DREAM & CREAM
――1947年、オラーシャ
「あれ? もしかして……サーにゃん?」
隊長さんから一日のお休みを貰ったある冬の日、
必要な物を買い揃え、お気に入りのカフェで一息つこうと考えていたところをふと、懐かしい声に呼び止められる。
「ルッキーニ……ちゃん?」
「やっぱりサーにゃんだ! 久しぶり~!」
振り返るとそこにいたのは、健康的な褐色の肌に長い黒髪をした、かつての仲間。
一緒に戦っていた時より顔も身体つきも大人っぽくなっていたけど、人を魅了させる可愛らしい笑顔とチャームポイントの八重歯は健在で、
そんな彼女の笑顔を見ていたら、私も自然と笑みがこぼれる。
「すっごい偶然! サーにゃんとこんな所で再会できるなんて」
「それはこっちの台詞だよ。ルッキーニちゃん、何でオラーシャに……?」
「さっきまでこの近くで会議をやってたの。本当はあたしんとこの隊長が出るはずだったんだけど、
急な用事が入っちゃって代わりにあたしが……ふぇっ、ふぇっくしょん!」
と、ルッキーニちゃんが全部を言い終わらないうちに大きなくしゃみをする。
ルッキーニちゃんの格好をよく見てみると、コートの下からは素足が覗いていた。
そんな格好じゃ、くしゃみが出ちゃうのも無理はない。
「ウジュ……こんなに寒いんなら、ストッキングでも履いてくれば良かった……」
ルッキーニちゃんが自分のハンカチで鼻をかみながら、溜息のように呟く。
私はそんなルッキーニちゃんの手をとって、彼女にある提案をする。
「この後、時間ある? 良かったら、私のお気に入りのお店で一緒にお茶しない?
ルッキーニちゃんと久しぶりに色々とお話したいな」
私がそう言うと、ルッキーニちゃんは目をキラキラさせながら大きく頷いてくれた。
「それ、いいね。賛成! 迎えが来るまでまだ時間があるんだ。ね、早く案内して」
ルッキーニちゃんは私の腕をぐいと引っ張て、目的地の案内を促す。
外はこんなに寒いのにルッキーニちゃんの手は不思議と暖かく感じられて、なんだかとても温かい気持ちになってくる。
――数分後、カフェ
「いらっしゃいませ、お2人様ですか?」
「はい」
「かしこまりました、すぐにご案内いたします。こちらへどうぞ」
愛想の良い店員さんに案内され、私たちはお店の奥の席に着く。
「うん、暖房入ってて暖かい~。コート脱いじゃおっと」
コートを脱いだルッキーニちゃんの形の良い胸が、私の目に飛び込んでくる。
2年間の間に大きくなったのが一目で分かる。
何でだろう……ルッキーニちゃんの胸を見てるとなんだかドキドキしてきちゃう……
「じろじろ見ないでよ~。サーにゃんのえっち~」
そんな私の視線に気づいたのか、ルッキーニちゃんが手で胸を隠しながら冗談っぽく笑う。
「あっ、ご、ごめん……」
女の子の胸を見てドキドキしちゃうなんて、まるでエイラみたい。
一緒にいるうちに似てきちゃったのかな……?
