ヘルマの失踪
「まだ…見つかってないの?」
「はい!現在、鋭意捜索中です」
「そう…」
一見、ぶっきらぼうに対応していると思うけど内心はとても心配して焦っているウルスラ・ハルトマン中尉。
あ、皆さんこんばんは。つい最近まで『夜のお菓子 うなぎパイ』のメッセージに卑猥なイメージを持っていました、ハイデマリー・W・シュナウファーです。
なんで基地内がこんな慌ただしいのか、これは私が解説します…。
***
話は遡ること3日前。
「パワーを2倍に…でありますか?」
「うん。流石に長距離は無理だけど、この基地周辺なら実験出来ると思う」
「でも…前にバルクホルン大尉が魔力を全て消耗したじゃないでありますか」
「大丈夫、ちゃんと計算した。そして改良も施した」
「…本当に大丈夫でありますか?」
「私を疑ってる気…?」
「ちっ、違うであります!」
いつもと同じような実験前の光景。
ハルトマン中尉とヘルマ・レンナルツ曹長はいつものやり取りをし、実験していました。
なお、この日は速度重視の飛行テスト。エンジンを通常の2倍付けたら何キロ出るのか…とちょっと危ない実験でした。
そんな危ない実験だったのに、いつもと変わらないやり取り…今となっては逆に不気味ですね。
「レンナルツ曹長!ハルトマン中尉!ジェットストライカーの準備が出来ました!」
同じ実験部隊の男性兵が呼びに来て、レンナルツ曹長はストライカーを履き準備をする。
あ、なんで私が知ってるのかって?実は私、そこにいたんです。部隊の回覧板的なものをハルトマン中尉に回してくるよう言われたんで;;;
すると………、
ゴオォォォォォォッ!!!!
今までに聞いたことのないような爆音…例えて言うなら、毎年正月に暴走行為をする『初日の出暴走』が集団で走ってるような音でしょうか?
「わっ、スゴい音…」
ハルトマン中尉は私に気付き、
「シュナウファー大尉、お疲れ様です」
「あ、どうも。なんですか、この音?!」
「改良したジェットストライカーMark.Ⅱ」
「???」
レンナルツ曹長は既に使い魔の耳と尻尾を出し、目を閉じて精神統一をしている様子。
「行けそう?」
「はい、行けるであります!」
「じゃあ発進してちょうだい」
「シュバルツェカッツェ(黒猫)2番、発進するであります!!」
と言い、エンジン音は爆音だったもののいつものように発進…したように見えました………が!
「わっ…わわわわわっ!!!!」
ものすごい勢いで何処かへと吹き飛んでしまうレンナルツ曹長。
空中で、スポーンとジェットストライカーが抜き飛んで…
「あ…」
そのままレンナルツ曹長だけ、何処かへ飛んで行ってしまった様子です…。
「失敗…か」
「え?!救助しなくても良いんですか?!」
「………回収しなくちゃ」
「どっちをですか??!!」
***
そうして、レンナルツ曹長が実験中の失踪から早3日が経ちました…。
「…ハルトマン中尉」
「何?」
「少し寝た方が…」
「大丈夫」
「でも…」
「大丈夫だから!」
「っ?!」
普段静かなこの方が大声を上げるだなんて…
「す、すいません…」
「ごめんなさい」
「いえ…」
「………」
「………」
「………」
「…今日は、何日?」
「今日ですか?今日は…10日です、10月の」
「…そう」
「何か?」
「…今日はヘルマの誕生日」
「へ??」
今日、10月10日はレンナルツ曹長の誕生日。何かプレゼントでも用意してたのでしょうか?
ちょっと微妙な空気が流れてる時でした…、
「ハルトマン中尉!」
「っ?!」
研究室に捜索係の男性兵がやって来て、
「レンナルツ曹長が…っ!」
「っ??!!」
「ど、どうしたんですか??!!」
「見つかりました!」
よ、良かった…!!
