あの勇敢なB-17の英雄達だって一緒に戦ってくれたんだ。」
『あ……いや僕達は……大したことは……』
「何を言う。小型ネウロイを7機、堕としてくれたじゃないか。それに空戦も見守っくれた。心強かったぞ。」

あの時、私は1人ではなかった。
誰かが傍にいてくれる。それがどれほど心強いか。
そのおかげで私は心に余裕が持てた。

「お前達……バルクホルンを助けてくれたのか……?」
『あ……うん、そういうことに……なるのかな?』

彼らの働きがなければ弾薬が底を尽き、中型ネウロイを撃破できなかっただろう。
マルセイユは私から離れ、B-17の乗組員に向けて敬礼をした。

『礼を言う。ありがとう戦友諸君。』
『感謝します。』
『ありがとうございました!』

マルセイユ、ライーサ、マミが敬礼し、彼らに向けて感謝の言葉を述べた。

「ありがとう戦友。」

私も彼らへの感謝と敬意を込めて敬礼する。

『総員、アフリカの魔女達へ……敬礼。』

全ての乗組員達が私達へ敬礼していた。
胸がとても温かくなる。

『さて……帰ろう。基地で私達の帰りを待っている連中がいるからな。』
「あぁ、そうだな。」

基地の皆には心配させてしまった。
ケイ少佐に何か言われるかもしれないな……少し怖い。

『そろそろ交代が来る時間だ。我々も帰還するよ。』
「ああ、今日は本当にありがとう。」
『こちらこそ、じゃあな戦友。またな。』
「ああ、またどこかで!」

我々は互いに手を振り、別れた。
沈む夕日の中にB-17が消えていった。

『リベリオンの連中も中々度胸があるんですね。』
「ああ……彼らこそ勇敢な空の英雄だよライーサ。」
『違いない。あいつらは無防備同然で腹に爆弾抱えて、砲火の中に突っ込んで行くんだからな。』
「知っているのかマルセイユ?」」
『43年のスフィンクス作戦の時だったな……大釜陣地で孤立していたアフリカ軍団の援護をするために奴らはやってきたんだ。』

その作戦なら私も知っている。
スエズ運河奪回作戦「スフィンクス」
当初は順調に思えた作戦だったが、ロンメル将軍率いるアフリカ軍団がネウロイに包囲され、危うく全滅するところだったらしい。

『あの時の爆撃隊の中心がリベリオン空軍だった。私達の援護も受けられない状況で爆撃任務を敢行していたよ。』
「……自殺行為だな。」

援護も受けられない爆撃機。
ネウロイからしてみればいい的だ。

『私が保証する。リベリオンの爆撃隊は世界一勇猛果敢な部隊だとな。彼らの支援がなければ、あの時アフリカ軍団は全滅していた。』
「決死の思いで爆撃か……」

リベリアンはいつもそうだな。
普段は適当なのに、ここ一番では類稀な勇気を示してくれる。

『バルクホルン……今回のお前の行動も自殺行為だったんだからな。』
「分かっている……そう攻めないでくれ……」
『嫌だね。お堅い軍人さんを攻めるまたとない機会だからな。』
「ぐ……」

全くこいつは……だが仕方ない。
あのマルセイユをここまで心配させてしまったのだから……甘んじて受けよう。

『バルクホルン大尉の戦果は大型1機、中型10機、小型13機なんですよね?』
「確か……うん、その通りだライーサ。」

一応自分でも数えていたし、メンフィスベルの連中も数えていてくれたから間違いない。

『前代未聞ですよ……これ……』
「何がだ?」
『1日でこれだけ堕とすなんて……』
「何を言っている?ライーサはルーデル大尉を知らないのか?それにマルセイユとハルトマンだってマルタ島でかなりの数を堕としているぞ?」

ルーデル大尉の地上ネウロイの撃破スコアは半端なものではない。
あればかりは人間技とは思えん。
それに比べたら私の今日のスコアなど些細なものだろう。
それに1日のスコアとしても合計で24機だ。マルセイユとハルトマンには及ばない。

『バルクホルン、お前馬鹿だろ?』
「馬鹿とは何だ!た、確かに今回のことに関しては……その……」
『いや……1人で大型ネウロイ撃破とか普通じゃありませんから……』
『大型ネウロイ1機、中型ネウロイ10機、小型ネウロイ13機、すごいです!バルクホルンさん!』
「そうなのか?」

そんな大それたことをした実感はないんだが……

『お前、自分のことに関して無頓着すぎないか?』
「そうだろうか……?」
『間違いなく戦史に残りますよ。どうやって大型ネウロイを撃破したんですか?』
「叩いたんだ。」
『『『は?』』』
「だからMG42の銃床で1発……こう……ガツンっ……と。」
『……』
『……』
『……』

3人とも無言になってしまった。
何だ?私そんなに変なことを言ったか?

『大尉、冗談……ですよね?まさか本当に銃床で叩いて撃破したわけじゃ……』
「冗談なものか。私の固有魔法を使えばさほど難しいことはない。メンフィスベルの連中も見ていたはずだ。」
『バルクホルンさん……本当に叩いて撃破したんですか?』
「私は嘘は言わん。」

そんなに信じられないことなのか?
501にいた頃は何回かやっているんだが……

「そんなに変な話か?」
『普通じゃない。』
『有り得ません。』
『扶桑のウィッチも刀を使ってネウロイに白兵戦挑んだりはしますが……』
「そんなに難しいのか?うーむ……」

これと言ってコツもないし、私の固有魔法あっての戦法なんだろうな。

『もういい。人外の化け物に何を言っても無駄だ。』
「化け物とは何だ!?お前の射撃の腕だって十分化け物だろうが!」
『射撃は常識の範囲内でのことだ。大型に普通白兵戦なんて挑まない。』
『ハンナと大尉、両方とも十分に化け物です!』

私とマルセイユは揃って化け物の烙印を押されてしまった……

『ったく……まぁいい。それよりバルクホルン、覚悟しておいた方がいいぞ?』
「何がだ?」
『大騒ぎになる。』

今日の戦果に関してか……
一体どうなることやら。








バルクホルン大尉の勲章の段取りはこれで大丈夫……と。
贈呈品に関してもこれならきっと喜んでくれる。
それに……これなら彼女に報いることができるはずだ。

「少佐殿、アフリカから報告が来ています。」
「ご苦労、置いておいてくれ。」
「はっ!」

何々……
本日の戦闘においてゲルトルート・バルクホルン大尉が大型ネウロイ1機、中型ネウロイ10機、小型ネウロイを13機を撃墜……

「……」

何だこれは?
何かの間違いか?

「少尉……これは何かの間違いじゃないのか?」
「一応問い合わせたのですが、情報に間違いはないようです。」

つまり……これは……

「い、一緒に来い!」
「は、はい!」

大変だ!こんなの……いやいや有り得ない!
早く大佐にご報告しなくては!

