flowers of the field


「キノコ狩りいこー」
 午後の休憩の最中、唐突にルッキーニが言い出した。
「キノコ? なんでまた」
 お茶請けのお菓子をぱくつきながらのシャーリーの問いに、陽気なロマーニャ娘は笑った。
「だって食べたくなったんだもん」
 単純明快過ぎる答えを聞いて、シャーリーはうーむと唸った。

 シャーリーのストライカー整備を脇目に見ながら、ハンガーの中で退屈そうにごろごろ転がるルッキーニ。
「ねえシャーリー。キノコー、キノコー、ノコーノコー」
「キノコキノコって簡単に言うけどさ。毒キノコもたくさん有るの知ってるだろ?」
「うん、知ってるよ」
「じゃあ危ないからダメだな。素人には見分け付けられないぞ」
「あたし、食べられるキノコなら知ってるもーん」
「でも毒キノコ知らないだろ。……ルッキーニ、危ないからやっぱりダメ」
「そんなぁ」
 つまんなーい! とルッキーニは言うと、外へ行こうとする。シャーリーはすかさずルッキーニの腕を捕まえる。
「なに、シャーリー」
「一人でキノコ採りに行こうとしただろ?」
「そそそ、そんな事無いよ?」
「ルッキーニの考えてる事はお見通し。キノコ狩りはダメだけど、ちょっとの散歩くらいなら、付き合うよ」
「ホント?」
 ロマーニャ娘の顔に、ぱあっと笑顔が広がる。この娘は思った事がすぐ顔に出、それも猫の目の様にとても忙しい。
 シャーリーは工具を適当に片付けると、ルッキーニと連れ立って外へ出た。

 道すがら、思い出したかの様にルッキーニの名を呼ぶシャーリー。
「そう言えばさ」
「? どしたのシャーリー?」
「基地の中で、色んな場所に花が咲いてるって事、みんなに言ったろ」
「うん。あっちの方には青いきれーな花が咲いてて、こっちにはピンク色の……」
「それ。みんな気になったみたいで、あちこち探したりしてるみたいだぞ」
「そうなの? 簡単に行けるのに」
「そりゃルッキーニだからだ。藪の中潜ったり獣道通ったりとか、普通しないって」
「ふーん」
「お前、あんまりみんなに言いふらすから」
「でもきれいだったよー」
「ルッキーニが言うならそうなんだろうけどさ」
「じゃあ、みてみる?」
「へえ。行ってみよう。どっちだ?」
「こっちこっち~」
 ルッキーニは手招きして、シャーリーを誘った。
 “キノコ狩り”の事はすっかり頭から消えてなくなった様で、その意味では安堵するシャーリーだった。

「ここはねー。下にヤブがあってチクチクして痛いから、上から行くのがいいの」
「おいおい、こんな遺跡の上登って大丈夫か?」
「へいきだよー」
 いとも簡単にするすると登っていくルッキーニ。おっかなびっくりでついて行くシャーリー。
「これは、流石に他の連中誘うのはきついかな」
「何か言ったシャーリー?」
「いや何でもない」
 遺跡の石をぴょいぴょいと飛び越え、少し開けた所に着地する。
「この先。もうちょっとだよー」
「……ん? 待てルッキーニ」
 慌ててロマーニャ娘を引っ張り、物陰に身を隠すシャーリー。
 行く先に、人の気配がする。
 一体、誰が?
 そっと見ると……、青空の下、痴態を繰り広げるカールスラントのバカップルがちらっと見えた。
(何やってるんだ、あいつら)
 目をつぶり、愕然とするシャーリー。
「うわっ、すごい事してるよシャーリー。……あのふたり」
「おわ、馬鹿、見るな見るな……てか静かに」
 目を隠し、口に指を当て、声を出すなと指図する。
 しかしどうしたものか。平然と出て行くのも何か気まずい。かと言ってこのまま引き返すのも釈然としない。
 どうすべきか。考えあぐねるシャーリーの頬に、ルッキーニの指が触れる。
「ねえ、シャーリー」
 ルッキーニの様子がおかしい。どうした? と目を合わせてぎょっとした。ロマーニャ娘の瞳が潤んでいる。
「あたし、あたしね」
「どうしたよルッキーニ」
「見てたら、なんか、せつなくなってきた……」
 シャーリーにしだれ掛かると、ルッキーニはぺろっと鼻先を舐め、そのままキスをしてきた。胸に顔を埋めるルッキーニの息遣いは荒い。
「ちょっ、それはまずい……。ここであたし達もってのは……」
 しかしルッキーニに抗えず、そのまま地べたに押しつけられ、唇を塞がれる。
「ねえ、シャーリー。おねがぁい……」
 ルッキーニの、甘くねだる声。シャーリーも次第に理性が失われていくのは感じていたが、これはさすがにどうかと踏みとどまっていた。
 しかし抵抗もむなしく、理性が飛んだシャーリーは驚異的な加速でルッキーニを虜にした。