「でも…」
どうも浮かない顔をしている捜索係の人…。
「どうしたの…?」
「意識が…」
「っ!!??」
「落下した時と、発見されてからだいぶ時間が経っており意識が…」
「…ハルトマン中尉、とりあえず病院へ行きましょう!」
そうして、私たちは病院へ向かった………。
***
私たちが病院へ着くと、そこには…
「ヘルマ…」
ガラス張りの病室の中が見える廊下。その部屋の中には、ベッドで横になっているレンナルツ曹長の姿が、そこにありました…。
そしてふと横を見ると、今にも泣きそうな顔のハルトマン中尉が…
「ご家族の方ですか?!」
病室の中から医師が出て来て…、
「いいえ。でも…家族同然…」
「そうですか。…覚悟をしておいた方が良いと思います」
「へ…?」
「今夜が…峠です」
「………」
「私のせいだ…」
「ハルトマン中尉…」
かれこれ1時間、ハルトマン中尉はレンナルツ曹長の手を握っています…。
「…っ!!」
「どうしたんですか?ハルトマン中尉」
「今…一瞬、手に力が入った…」
「え?!」
すぐレンナルツ曹長を見ると…
「ヘルマ!!」
少し控え目に目を開け、笑っていました…
「ハル…ト…マンちゅう…い…」
「良い、何も喋らなくて良い」
「ごめ…な…さい…」
「私の方がもっと悪いから…」
「ちゅう…い…と…一緒…に…」
「一緒に?」
「海が…見たかっ…たで…あり…ます」
そう言うと、私の目の前には粉雪が降ってきました。
それはレンナルツ曹長の「涙」なのでしょうか?
切なく、しとしとと………。
「ヘルマ?!ヘルマ??!!」
先ほどの一言を言い残すと、レンナルツ曹長は眠るように短い命を………。
***
「どう?」
「………っ!!」
ウルスラの研究室にて、原稿用紙を手にして震えているヘルマ。
「なっ、何なんでありますか?!この小説は!!」
「今度の小説コンクールに応募してみようかと思う」
「いや、そうゆうのはどうでも良いんですが何ですか?!なんで私が死ぬんでありますか!!」
「誰かが死んだ方が、話が盛り上がるし泣けると思う」
「いやいやいや、そうゆう問題じゃなくてなんで実名なんでありますか!!」
話の内容に憤慨し、思わず立ち上がってしまっている。
「あとツッコみどころ満載ですよ!」
「…例えば?」
「ラストの!なんで病室なのに、雪が降るんでありますかぁ!!??」
「この間見た韓流ドラマの影響」
「いくら韓流でも部屋の中には雪は降りませんですって!!」
「このシーンで全カールスラント国民に泣いてもらおうかと思う」
「泣きませんって!それに、なんですか!?最後のセリフは!?」
「定番」
「定番じゃないですよ、何が定番で海が見たくなるんですか!?」
「文句多い」
「…なんで中尉が怒るんですか!」
「これ書くのに1カ月近くかかった」
「だったらもっとまともな作品書いてください!!」
そうしてヘルマが部屋から出ようとした瞬間、
「あ、ちょっと待って」
「何でありますか?!死んで欲しいヘルマ・レンナルツに何か用ですかぁ??!!」
「これ」
ウルスラはヘルマに紙袋を渡す
「…何です?」
「プレゼント」
「え…?」
「今日はあなたの誕生日…」
「ハルトマン中尉…っ!」
「おめでとう」
渡すと、少し控え目に笑うウルスラ。
ヘルマは思わず…
「中尉~っ!」
「わっ」
ジャンプしながら飛び付く...
「先ほどはごめんなさいでありますぅ!」
「びっくりした…」
「中、開けて良いでありますか?!」
「もちろん、あなたのだから」
「では早速♪」
ウキウキしながら中を開けると………
「………何でありますか?」
「さっきの原稿用紙の文を、自費出版してみた」
「………」
「あげる」
「………」
ちなみに、自費出版は出版社によってまちまちだが、委託配本する場合には最低400部必要だ。
つまりヘルマにあげた1部と自分用の1部を除き、まだ398部残っている。
そうして、残りの398部は軍基地の売店で埃をかぶって積まれていたそうな。
【おわれ】