「大佐!至急お見せしたいものが!」
「え?何?どうしたんだ?」
「これをご覧下さい!」

大佐に報告書を渡す。
その報告書に目を通す大佐の表情が見る見るうちに変わっていく。

「こっ……これは……事実なのか!?」
「間違いないようです!」
「さらに詳細な情報を問い合わせたところ、ネウロイが目指していたのは補給基地のようでありまして、そこを叩かれたら最悪の場合戦線崩壊も有り得たと……」
「つ、つまり……バルクホルン大尉が……アフリカ戦線の崩壊を防いだと?」
「そうなります……」

静寂が部屋を支配する。
当然だ。こんな戦果今まで聞いたこともない。
前代未聞の大戦果だ!

「柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章の手配をしろ!」
「は、はい!」
「すぐにガランド閣下と、アフリカのロンメル将軍と加東少佐に連絡を取れ!急げ!」
「分かりました!!」







「急いで明日の朝刊の一面を差し替えろ!!!」
「は、はい!!」
「い、いや号外だ!号外を出せ!!」
「それと現地の特派員に連絡して、明日一番でバルクホルン大尉にインタビューさせろ!!」
「分かりました!!」
「大尉の写真はないのか!?」
「1枚もありません!!」
「くそっ……何で写真が1枚もないんだ!?」
「特派員に連絡して写真も絶対に忘れるなと言っておけ!!」


「バルクホルン大尉の特集を組め!」
「は、はい!」
「マルセイユ大尉の記事と一緒に掲載しろ!!」
「それと……ブリタニアとリベリアンの勲章贈与の話がないか探れ!」
「これだけの戦果だ……両国から大尉へ叙勲があっても不思議じゃない……」
「分かりました!!」
「現地スタッフに連絡して、マルセイユ大尉とバルクホルン大尉のツーショット写真を撮らせろ!」


「すぐにラジオで速報を流せ!!」
「は、はい!!」
「急げ!!!」
「プ、プロデューサー!」
「何だ!?」
「未確定の情報ですが、カールスラント国防軍の方で柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章叙勲の話があるとのことです!」
「裏を取れ!」
「はい!!」







基地が見えてきた。
安心したら疲れが出てきた……

『バルクホルン、先に降りろ。疲れているんだろ?』
「ああ、すまない。」

マルセイユの言葉に甘えて先に降りさせてもらう。
降りたら……夕食まで仮眠をさせてもらうか……

「こちら黄色の7、着陸許可求む。」
『了解。滑走路クリア、順次着陸されたし。』

疲れた……
まさか初飛行でこんなことになるとは……

「ん……」

何だ?滑走路の脇に人だかりが出来ている?
んんんん?
あれは……整備兵達か……?
何だ?整備兵の他に……?
あれは……3将軍か!?

「大尉が帰ってきた!!!」
「俺達の整備したユニットで帰ってきた!!!」

着陸した途端に、整備兵達に囲まれる。

「大尉!ネウロイを撃墜したってのは本当ですか!?」
「ああ、本当だ。機体の調子は文句なしだ。おかげで帰ってこれた。ありがとう。」
「そ、そんなぁ……ありがとうございます。」

テスト飛行でまさかいきなり実戦になるとは思わなかった。
だが、機体の調子は最高だったし、実戦でも何の問題もなかった。
不測の事態に対処できたのは、整備兵達のおかげだ。

「すまん!戦友諸君通してくれ!」

人ごみを掻き分けて、ロンメル将軍、モントゴメリー将軍、パットン将軍がやってきた。

「すばらしい功績だぞバルクホルン大尉!」
「ありがとうございます、ロンメル将軍。」
「総司令部の連中が君に柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を推薦しているぞ!」
「はっ!?……で、ですが!」
「謙遜はなしだよ大尉!君はアフリカ軍団を救ったんだ!称えられて当然のことだ!」
「光栄ですっ!」

さすがに断るわけにはいかない雰囲気だ。
私の勲章のことで皆を煩わせるわけにもいかない。
ここは謹んで拝受しよう。

「大尉、君に言いたいことが2つほどある。」
「何でしょうか?モントゴメリー将軍。」
「まずは謝罪を。」
「謝罪?」
「あの場所に補給基地を設けたのは私だ。戦線の後方だからと油断していた。おかげで君1人で戦わせる羽目になってしまった。申し訳ない……」
「そんな……あれは閣下だけの責任ではありません。」

戦線の後方だから大丈夫。
誰もがそう思っていた。
現に私もそう思い、テスト飛行をしていたのだから。

「今回は君の活躍で事なきを得たが……今後はあんなことにならないようにする。」
「はい。」
「それともう1つ、君の今回の功績を鑑み、ブリタニア連邦は君にメリット勲章の叙勲を決定した。」
「メリット勲章!?」

メリット勲章と言えば……叙勲が功績のみで評価される大変名誉な勲章じゃないか。
それをカールスラント人である私が?

「受け取ってくれるね?」
「で、ですが……」
「政治的な思惑など一切ない。このアフリカに展開するブリタニアの兵士達を救ってくれた君の功績は非常に大きいものだ。」
「私が受け取っても……本当に……よろしいのですか?」
「勿論だ。是非受け取って欲しい。」
「ありがとうございます。謹んで拝領致します。」

モントゴメリー将軍は満足そうに頷いてくれた。

「ワシも話したいことがある。」
「はい。」
「連邦議会は君に名誉勲章を叙勲するつもりらしい。」
「名誉勲章をですか!?」

リベリオンの……軍人に対する最高位の勲章じゃないか。

「勿論受け取ってくれるよな?」
「光栄です閣下!ですがあの……」
「何だね?」
「あの戦闘ではメンフィスベル号の功績も……」

小型ネウロイ7機を撃破した彼らの功績も称えられるべきだ。

「大尉、ワシを見くびってもらっては困る。彼らの働きも承知している、彼らには銀星章を推薦してある。」
「失礼致しました。」
「いや謝ることはない。むしろ君のことがますます気に入った!」
「ありがとうございます。」

まさかこんな事になるとは思っていなかった。
ただ無我夢中でやっただけなのに……

「一躍時の人だな、バルクホルン♪」
「マルセイユ……私はこんなの初めてで、何をどうすればいいのか……」
「言っただろ?大騒ぎになるって。」

大騒ぎにもほどがある。

「言っておくがまだ序の口だからな?」
「何だと!?」

今以上に大騒ぎになるのか!?

「まずはそうだな……ケイがこの場に居ないな?」
「あ、あぁ……確かに居ない。」

てっきり出迎えてくれると思っていたが……何かあったんだろうか?

「司令部のテントに行けば分かる。」

司令部に?
そこで何かが起こっているというのか?

「分かった、行ってみる。」

マルセイユの口ぶりからして、行けばすぐに分かる感じだが……
うーむ何が起こっているんだ?