「はぁ……。んんっ……、うん? エーリカ、どうした? にやついて」
 キスを繰り返す二人。突然に行為を止めて、何処かを見るエーリカ。トゥルーデは不思議に思い声を掛ける。
「えへへ。私達見て興奮してるのが居るよ、トゥルーデ」
「えっ!?」
 乱れた服のまま起き上がろうとするトゥルーデを力ずくで押さえ込み、口に人差し指で合図するエーリカ。
「静かに。ゆっくりと。ほら、西側の物陰」
 そっと様子を窺うと……確かに居る。そして“いけない何か”をしている。
「リベリアン……とルッキーニか。何をしてるんだあいつらは」
「私達が言えた事じゃないよね」
「うう……。どうする、エーリカ」
「良いんじゃない? 頃合い見計らって、声掛けようよ」
「まるで悪魔だな、エーリカは」
「みんなで幸せになれればいいと思うよ。ね、トゥルーデ」
 小さな可愛い悪魔はそういうと、愛しの人の乳房を舐め、そのまま首筋へ舌を這わせた。負けじと頬にキスするトゥルーデ。

 夕暮れ。
 乱れきった服を直しつつ、カールスラントのバカップル、そしてリベリオン娘とロマーニャ娘は揃って花と海を愛でていた。
「しっかし、二人が先に居るとはね」
 頬杖ついてぼんやり海と花を見るシャーリー。
「花を探しに」
 エーリカが笑う。
「で、見つかったのかい」
 シャーリーの問いに、トゥルーデが当然だと言わんばかりに頷く。
「目の前にあるだろう」
 トゥルーデはそう言って、エーリカを見た。視線を感じ、へへっと笑うエーリカ。
「そう言う事か」
 やられたなー、と首筋に付いた痕をごしごしと擦って誤魔化し、シャーリーは呟いた。
「ね、シャーリー、きれいでしょ?」
 そう言って、野バラの咲く生け垣の前で笑うルッキーニ。シャーリーは夕日のオレンジ色に染まる景色と彼女を見た。
 もう一度愛しのロマーニャ娘を抱き寄せ、ほっぺたにキスをする。
「いやん、シャーリー」
「こうしたい気分なんだ。少し、させろ」
「シャーリーのえっちー」
 まんざらでもなさそうなルッキーニ。
「全く……」
 呆れるトゥルーデに、シャーリーもにやっとして言った。
「ま、お互い様って事にしといてやるよ」
「……なっ! お前達だって」
「ほらほら二人共」
 エーリカは二人をたしなめると、爽やかに吹き抜ける海風を感じ、笑った。そして皆に言う。
「見て。夕日綺麗」
 山裾の間に沈みゆく太陽は、大地を、海を、そこに見えるもの全てを美しく染め上げる。
「……そうだな」
 ふっと和むトゥルーデとシャーリー。ルッキーニはシャーリーの胸の中で甘えている。
「ここはまた良いとこだな。みんなで来てバーベキューでもするか」
「普通に花見で良いと思うが」
「そうか?」
「まあ、みんなで来ようよ。楽しいよ」
「だな」
 はにかみ、くすくすと笑う四人から伸びる影は、長くなり……辺りを金色に染め上げる。
 そろそろ帰ろう、と誰かが言った。
 のんびりと腰を上げ、そっと、その場を後にした。

 花は変わらず、風に揺られ、咲き乱れる。

end



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