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「エーリカ」
「トゥルーデ」
 朝食の席から、肩を寄せ合って名前を呼び合う二人。
 いつもの事かと思いきや、どうも様子がおかしい。
 トゥルーデの皿から蒸かし芋をひょいとさらって食べてしまうエーリカ。
「エーリカ」
 少し怒った感じでトゥルーデが言えば、
「トゥルーデ」
 にしし、と笑いながらエーリカが返す。
「エーリカ」
 溜め息をついてトゥルーデがエーリカの頭を撫でる。
「トゥルーデ」
 嬉しそうに、皿からもうひとつ芋を取るエーリカ。

 二人の様子を見るうちに胸焼けがしてきたのか、隊員達は二人から目を逸らして言い合った。
「どうしたんだヨ、あの二人」
「知るか。あたしが知りたいよ」
 ひそひそ声で話すエイラとシャーリー。
「ウジャーあたしわかった! 何するのもぜんぶ名前だけで一日過ごすごっこ!」
「どんな遊びだよ……」
 ルッキーニの正解にも関わらずげんなりするシャーリー。
「さ、作戦に支障がなければ、別にその……」
「ペリーヌ、顔がひきつってるぞー。無理しなくて良いんだぞ」
 ガリア娘をそれとなく気遣うリベリオンの大尉。
「しかし相手の名前だけで意志疎通か。無線が使えない等の非常時の訓練に役立ちそうだ」
「貴方ったら、いっつもそう。訓練の事しか頭に無いの?」
 頷く美緒、呆れるミーナ。
「リーネちゃん、私達もやってみようか」
「えっ、本当? 芳佳ちゃん」
 わくわくする食事当番の二人。
「私達は……もういいよね」
 ぽっと頬を赤らめてエイラの袖をついと引っ張るサーニャを見、一同はぎょっとした。
「サーニャ! それはここでは言わないで……」
 妙な汗をかきはじめるエイラ。

 訓練時や任務時こそ普通に周囲と会話するものの、ふたりっきりとなると名前しか呼ばないふたり。
 周囲は食傷気味に、誰ともなしに「そっとしておこう」と言う事になり、距離を置く。
 気付いているのかそれともわざとか、エーリカがにやっと笑い、名を呼ぶ。
「トゥルーデ」
「エーリカ」
 ほら見ろ、と言わんばかりの口調。でもエーリカはトゥルーデの袖を引っ張ると
「トゥルーデ」
 とだけ言い、部屋に連れて行く。そのまま腕を引かれ、連れて行かれる。
 一同はようやく居なくなったカールスラントのエース二人を後目に、はふう、とため息をついた。

 ドアを後ろ手に閉めるトゥルーデ。
「エーリカ」
 少し怒った感じで言う。
「トゥルーデ」
 気にしたらダメ、とばかりに笑って肩をすくめるエーリカ。
 何か言いたげだが、仕方なしにふう、と肩で息をすると、そっと愛しの人を抱きしめる。
「エーリカ」
 耳元で囁き、唇を耳たぶに這わせる。
「トゥルーデ」
 身をよじり、ふふっと微笑むエーリカ。トゥルーデの真正面に身体を置くと、改めて腰に手を回し、おでこを合わせる。
 揃って、微笑む。
 先に動いたのはエーリカ。ゆっくりと唇を重ね、目を閉じる。
 お互いの身体の温かさを感じ、浸り、そのまま溺れていくのも構わず、キスに夢中。
 あはあっ、と艶めかしい声を上げるトゥルーデ。逃さず、エーリカは首筋をつつーっと舐める。
 こらえきると、ゆっくり息をして、今度はエーリカが攻められる番。抱きしめられ、ゆっくりと身体を舐られ、
 きゃうっ、と小さく声を上げ、身体を震わせる。

 ひとしきりお互いをじっくり知り、体と心を通わせた後……乱れた服のまま、二人は微睡む。
「トゥルーデ」
「エーリカ」
 お互いの名を呼び合い、そっと、口吻を交わす。お休みの挨拶。
 ふたりは身体を寄せ合い、抱き合ったまま、ベッドの中で眠りに落ちる。
 明日はどんな楽しい事が待っているだろう。明日は何をしよう。それは明日決めること。
 今はただ、互いに欲し合い、そして分かち合いたい。ただそれだけ。

end



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