「はい!ですから、それは間違いありません!ええ、そうです!バルクホルン大尉のスコアは間違いありません!」

うん、すぐに分かった。
ケイ少佐は次々に入る通信の対応でもの凄く忙しいわけだ。

「司令!基地の入り口にマスコミが押しかけて来ています!」
「ああ!もう!追っ払って!大尉へのインタビューは明日以降って言っておいてちょうだい!!」
「分かりました!」

忙しい原因はどう考えても私のようだな。
ケイ少佐は幸い私に気づいていないようだし、忙しそうだしな。うん、撤退するとしよう。

――ガシっ!

回れ右して逃げようとする私の肩を、凄まじい力で誰かが掴む。

「ど・こ・へ・行くのかしら?ゲルトルート・バルクホルン大尉?」

背後から凄いプレッシャーを感じる。
怖くて小指一本動かせん。
そしてそのまま、また回れ右をさせられた。

「どこへ行こうとしていたのかしら?」

笑顔だが……とてつもない迫力がある。
ミーナといい佐官になると、何と言うか……迫力が出るようになるのか?

「忙しそうだったので……」
「逃げようとしたのね?」
「い、いや……その……」
「挨拶もしないで。」
「あ、あの……」
「ハグもしないで……」

不意にケイ少佐が悲しそうな顔をする。
ああ、そうだ。私の心配をしていたのはマルセイユだけじゃなかった。

「ただいま、ちゃんと帰ってきたぞ少佐。」

私はケイ少佐を優しく抱きしめる。

「こういう時は名前で言って欲しいわ。私達は家族でしょ?」
「ああ……ただいまケイ。」
「おかえりなさい、トゥルーデ。」

ケイが悪戯っぽく笑う。

「さて、これ以上抱き合ってるとマルセイユが嫉妬するから止めておくわ。」
「ああ。」

ケイは私から離れ、送られてきた電報やら何やらに目を通し始める。

「貴女絡みの通信やら何やらがもう、本当にすごいわよ。」
「す、すまない。私のせいで……まさかこんな騒ぎになるとは思ってなかった。」
「別に攻めてるわけじゃないわ。貴女はちゃんと無事に帰ってきてくれたし……それに貴女の功績はすばらしいものよ。」
「そう言ってもらえると助かる。」
「でも……少しは手伝ってもらえると助かるんだけど?」

ケイが悪戯っぽく笑う。
私の件で忙しいのだ。
うむ、手伝うしかあるまい。

「分かった。手伝う。」
「助かるわ。」

それからケイの手伝いを始めたんだが……本当に忙しいなこれは。
次から次へと通信が入ってくる。

「バルクホルン大尉、カールスラント空軍のウィッチ隊総監から通信が入っています。」
「ウィッチ隊総監?」

ウィッチ隊総監って……まさか?

「お待たせしました。バルクホルンです。」
『おお、久しぶりだな。元気にしてたか?』
「はいおかげさまで。ガランド閣下。」

カールスラント空軍ウィッチ隊総監アドルフィーネ・ガランド少将。
501統合戦闘航空団再結成に関しても便宜を図ってくれた、501の恩人だ。
そして、誰からも好かれ尊敬されている最高の指揮官だ。

『元気なら何よりだ。それにしてもアフリカ着任早々派手に暴れたな。』
「お恥ずかしい限りです。」
『恥ずかしがるな、これでも褒めてるんだ。』
「光栄です閣下。」
『前代未聞の大戦果だ。ウィッチ1人でここまでやるなんて私も信じられん。』
「私自身も実感がありません。」
『ははははは!おいおい、本人がそう言うなよ。』
「本当に実感がないんです閣下。」
『しっかりしてくれよ、お前はカールスラント空軍が誇るスーパーエースなんだから。』
「はい。」
『そうだ。柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章、メリット勲章、名誉勲章の叙勲の話があるそうじゃないか。』
「ええ。」
『今度は受け取るんだろうな?』
「ええ、謹んで拝受します。」
『そうか、今までお前は頑なに拒んできたから心配してたんだ。』
「それは申し訳ありませんでした。」
『自分を安く見るのは、お前の悪い癖だ。そういうところは直さないとな。』
「ええ、まぁ適度に……」
『お前らしいな。まぁとにかく、おめでとうバルクホルン。』
「ありがとうございます閣下。」
『今回はお前への祝いを……あ、そうだバルクホルン。』
「何でしょう?」
『実はな、お前を少佐に昇進させる話があるんだが……』
「!?」

少佐への昇進?
……私としては前線での戦いに専念したい。
別に書類仕事が嫌いなわけではないが……少佐への昇進は今は勘弁して欲しい。
いざとなれば勲章の話を辞退してでも……

『分かった、何も言うな。勲章を返すって言うんだろ?』
「驚きました……読心術が出来るんですか?」
『マルセイユ、ルーデル皆そうだ。どうにも書類仕事は嫌いらしい。』
「申し訳ありません閣下。」
『気にするな、初めから分かっていた。』
「そうですか、それは幸いです。」
『私も少佐への昇進の時は嫌がったからな。さて、そっちも忙しいだろう?』
「ええ、もう。」
『だろうな。ケイ少佐にもよろしく言っておいてくれ。』
「はい。」
『あとな、たまには電話してくれ。現場の声を聞きたい。マルセイユとライーサにも言っておいてくれ。』
「分かりました。」
『うん、よろしくな。』
「ええ、今回はご連絡ありがとうございました。」
『ああ、それじゃあなバルクホルン。』
「はい、では失礼します。」

ふう……驚きだ。
まさかガランド閣下から連絡が入るとは思わなかった。
しかし……あの人も相変わらずだ。
昇進しても昔と全く変わらない。

「大尉、ガリアのミーナ中佐から通信が入っています。」
「ミーナから?」

ミーナとハルトマンはカールスラント奪回作戦に向けて、前線に近いガリアへ異動になった。
そういえば、アフリカに来てから連絡を取っていなかった。

「もしもし?」
『トゥルーデ、久しぶりね。元気にしてた?』
「おいおい、久しぶりって……」
『だって電話どころか手紙もくれないんだもの。』
「いや、忘れていたわけではないんだぞ?色々と忙しくてだな……」
『冗談よ。私も忙しくて全然連絡できなかったもの。』
「やれやれ……驚かせないでくれよ。」
『驚いたのはこっちよ?ラジオで貴女の今日の戦果を聞いて本当に驚いたんだから。』
「ラジオで?」
『あら、知らなかったの?さっきから貴女の戦果の報道がすごいんだから。』
「そうだったのか。」
『知らぬは本人ばかりなり、ね。』
「全くだ。どれほど大騒ぎになっているのか見当もつかん。」
『前代未聞の戦果よ。こっちでも大騒ぎになってるんだから。』
「全く……騒ぎすぎだ。」
『もう、騒がれるような戦果を出したのは貴女なのよ?』
「未だに実感が湧かないんだ。」
『ふふ、相変わらずなのね貴女って。でも、とにかくおめでとうトゥルーデ。』
「ああ、ありがとうミーナ。」


「おい、バルクホルン。」


「ところでハルトマンは元気か?」
『元気よ。あ、今代わるわね。』

元気にしているならいいが……
あいつめ、ミーナに迷惑をかけていないだろうな?

