天使のわけまえ


「あぁ……体が軽い……。天使が後押ししているようだ……」
ウイスキー1本だけで天界まで飛べるとは何と手軽なことだろう。
これを教えてくれた何とかとかいう工員には感謝せねばなるまい。
「こっちは禁煙じゃないよな……」
いつものタバコに火をつけようとするが、ライターを持つ手が右に左にふらふら揺れて、
なかなかつけることができない。しまいには嫌になってタバコを投げ捨ててしまった。
この辺はよっぽど気流が乱れているらしい。
「仕方ない、迂回するか」
くるりと進路を変えると、よろよろと足が乱れた。
なるほど、天界の飛び方というのもなかなか難しい。


「あっ、ビューリングさん!」
……おや、ここは天への門か? やけに基地の入口に似ているのが気に障るが。
「もう、こんな時間までどこで飲み歩いてたんですかっ!!
門限はもうとっくに過ぎてるんですよっ!!」
どうやら、天国にも門限ってものがあるらしい。さすがに規律に厳しい。
これなら地獄へいったほうが気が楽かもしれないな。
「ほらっ!はやく部屋に戻って寝てください!! 明日も早いんですからねっ!!」
「はいはい」
言われるままに、ふわふわと揺らめく機体を操って部屋に入る。
それにしてもこの世話係、どこかであったことがあるような気がする。

「もう……。一体どれだけ飲んだらこんな風になるんですか!?」
「ん……、あぁ……」
無理矢理にベッドに座らされて、天使の説教を受ける。
おいおい、天国って奴は思った以上に堅苦しいところだな。
「どこで何をしていようと、いまさら文句はいいませんが、ちゃんと門限までに戻ってきてもらえないと……
その……いろいろと困るといいますか……」
天使の声が段々と弱くなる。
「あの……そんな目で見られると……その……怒りにくいのですが……」
「だめか?」
夢見心地のまま、私は切り返す。
「こんなことは滅多にないだろうからな。よく見ておきたい」
「……いつもいってるのに、聞いてないんですか……」
「天使の声を聞く機会なんて、そうそうないからな……」
「てっ、天使……!?」
「そんな顔もかわいいな」
怒られているばかりも癪なので、少々からかって遊んでみることにした。
さすがに天国なんてところで育っているだけあって、天使というのは純粋でからかいがいがある。
それにしても……。
「お前は知り合いによく似てる。そっくりだ」
「あの……ビューリングさん……?」
「真面目で一生懸命でな。ちょっと泣き虫だが、かわいい奴なんだ……」
「えっと……寝ましょう、ビューリングさん。寝たほうがいいです」
天使が顔を真っ赤にして、ぐいぐいと私を寝かしつけようとする。
そんな様子もあいつ、エルマにそっくりで、ひどく愛おしくかわいらしい。
「本当にそっくりだな……。エルマ・レイヴォネンに」

「ちょっ、ちょっと……!!ビューリングさん!?」
私はすっくと立ち上がると、天使をぎゅっと抱きすくめる。
天使というのも、生身の人間と同じで温かく柔らかい。
「いい匂いがするな」
「……やっ、やめっ……!」
「あいつにそっくりだ……。あいつも天使なのかもな」
「はっ、恥ずかしいこと……言わないでください……っ!!」
じたばたと暴れる天使を強く抱きしめ、白磁のような耳を軽く唇で挟む。
その瞬間、天使の力がふっと抜けた。
触れたい。感じたい。もっと強く、もっとはっきりと。
エルマにそっくりな天使が相手だ。エルマも悪いような気はしないだろう。
私は天使のブラウスに手をかけると、一気に引きちぎった。
「ひっ、ひゃうっ……!!!」


しっとりときめ細やかな肌に、うっすらと浮いた鎖骨。
薄桃色に染まる、やや控えめな二つの頂。
細い腰。ほどよく引き締まった腹部。かわいらしいへそ。
すべてが完璧なバランスで調和していて、まるで一級品の人形のようだ。
「さすがだな……。すごく……きれいだ……」
「やっ……やめてください……。恥ずかしい……」
返事のかわりに唇を押し当てる。首筋、肩、胸、背中……。
同時に私の両手は胸を、腹を、やわやわと撫でる。
舌先に甘く、ちりちりとした味を感じる。
天使の体温と鼓動が手のひらを通して伝わってくる。
「……ビューリングさん……もう、やめっ……」
「かわいいな、エルマ……」
思わず、天使をあいつの名前で呼ぶ。
天使を慰めながら、天使の向こうにあいつを見る。
欲しい。あいつが欲しい。エルマが欲しい……。


「ひゃんっ……!!」
私の左手が天使のズボンの中に潜り込む。
天使のそこは人間のもののように熱く、とろけていた。
「だっ、ダメですっ……!!」
天使が私の手首をつかむが、その手にはあまり力が入っていない。
自由なままの指を軽く動かすと、天使の身体がびくりと跳ねた。
「天使も……人間と同じなんだな……」
ゆるゆると指を動かすと、天使が切なそうに唇を噛んだ。
「声……聞かせてくれ……」
「……他の人に……聞こえちゃ……」
「大丈夫だ。誰もいない」
一体、天国に誰がいる?智子もいない。ハルカもいない。聞かれて困るような相手など、誰もいない。
「お前の声が聞きたい。聞かせてくれ」
指の動きを速めると、動きにあわせて天使の肩と膝がびくびくと震える。
下唇を強くかんで、気をやってしまわぬようにひたすらに耐えている。
そんな様がひどくかわいらしくて、愛おしくてたまらない。
「んっ、はぁっ、くぅん……!」
抑え切れない嬌声が唇の端から溢れる。私はちろりと舌なめずりをして
ほのかに赤く染まった耳たぶを軽く噛んだ。
「はぁっ……!!んんっ……!!」
ひときわ大きく、天使の身体が跳ねる。私と天使はベッドに倒れ込み、そのまま気を失った。


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「うぅ……頭が痛い……」
不愉快なほどまぶしい朝の光に顔を背ける。
鉛の銃弾のように重たいまぶたを無理矢理に押し上げると、ひどく霞んだ視界の向こうに
見慣れた私の部屋があった。
昨晩は確か、基地近くのパブに繰り出して……。
どうやらパブでしたたか飲んだようだが、どうやって基地までたどり着いたものか、まったく記憶がない。
「水が……欲しい……」
やみくもに手を動かすと、何か温かいものに手が当たった。
驚いて目を開けると、そこにはエルマが何かいいたげな顔をして、ベッドに腰掛けていたのであった。
「なんで……お前がここに……?」
私の質問に、エルマはむっとした顔のまま何も答えない。
「それに……そのブラウス……」
「……何にも覚えていないんですかっ!?」
エルマの甲高い怒鳴り声が二日酔いの頭にがんがんと響く。
「……すまん、話があるなら後にしてくれないか……。
あと、水を一杯持ってきてくれ……」
「っ……!!! ビューリングさんはケモノさんですっ!!!!」
ばすんっと一発、枕で思い切り私の顔をひっぱたいたエルマは服の前を押さえたまま立ち上がり、
それこそ基地全体が壊れてしまうのではないかというぐらい乱暴にドアを叩きつけて出て行ってしまった。


その後、1週間にわたってエルマは私に口を聞いてくれなかったが、
誰に聞いてもその理由を教えてくれるものはいなかった。

fin.


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