「ご注文はお決まりですか?」
少しして、注文をとりにやってきた店員さんに私は、ここに来るたびにいつも頼んでるコーヒーとショートケーキを注文する。
一方のルッキーニちゃんはと言うと……
「えっとね、ここのパフェ全部とショートケーキとモンブランと……あっ、それとチーズケーキもお願いしまーす」
「あっ、はい……かしこまりました」
「ルッキーニちゃん、頼みすぎだよ。全部食べれるの? 店員さんも驚いてたよ」
「大丈夫大丈夫。慣れない会議で疲れて、お腹ペコペコだもん。それよりさ、早くお話しようよ。
サーにゃんがこの2年間、何やってたか教えて教えて!」
――それから私たちは1時間ほど、2年間のお互いのことを話しあった。
今の部隊や仲間のこと、家族のこと、自分たちの趣味のこと――とりわけ、エイラとシャーリーさんの話題をお互いに一番話していたと思う。
「ねぇ、サーにゃんはエイラとはどうなったの?」
最後のパフェを食べ終わったルッキーニちゃんに、不意にそんな事を訊ねられる。
「ど、どうって……?」
「ちょくちょく逢ってるんでしょ? プロポーズとかされてないの?」
「え? プ、プロポーズってそんな……」
私は今、自分の胸がドキドキしているのを感じる。
エイラからプロポーズされるなんてそんなこと、考えたこともなかった……
「まだなの? 相変わらずエイラはヘタレだな~」
「そ、そんなことない……最近は積極的にデートに誘ってくれるようになったし……
それに、逢う度にカ、カッコ良くなってるし……」
「わーお、ラブラブ~!」
「恥ずかしいから茶化さないで……そう言うルッキーニちゃんはシャーリーさんとはどうなったの?」
「あたし? シャーリーとは相変わらずだよ。バカやって大騒ぎして、くだらないことで笑い合える最高の相棒……
それと同時に目標でもあるかな」
「目標?」
「うん。あっ、目標って言っても体型のことじゃないよ。あたし、シャーリーみたいな器の大きいオンナになりたいの」
と、珍しく真面目な口調でルッキーニちゃんが言葉を続ける。
「ほら、シャーリーって歳の割りにしっかりしてるとこあったでしょ? あれって実はかなりスゴイことだったんだなーって、
最近思うんだ。あたしなんて未だに、周りからは『落ち着きがない』ってよく言われるし……だから、シャーリーみたいに
普段はふざけてても、決める時はビシッと決めれるようなウィッチになるのが今のあたしの夢なんだ」
そう言い切ったルッキーニちゃんの瞳は、一点の曇りもなくとても綺麗だった。
「素敵な夢だね、ルッキーニちゃんならきっとなれるよ」
「へへー、ありがと。ねぇ、サーにゃんの今の夢ってなーに?」
「えっ、私の夢……? エイラやお父様、お母様……大好きな人たちとずっと一緒にいられること、かな」
「そっかー、じゃあその為には早くネウロイをやっつけて世界を平和にしないとね。あたしも頑張ってネウロイを
バンバンやっつけるからサーにゃんも頑張って!」
「うん」
私は大きく頷き、微笑んだ。
『世界を平和にする』なんて口で言うほど簡単なことじゃないのに、ルッキーニちゃんの笑顔を見てたら不思議とできそうな気がしてくる。
そう思えるのは、彼女の笑顔に人を惹きつける魅力がたくさんつまってるからかな……?
――楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、気が付けば私がルッキーニちゃんとお話できる時間も残りわずかとなっていた。
私たちはカフェを後にして、近くの公園のベンチで佇んでいた。
「今日はありがとね、サーにゃん。サーにゃんといっぱいお話できて、とっても楽しかったよ」
「私も楽しかった……ありがとう、ルッキーニちゃん」
「へへー。あっ、サーにゃん頬にクリームついてるよ」
「えっ、嘘……」
「じっとしてて、取ってあげるから」
ルッキーニちゃんはそう言って私に近づくと、私の頬にそっと唇を寄せてきた。
これってつまり……キ、キス!?
「ル、ルッキーニちゃん……?」
「えへへー、クリームついてるってのは嘘だよ。サーにゃんって、頬っぺた柔らかいね」
「もう、ルッキーニちゃんの意地悪……」
私も仕返しとばかりに、悪戯っぽく微笑むルッキーニちゃんを引き寄せて、彼女の頬に自分の唇を重ねる。
「ちょっ……サー、にゃん……」
「ふふっ、ルッキーニちゃん、顔真っ赤……」
「あ、赤くなんかなってないよ! サーにゃんのバカ……」
言葉とは裏腹に顔を真っ赤にさせたルッキーニちゃんが可愛かったから、私は彼女の頭をそっと撫でてあげた。
「ルッキーニちゃんって、髪サラサラ……」
私は、2年間の間に伸びたルッキーニちゃんの綺麗な黒髪を撫でながら呟く。
「うぅ、あんまり撫でないでよ……」
「ねぇ、今度はいつ逢えるかな?」
「またすぐ逢えるよ。なんなら、今度のオラーシャでの会議も隊長の代わりにあたしが出てもいいし……その時はまた一緒にお話しよ?」
「うん。その時は私にオラーシャを案内させて」
「へへ、約束だよ? あっ、あたしもう行かないと……頬っぺにチューしたこと、エイラにはナイショだからね? じゃ、まったね~!」
そう言ってルッキーニちゃんは、あっという間に去っていった。
私もまだ言いたいことがあったのに……
――ねぇルッキーニちゃん、私がキスしたこともシャーリーさんにはナイショだからね?
~Fin~