『もしもし!トゥルーデ!?』
「ハルトマン、元気にしてるか?」
『元気だよ~。それよりすごいじゃん!ラジオで聞いたよ、トゥルーデの戦果!』
「ははは、ありがとう。」
『さすがトゥルーデだね!大型ネウロイ1人で撃破って私でもできないよ!』
「そんなことはない、お前にだってできる。」
『できないよ~。そもそもやろうと思わないから。』
「やってみなければ分からない。いいか?初めからできないと思っているから……」
『あ~お説教なんて聞きたくないよ~。』
「こら!人が真面目に話しているんだぞ!?」


「おい!無視するな!」


『相変わらずだね、トゥルーデは。』
「お前もだハルトマン。」
『ハンナとは上手くやれてるの?』
「……ああ、そこそこには。」

ベッドに引きずり込まれ、キスマークを付けられたなんて絶対に言えない。

『へぇー意外。てっきり毎日ケンカしてると思った。』
「私だって上手くやれるように努力はしている。」
『ふーん。ハンナはどうなの?トゥルーデに突っかかってこない?』
「……別に?何も?」
『……本当に?大丈夫なの?』
「ああ……特にこれと言って……』


「……あむっ!」


「どわあああああぁぁぁっ!!!!?」
『ふぇっ!?ト、トゥルーデ!?どうしたの!?』

なななな何だ!?
耳に何か!?何だこれ!?
何か……くすぐったい!?

「……あむ……はむっ!」
「うひゃああっ!?……マ、マルセイユ!?」

な、何てことをするんだ!?
通話中に人の耳を甘噛みするなど!!

「さっきから呼んでいるのに無視するな!」
「何?それは悪かった……って!だからといって耳を噛むな!!!」

いくら気がつかなかったとはいえ、通話中の耳を噛むか!?

『もしもし!?トゥルーデ!?』
「通話の相手はハルトマンか?かせ!」
「あ、おい!」

受話器をいきなりひったくるとは、こいつ何を考えているんだ!?

「久しぶりだなハルトマン。」
『……?』
「そうだ、私だよ。」

話し始めてしまった。

『……?』
「トゥルーデは急ぎの用事が入ってな、たった今出て行った。」
『……?』
「悲鳴?私は知らないぞ。」

よくもまぁ平気で嘘を言う……
ハルトマンの声は聞こえないが、困惑しているのは分かる。

『……!……!?』
「私がトゥルーデと呼んだくらいで何を驚いているんだ、ハルトマン。」

普通驚くだろう。
私とマルセイユの仲の悪さを見てきた者ならな……

『……』
「ああ、上手くやっているさ。心配するな。」
『……』

ハルトマン……私のことを心配してくれたのか……
あいつ……普段はだらしがないが……優しい奴なんだ。

「私とトゥルーデは仲がいいぞ?むしろ良過ぎるくらいだな。」
『……?』

マルセイユが……ニヤリと笑った。
こいつ……何を?

「禁断の愛、というやつだな。」
『……!!!!!!!!!??』

私を含め、ケイ、通信兵達、皆がマルセイユの爆弾発言に凍りつく。

「何を驚いている?」
『……!……!?』
「別に魔力を失うようなことまではしていない。」
『……!!!……!?』
「お前の想像に任せる。」
『……!……!?』
「ははははっ!お子様だなハルトマンは。まぁ頑張って想像してみろ、じゃあな。」
『……!』

――カチャン……

受話器を置く音が、司令部内に響く。
皆が私とマルセイユを交互に見る。
私は呆然とその場に立ち尽くしていた。
傍から見れば、さぞ滑稽な顔をしているに違いない。

「ケイ、トゥルーデを借りていくぞ?」

ケイは声も出せず、まるでカラクリ人形の様に何度も頷いていた。

「行くぞ、トゥルーデ。」

マルセイユは私の手を引き、司令部のテントから私を連れ出した。
日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。

「お、おい。」
「何だ?」

マルセイユの声は明らかに怒気を含んでいる。
私に無視されたことを怒っているのか?

「お前……何を考えている?」
「何がだ?」

何って……それは……

「なんであんな事を……」

ハルトマン、それに司令部に居合わせた全員の前で……あんな恥ずかしいことを……

「……」

私の手を引いていたマルセイユが無言で立ち止まる。

「おい……マルセイユ。」

マルセイユは振り返る事もせず、無言で私に背を向けたままだ。

「無視したことなら謝っただろう?」
「違う。」

ならこいつは何を怒っているんだ?
わけがわからん。

「ケイとハグしてた……」
「は?」
「ハルトマンと話をしていた……」

……何だって?
こいつ見ていたのか?
ケイとのハグ、それにハルトマンとの会話……それが原因で怒っていたのか?

「それで怒っているのか?」
「……」

また黙り込んでしまった。
何故そんなに不機嫌なんだ?
ケイとハグ、ハルトマンとの会話……それが一体何だと言うんだ……


――さて、これ以上抱き合ってるとマルセイユが嫉妬するから止めておくわ


まさか……こいつ……

「嫉妬……しているのか?」
「っ!……ち、違う!嫉妬なんかしていない!」

マルセイユは振り向き、握っていた私の手を離し、反論する。
反論するが……そんな顔を真っ赤にして反論されても説得力の欠片もないんだが……

「こ、この私が……アフリカの星が……嫉妬だと!?」
「ち、違うのか?」
「す、するわけないだろ!ケイとハグして少し怪しい雰囲気だったとか、ハルトマンとすごく楽しそうに会話をしていたとか、全然気にしていないからな!!?」
「……」
「ほ、本当だぞ!?」

……墓穴を掘っていることに気づいていないのか?

