ヘルマのif


コンコン...

「失礼します!」
「入れ」

ガチャッ!!

おごそかな空気の中、ヘルマは執務室のドアを開ける。

ロマーニャ解放から5年後、バルクホルンは少佐へと昇進していた。
そして背や胸、顔つきなど年相応に成長したヘルマの姿がそこにあった。

彼女は現在、実験部隊で活躍する傍らバルクホルンの第二秘書を務めている。

「本日のスケジュールをお持ちしました!」
「済まない、今手が離せないんだ。読み上げてくれないか?」
「はい。この後10時より実験隊の方々と打ち合わせ、12時よりそのまま昼食を兼ねた意見交換会。15時より新人ウィッチへの講演です」
「ふむ」
「そして17時まで残った書類仕事、19時よりハルトマン中尉…ってもう軍人じゃないんですよね…」
「…ハルトマン?」
「ええ、1週間前に言いいましたが…もしかしてお忘れに…?」
「済まない、教えてくれないか」
「えと…」

ヘルマはスケジュール帳をめくる

「ハルトマン元中尉の医師免許取得記念パーティーです」
「そうかそうか…って今日か?!」
「…わかりました、少尉が意見交換会している最中に私が走って花を買いに行ってきます」
「それには…及ばないな」
「へ???」

バルクホルンはデスクの下から、フラワーショップで揃えてもらった綺麗な花々を出した。

「なんだ、覚えてらしたんですね」
「勿論だろう、済まないなヘルマ。からかってしまって」

「いえいえ!…こんなに柔らかい少尉、久々です」
「は?」
「いや…最近、笑われてなかったので…」
「…そうだった…のか?」
「ええ…正直申しますと…」
「あはは…私だって冗談のやり取りだってするさ。でも最近…ちょっと私でも疲れたかなと思ってな…」
「少佐…」
「イカンイカン、私はカールスラント軍人だ。これくらいでへこたれちゃダメだな」
「でも少佐、やはり休暇を取られては…?」

すると、今までヘルマの方に向けていた椅子を急に窓の方へと方向を返る。

「なあレンナルツ」
「はい」
「お前は…この軍が好きか?」
「ええ、とてもやりがいを感じています」
「そうか…」
「あの…それが何か?」
「もし…異動命令があったらどうする?」
「ヘルマ・レンナルツ、命あればどこへでも赴任いたします!」
「そうか…」

しかし、この時何かおかしいと感じ取っていたヘルマであった…。

「あの…少佐、何か…?」
「実はな…お前に異動命令が出てるんだ」
「それは…遠い所なのですか?」

―――でも本心は…我儘を言うと、嫌だった。憧れのバルクホルン少佐の下でサポートする役職に就いたのに、異動だなんて…

「ロマーニャ…ですか?」

バルクホルンは首を横に振る

「ワイト島ですか?それとも、ア…アフリカとか?」

それでも首を横に振る。

「じゃあ…一体、どこですか…?」
「カールスラント・ルフトハンザ航空だ」
「…へ??」
「知ってるだろう?」
「ええ、民間の航空会社ですよ…ね?」
「そこへ…出向してくれ」
「…それって」

知らぬ間に、ヘルマは両手を握りしめていた...

「私が…私が戦力外って事ですか??!!」

―――なんてことだ、上官でもあり憧れの人に対し…大声を上げてしまった…

「………」
「私は…頑張って、この地位まで辿り着いたんです!なのに、なのに民間の航空会社に出向って…いくら上官命令だからと言っても酷いです!」
「これは上官命令だ、レンナルツ!」
「断固拒否します。だったら、私は軍を辞める覚悟であります!!!!」
「辞めたら意味がないだろう!!!!」

ヘルマに釣られ、ついバルクホルンも大声を上げてしまう…

「良いか、よく聞けレンナルツ。お前はこの5年以上、ずっとジェットストライカーの開発に携わり今では我が軍で実用化されたとても大切な物を作ってきた」
「………はい」

やや不満げに返事をする。

「でも…今度は、不特定多数の人々にその知識や技術を教える番だと私は思うんだ」
「…どうゆう事でしょうか?」
「現在、人々の足として使われている飛行機は遅い。けどお前たちの開発した技術を民間に転用すれば、より良い環境づくりが出来るとは思わないのか?」
「それは…その…」
「レンナルツ!…お前は今度から彼らの生活の『幸せのため』に技術を教えてやってくれないか?」
「少佐…っ」
「もちろん、過去のお前の実績を見通しての出向だ。決してお前を戦力外だからと言って飛ばす訳ではない、むしろ惜しいくらいだ」
「もっ…申し訳ございませんでしたっ!!!」

深々と頭を下げるヘルマ

「生意気な口を利いて申し訳ございませんでしたっ!!!」
「頭を上げろ、レンナルツ。私も誤解を招くような表現で悪かった」
「でっ、でも私…上官になんて酷い事を…」

「…悪いと思うんなら、一生懸命働け。そして人々を喜ばせろ。人々の喜びは、私の喜びだ」
「しょ、少佐…っ!!!!」


***






「しょうさぁ………」
「起きなさい…起きなさいってば!」
「はっ!!??」

場所は変わり、軍の食堂。

「あれ、シュナウファー大尉?!」
「珍しいわね、あなたが昼寝だなんて。ヨダレが出てるわよ?;;」
「へ?へ?へ?」
「何、寝ぼけてるの?」
「えと、私っていつから異動でありますか?」
「はあ?」

すると、

「あれっ!?胸が…ないであります!!」
「それはいつもの事じゃない」
「え…;;でっ、でも胸がこう…ばいんばい~んって。パイオツカイデーなチャンネーでしたもん!」
「何言ってるの?ヘルマ;;医務室行く?」
「だって少佐が…」
「は?」

その日、ずっと支離滅裂な事を言っていたヘルマ。
バルクホルンとのやり取りが、実は夢であったと言う事を翌日に知ったヘルマであった。

「…二度目の夢オチでありますか?!」



【おわれ】



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