「あのな……マルセイユ……」
「な、何だ?」
「どう考えても嫉妬しているようにしか思えないんだが……」
「だ、だから嫉妬などしていない!」

マルセイユが嫉妬しているのは間違いない。
間違いないんだが……マルセイユは断固としてそれを認めようとしない。
変なところで頑固だな……全く、誰に似たんだか……

「私が嫉妬するわけないだろう!全く馬鹿馬鹿しい!」

この分だと尾を引きそうだ。
私に非があるなら謝りたいんだが、謝ったところでマルセイユ本人が嫉妬している事を認めていないんだから意味がない。
どうすれば……

「ほ、ほら!マミとライーサが晩飯にサンドイッチを作ったんだから取りに行くぞ!」

あ……この方法なら……
でもこれは流石に恥ずかしい……
でもこれならマルセイユの機嫌も直るかもしれない。
でも……

「何をしている、早く行くぞ!?」

マルセイユが足早に食堂へ向かって歩き出す。

「っ!?……トゥルーデ?」

私は無意識にマルセイユの手を掴んでいた。
何故掴んだのか自分でも分からない。

「あ、あのな……マルセイユ……」
「な、何だ?」
「私は……その……お前に不機嫌なままでいられると……」
「……?」
「困るんだ……すごく……」

何故困るのか?
その理由が分からない。
何故マルセイユの機嫌を直すためにと、あんな恥ずかしいことを考えたのか?
……分からん。

「……何で困るんだ?」
「私にも分からない……」
「……っ!お、おい!?」

分からないことだらけだ。
何故自分がこうして、マルセイユの背中に腕を回しているのか分からない。
自分自身のことすら分からないとは……我ながら情けない。

「……ん……ちゅ……」
「んっ!……んん……」

気づいた時には、私はマルセイユにキスをしていた。
されたことはあっても、したことは一度もなかった。

「……っ……マルセイユ……」
「トゥルーデ……」

月光に照らされたマルセイユの顔はとても可愛らしいものだった。
いつもの強気で不敵なものではなく、瞳を濡らし頬を紅く染めた、まるで夢見る少女のようだ。

「私はお前に泣かれても、不機嫌でいられても困るんだ。」
「……あ……うん……」
「機嫌……直してくれたか?」
「……」

マルセイユは無言で頷いてくれた。
マルセイユの私への想いを利用した卑怯な行いかもしれない。
でも、卑怯と言われても構わない。汚名は甘んじて受ける。
こいつが笑顔でいてくれれば、私はそれでいい。

「晩御飯……食べるんだろ?」
「あ……あぁそうだ!うん、そうだ!」
「サンドイッチだったな?何でまた……」
「ケイは忙しいし、シャーロットとフレデリカはティーガーの調整で手が離せないみたいだから、マミとライーサが気を利かせたのさ。」

なるほど、サンドイッチなら手軽に食べられるしな。

「今日は月が綺麗だし外で食べないか?」
「ああ、そうしよう。」

月と星を眺めながらの夕飯も悪くない。

「私が取ってくる。トゥルーデはオアシスの所で待っていてくれ。」
「ああ、分かった。」

去り際のマルセイユの顔は、頬が紅く染まったままだった。
恐らく私の顔も同じことになっているんだろうな。
我ながら大胆なことをしたものだ。





オアシスで水面に映る月を眺めていると、マルセイユがライーサとマミを連れてきた。

「折角なんで連れてきた。」

有難い。
あんな事の後だ。マルセイユと2人きりというのは、何とも気恥ずかしい。
マルセイユは私に気を使ってくれたのか?
それとも……まぁどちらでもいい。
ん?そういえばルコの姿が見えないな。

「ルコはどうした?」
「ケイさんに捕まってました。」

すまんルコ。許してくれ。

「はははは、司令部は修羅場になってたからな。まぁ仕方ない、ご愁傷様だ。」
「大尉の戦史に残る戦果のおかげですね。」
「ん……そのなんだ。すまん。」
「謝ることはないだろ、こういう風に忙しくなるのはいいものだ。」
「ネウロイの攻勢で忙しくなるよりはいいですよ。」

余計なことで忙しくさせている気もするが……

「まぁそれより飯にしようか。」
「はい、沢山作ったんでどんどん食べて下さい。」

マミがバスケットを開けると、そこには様々な具材を挟んだサンドイッチが山盛りになっていた。

「おお、美味しそうだ。」
「マミとライーサの作る料理は何でも美味しいさ。」
「いただきます。」

うん、美味しい。
さすがに手慣れているな。

「美味しい、さすがだな。」
「サンドイッチを不味く作る方がが難しいですよ。」

それが居るんだ。サンドイッチを不味く作ってしまう天才が。
おまけにキッチンは空襲でも受けたかのような有様になるし。

「それより聞きましたよ大尉!」
「ん?何だライーサ。」
「柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章、メリット勲章、名誉勲章の話ですよ!」
「おめでとうございます!バルクホルンさん!」
「おめでとう、バルクホルン。」
「ありがとう。」

勲章を貰うことよりも、こうして仲間に祝ってもらえることの方が嬉しいかもしれん。
勿論、叙勲も名誉なことだし、光栄だと思っている。
でも勲章は彼女達のように笑ってはくれない。

「ほら、ライーサにマミ、この大尉殿に色々聞きたいんじゃないのか?」
「ハンナ……確かに聞きたいけど……いいのかな?」
「遠慮するな。答えられることならば、私は何でも答えるぞ。」

目をキラキラと輝かせている2人に向かってNOとは絶対に言えない。
答えられる限りのことで答えよう。

「じゃあ……大尉が尊敬しているウィッチは誰ですか?」

尊敬しているウィッチか……
一番尊敬しているウィッチと言うなら……

「ガランド閣下だな。」

戦闘技術、指揮官としての能力、さらには部下からの尊敬。
どれを取っても文句なしだ。

「予想通りの回答だな、つまらん。」
「つまらんとは何だ。私は正直に答えただけだ。」
「ガランド閣下だけですか?」
「後はミーナ……だな。」

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。
我らがカールスラントが世界に誇るスーパーエース。

「ミーナか……確かに指揮官としては間違いなく有能だな。」
「それだけではないぞ、マルセイユ。ミーナは戦闘技術も確かだ。」

ミーナも200機撃墜を達成し勲章をもらっている。
……本人にとって200機目のネウロイ撃墜は不本意なものだったが……

「ミーナさんって強いんですか?」
「強いさ。昔あいつと模擬戦をやったが、一度も勝てなかった。引き分けが精一杯だった。」
「え!?大尉が勝てなかったんですか!?」
「く、詳しく話せ!!」

何だマルセイユまで。
そんなに意外か?
ミーナは実力的に世界でも最高だと思うんだが。

「射撃技術も良し、航空技術も良し、なによりすごいのが固有魔法の三次元空間把握能力だ。」
「三次元空間把握能力?」
「空間に存在する全ての物質の状態を把握する……ということだ。」
「つまり……戦闘中でも敵味方の動きが全部把握できる。なるほど指揮官向きの能力ですね。」
「確かにな。でもそれだけではないんだライーサ。」
「?」
「あるんだ。空中戦を行う上で凄まじい利点が。」
「……背後を取られても不利にならない……か。」
「え……あっ!!」

そう、マルセイユの言うとおりミーナは背後を取られても不利になることはない。
航空戦において敵に背後を取られるのは、絶対的不利の状態に陥るということだ。
航空ウィツチとて例外ではない。背後への射撃は戦闘機と違い可能だが、精密な射撃は到底無理だ。
即ち、背後を取れれば有利に、逆に相手に取られれば不利になる。
だが……もし、背後を取られても正確に相手を狙えるとしたら……?
死角となる背後の敵の軌道を手に取るように分かるとしたら……?

「航空戦のセオリーが全く通用しないってことだな?」
「そうだ。背後を取ろうが、太陽を利用して奇襲を仕掛けようが、ミーナには無意味だ。」
「なるほどな。」

ミーナには死角がない。
そう断言できる。
空で戦う者なら分かるはずだ。ミーナの強さを。

「ミーナ中佐って凄い人だったんですね……でも、もっと撃墜スコア稼いでいてもおかしくないはずですよね?」
「簡単な話だライーサ。ミーナは前線に出るよりも書類仕事に追われることの方が多かったからな。」
「……もし、ですよ?仮にミーナ中佐が他のウィッチと同様に出撃を繰り返していたら……」
「私以上のスコアになっていただろうな。」
「すごい……」

ミーナは書類仕事が出来る分、佐官への昇進も早かった気がする。
もっと前線に出ていれば、スコアを稼げたろうに……
でもミーナでなければ501の指揮官は務まらなかっただろうし……本人も納得していたから、これでいいのだろう。

「さらに付け加えるとな、あいつは最大で8機編隊を率いて飛んでいた。」
「それって……8機編隊を1人で指揮していたってことですか!?」
「そうだ。ミーナを頭に7人のウィッチが手足の様に動く。」
「それで戦果大で損害無し。ミーナの指揮する部隊はずっと損害無しだからなぁ。」

マルセイユの言うとおり、ミーナの指揮した部隊での損害は0。
全く……羨ましい限りだ。
指揮官としての戦果を考えれば比類なき大戦果だろう。

「すごい……私の先輩って何でこんなに凄い人達何でしょうか……」
「お前だってマルセイユの援護という至難の業をこなしている。自信を持て。」
「そうだ、ライーサ。お前無しでは安心して飛べない。」
「うん、ありがとうハンナ!大尉!」

あのアフリカの星が安心して飛べない……か。
マルセイユから信頼されているんだ。
それは自信にしていいんだぞ、ライーサ。

「あの、私も質問があるんですが、いいですか?」
「勿論だマミ。」
「じゃあ……バルクホルンさんが航空ウィッチになろうと思ったのは何故ですか?」
「これは面白い質問だな。私も是非聞きたい。」

私が航空ウィッチを志した理由……か。

「小さい頃に、空軍の基地祭りに行った時……だな。」





私を含め町の子供達は基地祭りに行くのが好きだった。
大空を翔る最新鋭の戦闘機と航空ウィッチ達。
展示飛行は見ていて飽きなかった。
展示飛行が終わり着陸してくる戦闘機。
そして戦闘機から降りてくるパイロット達とウィッチ達はまるで、映画俳優のように格好良かった。

『かっこいいーなー!』
『しゃしんとらせてくれないかなー?』

遠巻きに見ていると、1人のウィッチが私達に気づきこちらにやってきた。
映画女優のような美貌の持ち主だった。

『写真を撮りたいの?』
『いいんですか!?』
『ええ、いいわよ。折角だし戦闘機の近くで撮る?』
『わぁ!ありがとうございます!』

私と友人はそのウィッチの好意で、戦闘機のコックピットに座らせてもらい、写真まで撮ってもらった。

『わたしたちも、大人になったらくうぐんに入りたいです!』
『大変よ?沢山勉強して頑張らないといけないわよ?』
『がんばります!』
『そう、頑張ってね。いつか貴女達と一緒に飛べる日を楽しみにしているわ。』

そのウィッチは優しく微笑んでくれた。いい笑顔だった。

『みんなをまもるために、わたしは必ずくうぐんに入ります!……たたかうのは少しこわいけど……』
『私も最初は怖かった……戦争なんて起こらない方がいいわ。』

その時のウィッチの瞳は、どこか儚いように思えた。

『でもね……何もしないでいる方が怖い時もあるの。勇気を振り絞って戦わなきゃいけない時もあるのよ?』
『勇気をふりしぼって……』
『そう。誰かを守るために飛ぶの。』

誰かを守るために空を飛ぶ……
その言葉が私の心の中に深く残った。

『でもね、空は決して怖いだけではないわ。あの大空を鳥にの様に飛ぶ……とてもすばらしいわよ。』

大空を鳥の様に飛ぶ……大空を見つめ、まるで子供の様に笑うウィッチの表情は今も憶えている。
その時私は思ったのだ。
空を飛びたい、と。

『じゃ、そろそろ行くわね。』
『はい!ありがとうございました!……あ、あの……』
『ん?』
『あのっ……なまえ……』

去り際、そのウィッチは微笑しながら名乗ってくれた。
マルグレート・フォン・リヒトホーフェン……と。




「リヒトホーフェンって……前の大戦のトップエースじゃないですか!?」
「ああ、まさか彼女があのレッドバロンだとは思わなかった。」

私が彼女のことについて知ったのは、もう少し後になってのことだ。
私が空軍に入った頃には既に退役していたらしく、結局同じ空を飛ぶことは叶わなかった。
だが、あの時の思い出は今も私の中で生き続けている。
誰かを守るために飛ぶという彼女の薫陶も……そして何より空を飛ぶことへの憧れも。

「かっこいいウィッチに憧れて空軍を志したわけ……か。」
「ふ……笑ってもいいんだぞ?マルセイユ。」
「いや……安心した。」
「安心した?」
「あんたにも空に憧れ、夢を見ていた時期があったんだな。」

……そうか。
私の中の空の思い出は、いつも残酷だった。
炎に包まれ堕ちていく戦友達、眼下で逃げ惑う難民。
空はいつも灰色で、大地はいつも真っ赤だった。
でも……それだけじゃなかったはずだ。
青空を飛ぶことに憧れていた時期もあった。
澄み渡る青空を、戦友達と飛んでいたこともあったんだ。
辛いことばかりではなかったはずなんだ。

「誰にも汚すことのできない思い出だ。大事にしろバルクホルン。」
「ああ。」
「大尉はすごいですね。戦友も凄いし、思い出も凄いし……完全無欠ですね。」
「かっこいいです!」
「はははは、ありがとう。」
「シスコンで堅物だがな。」
「余計なお世話だマルセイユ!」

いつまで私のことをそう呼ぶ気なんだ、こいつは!?
全く……けしからん。

「私達そろそろケイさんのお手伝いに行ってきますね。」
「さすがにルコだけに任せるのも悪いですし。」
「あっ……でもお2人はゆっくりしてて下さい。」
「ん……すまないな。」

申し訳ないが、ここは2人の厚意に甘えさせてもらおう。

「人に甘えることをやっと覚えたか。」
「む……まぁ、そうかもしれない。」
「少しは人間らしくなってきたな。」
「お前は……失礼にも程があるぞ。」

まるで私が人間ではないような言い方ではないか。

「なぁ……バルクホルン。さっきのミーナの話だが……」
「ん?」
「相打ちが精一杯と言ったよな?」
「ああ。」

新人時代の演習では、ミーナと何回かやりあったが結局一度も勝てなかった。

「私なりに考えたんだが……」
「考えた?」
「ミーナとの勝負を相打ちに持ち込む方法を。」
「ほう。」

三次元空間把握能力を用い、死角のないミーナと互角に戦う方法。
マルセイユはどんな方法を思いついたんだ?

「後ろに回りこんでも無意味、なら……正面から戦うしかないよな?」
「ああ、そうだ。お互い真正面から接近し撃ちあう他ない。」

それが、ミーナと有効に戦える唯一の手段だ。
私はその方法で相打ちに持ち込んだ。




『何てこった、残ったのは新人2人か!』
『こいつは面白い!新人2人の一騎打ちだ!!』

模擬弾を使った演習。
JG52第2中隊と第3中隊の戦い。
先輩ウィッチ達は堕としたり堕とされたりを繰り返し、空に残されたのは私とミーナだけだった。

『やれやれ……またミーナが相手か……』
『あら?随分嫌そうね?』
『三次元空間把握能力を使う、死角のないお前の相手は骨が折れる。』
『この能力を使っても中々堕とせない貴方の方が骨が折れるわよ?』

お互い軽口を叩き合いながら空中戦をしたものだ。
私がミーナの後ろを取っても、すかさずミーナは銃口を背後に向け引き金を引いた。
撹乱ではなく、正確に狙ってくるのだからこちらも中々射撃位置につけなかった。

『くっ……全く。後ろを取られても正確に狙えるなんて卑怯な奴だ。』
『それを避ける貴女の反射神経はもっと卑怯よ。』

卑怯などと言い合っていたが、お互い認め合っていたんだ。

『結局……これしかないわけか。』
『そうみたいね。』

私達は共に一旦距離を取る。

『何だ?バルクホルンが旋回して、ミーナの方を向いたぞ?』
『ミーナもだ。』

互いに真正面に向き合い、そして突っ込む。

『おいおい!ぶつかるぞ!』

そして互いに撃ち合う。

『外したか……!』
『私も……』
『もう一度正面からだ!』
『いいけど……こんな風に戦うなんて、貴女ってまるで中世の騎士ね。』
『それに応じるミーナはさながら女公爵だな。』

武器の近代化が進み、戦場から騎士道精が失われつつありながらも、ミーナはそれを失っていなかった。
スペードのエース、女公爵……ミーナに相応しい渾名だ。

『まただ!両機接近!』
『まるで騎士だ……騎士の戦いだ!!』

お互い一歩も譲らず、ギリギリまで近づく。

『行くぞミーナ!!!』
『来なさいトゥルーデ!!!』




「……で結局相打ちだったわけだ。」
「そういうことだ。」

ミーナとの勝負は勝てたことがない。
まぁ……負けたこともなかったが……
しかし初めて戦った時は本当に驚いたものだ。
後ろへ向けて、あそこまで正確に撃ってくるとは思わなかった。

「……トゥルーデは私が空軍を志した理由を知っているか?」
「いや……聞いたことがないはずだ。」
「恩師との出会い……それで空軍に興味を持ったんだ。」
「ほう……」
「そして休日に近くの空軍基地の演習を見に行ったんだ。」
「うむ……」
「空を翔る航空ウィッチ達の戦いはとてもかっこよかった。」

なるほどな。
地上から見る航空ウィッチ達の戦いは、さぞかっこよかったに違いない。

「しばらく見ていると、1人、また1人地上に降りてきて、空に残ったのはとうとう2人だけになった。」
「……」
「残った2人は複雑な軌道を描きながら戦っていた。まるでダンスを踊っているかのようだった。」
「うん……」
「やがて2人は互いに示し合わせたかのように、距離を取り真正面から突っ込んだ。」
「……ははは。」
「まるで中世の騎士の戦いだった。」
「だろうな。」

やれやれ……見られていたのか。

「私はその姿に憧れ、空軍を志したんだ。」
「そうだったのか。」
「今日お前からミーナの話を聞くまで、誰だか分からなかったよ。」

マルセイユが空軍を志した要因の1つが、私とミーナの一騎打ちか……
何だか恥ずかしい気もするが……悪い気はしない。

「たまにはこうして輝かしい日々を思い出すのもいいものだな。」
「そうだな。辛い思い出から目を背けない事も大切だが、こうして楽しかった事や、一番最初の自分を思い出すのも大切だ。」
「ああ、そうだな。」

理想や憧れを抱いて空を目指していた自分。
戦いの非情さを知り絶望しても、一番最初の自分を思い出せばきっと立ち直れる。

「なぁマルセイユ。」
「何だ?」
「私はお前の憧れを裏切らずに済んだか?」

幼き日のマルセイユが憧れた航空ウィッチ達。
私は、その憧れを裏切らずに済んだのだろうか?

「……前にも言ったが、私はどう頑張ってもトゥルーデみたいな生き方はできない。」
「ああ……」
「でも尊敬している。撃墜スコアよりも列機を連れて帰る事を誇りにし、整備兵達への敬意も決して忘れない航空ウィッチ……私は心から尊敬しているよ。」
「そうか……」
「あの日憧れたウィッチがトゥルーデでよかった。感謝してる。」
「憧れを裏切らずに済んだか……」

よかった。
うん……よかった……

「これからも頼むぞ?裏切らないでくれよ?」
「裏切るものか。私は私で在り続ける。それでいいんだろう?」
「うん……それでいい。」
「安心したか?」
「ああ、安心した。」

私は絶対に裏切らない。
マルセイユの思い出と……そして、空に憧れていた自分の思い出を。












数日後、基地で受勲式典が執り行われた。

「気をつけ!!」

横一列に並んだ各国の陸戦ウィッチ達が、号令と共に直立不動の姿勢を取る。
私は一歩ずつ、姿勢を崩さぬように歩き、壇上の3将軍の前まで歩く。
3将軍の前まで来ると、ロンメル閣下が代表して書状を読み上げる。





第31統合戦闘飛行隊
ゲルトルート・バルクホルン大尉

貴官は今次大戦において、幾多の困難な試練を乗り越え、数多くの部隊の急場、カールスラント人民の命、
そしてアフリカ戦線の崩壊という未曾有の危機を救った。
貴官の戦功にはどんな賛辞を述べても足りぬほどだ。
全軍及び全人民の代表として、カールスラント空軍ウィッチ隊総監の名をもって貴官に柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与する。
勇敢なる兵士にして航空魔女の権化、ゲルトルート・バルクホルン大尉。
貴官こそ柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を付けるに相応しい航空魔女である。

                           署名 空軍ウィッチ隊総監 アドルフィーネ・ガランド
                           代理 エルヴィン・ロンメル中将



ガランド閣下が署名?
ああ、なるほど。だから連絡をくれたのか。
それにしても……この勲章は今回の戦功に対してのものだけではなかったのか。
……ありがとうございます閣下。

「大尉、君と一緒に戦えることを誇りに思う。」

そう言うとロンメル将軍は私の首に柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を掛けてくれた。

「君の過去の戦功と今回の戦功に心から敬意を払う。よくやってくれた。」

続いてモントゴメリー将軍がメリット勲章を掛けてくれた。

「大尉、君の勇猛果敢な行いに心から敬意を払う。」

最後にパットン将軍が名誉勲章掛けてくれた。
これで首に掛けている勲章は3つ。こんな経験初めてだ。

「敬礼!」

ロンメル将軍の号令と共に私と3将軍は互いに敬礼した。

「構え!」

号令と共に陸戦ウィッチ達が空に向けて大砲を掲げ

「撃て!」

空砲を放ってくれた。
それと同時に歓声と拍手が巻き起こる。
空ではマルセイユを除いた31部隊の連中が、儀典飛行をしてくれている。
マルセイユはと言うと、地上に残り客席の方に座っている。
何でもマスコミ対策だそうだ。
ん?マルセイユの他にも……あれはメンフィスベルの連中か?
そうか……わざわざ来てくれていたのか、ありがたい。

「バルクホルン大尉!」

人ごみの中からカメラを持った人間やら何やらが、わんさか出てきた。
これが全部マスコミ関係者なのか?
すごい人数だ。

「今回の叙勲について一言お願いします!」
「異例のことで私自身驚いている。非常に名誉なことだと思っている。」
「今回の叙勲で、どなたか感謝したい人物はいますか!?」
「共に戦ってくれた戦友達と、私達を支えてくれた整備兵達に心から感謝している。」
「撃墜スコアが400機に迫る勢いですが、これについては!?誇りを感じていますか!?」
「スコアよりも列機を連れ帰ることの方を誇りに思う。」
「今後の抱負などはありますか!?」
「平和の光が私達を照らし、カールスラントへ帰還するまで私は戦い続ける。」

次から次へと質問が飛んでくる。

「諸君、私達とバルクホルン大尉の写真は撮らないのかね?」
「おお、ロンメル将軍!是非お願いします!」
「大尉、握手してくれ。」
「はい。」

ロンメル将軍、モントゴメリー将軍、パットン将軍の順で握手をしていく。
多分各国のマスコミは自国の将軍と握手している写真を使うんだろう。
……写真か。記念に私も貰っておこうか。
うん……どうせなら、一緒に写りたい連中もいることだし……

「あの……1つお願いがあるのですが……」
「何かね?」
「客席に座っているマルセイユとメンフィスベルの連中と一緒に、記念写真を撮って欲しいのですが……」
「おお、もちろんだよ。諸君!!こちらに来たまえ!!」

ロンメル将軍に声をかけられ、マルセイユをメンフィスベルの連中がこちらにやってくる。
マルセイユは堂々としているが、メンフィスベルの連中は少し物怖じしている感じだ。

「あの……何で僕達を……?」
「私を助けてくれたじゃないか。記念写真に写ってくれ。」
「大尉を助けた!?」
「写真撮らせて下さい!!」
「リベリオン空軍の方ですか!?パットン将軍!貴方も是非入って下さい!」
「はっはっは!!よしきた!!」
「握手でもしようか機長?」
「そ、そうだね!」
「写真ができたら私にもくれないか?」
「勿論です大尉!」

これは一生の記念になるな。

「さて……次はマルセイユ君かな?」
「やれやれ、やっと出番か。忘れられたかと思ったよ、ロンメル将軍。」

マルセイユが出てくると、空気が変わった。

「マルセイユ大尉!今回のバルクホルン大尉の叙勲について一言!!」
「嬉しいよ。なんと言っても私の命の恩人だからね。」
「命の恩人!?詳しくお願いします!」
「私が新米の頃、大尉が上官だった。生き残り方を教えてもらったし、実際空でも助けられた。感謝しているよ。」

どよめきが起こり、次々フラッシュが焚かれていく。

「バルクホルン大尉!マルセイユ大尉と握手をしてもらってもいいですか!?」
「ああ、いいとも。」

マルセイユを握手を交わし、互いに微笑み合う。
途端にフラッシュを焚かれ、もう何が何だか分からない。

「「「「「「バルクホルン大尉バンザイ!!!カールスラントの騎士バンザイ!!!!!」」」」」」

兵士の一団が掛け声と共に、突然空に向かって小銃を一斉に発砲し始めた。

「大尉!おめでとうございます!!ベルリンでは助かりました!!」
「エルベ川で助けてもらったことは一生忘れません!」
「レマーゲン鉄橋では家族を助けてくれてありがとうございます!!!」
「パ・ド・カレーでの事は絶対に忘れません!!!本当にありがとうございます!」
「避難中の家族を……助けてくれて……本当にありがとうございます!!!」
「大尉のおかげで家族は平穏に暮らせています!ありがとうございます大尉!!」

カールスラントの兵士だけではない。ブリタニアにガリアの兵士までいる。
まさか……彼らは……

「よかったなバルクホルン。」
「マルセイユ……」
「お前が救った命だよ。」

それにしても……何故彼らがここへ?
服装から見ると、アフリカ軍団だけではなさそうなんだが……

「よかったな、バルクホルン大尉。」
「ロンメル閣下……」
「彼らは君に感謝を述べるために、ここへ招待されたらしい。」
「招待?」
「ああ、国防軍総司令部の少佐が君が過去に助けた戦友達を調べ、ここへ招待したというんだ。」
「そうだったんですか……」
「この短時間でよく調べ上げたものだ。最高の贈り物だね。」
「はい、有難くて……本当に……」

本当に……ありがたい。
ああ……そうか。
これが……私が救うことができたものか。

「やっと報われたな……本当によかった……」
「マルセイユ……」
「この日が来るのをどれだけ待ったことか……あれだけの事をしたんだ。うん……本当によかった……」

報われた……か。
私は見返りを求めて戦ったわけではない。
でも……彼らの顔を見ていると心がすごく温かくなる……

「見返りを求めて戦ってきたわけではないのに……駄目だ……すごく嬉しい。」
「喜んでいいんだ……喜べ。今日は最高の思い出になるぞ。」

ああ、そうだ。
今日という日は間違いなく、輝かしい思い出になる。
偉大な3将軍、勇猛果敢なリベリアン、私が救えた者達、そしてアフリカの星が私のことを祝ってくれているのだ。
こんなに光栄なことはない。

ありがとう戦友達、私はこれからも頑張るからな。


前話:1586

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