Breakfast Love
「芳佳ちゃん、サラダの盛りつけ終わったよ」
「ありがとう、リーネちゃん」
――日差しが燦燦と差し込む501基地の朝のキッチン。
芳佳とリーネがいつものように、朝食作りに励んでいた。
「ねぇ芳佳ちゃん、今は何を作ってるの?」
サラダを盛り付けたお皿をテーブルに並べ終わったリーネが、芳佳のほうを見て覗き込むように訊ねる。
「キャベツのお味噌汁だよ。サラダで余っちゃったキャベツを全部使おうと思って」
「わぁ、良い香り」
鍋から漂ってくる味噌汁の良い匂いがリーネの食欲をそそる。
芳佳が作ってくれるまで口にしたことのないスープだったが、今までに飲んだどのスープとも違うコクのある味わいが気に入り、リーネはすっかり味噌汁の虜となっていた。
「美味しそうだなぁ。ねぇ、何か手伝うことはある?」
「大丈夫。あとはキャベツを入れるだけだから」
そう言って芳佳は、キャベツをサクサクと手際よく切っていく。
そんな芳佳のことをリーネは、お菓子を待つ子供のようにじっと見つめる。
「どうかした、リーネちゃん?」
リーネの視線に気づいた芳佳が優しく問いかける。
「あっ、うん。芳佳ちゃんって指綺麗だなぁって思って……」
「へ? な、何言ってるのリーネちゃん!? 痛っ」
リーネの予想外の言葉に動揺した芳佳は、誤って自分の親指を軽く切ってしまった。
「よ、芳佳ちゃん! 大丈夫!?」
リーネは咄嗟に芳佳の親指を咥えて、傷口を吸う。
「わわっ、リ、リーネちゃん!?」
いきなり指を褒められたり、咥えられたりして顔をりんごのように真っ赤にする芳佳。
少しして、ある事に気づいた芳佳は顔を赤らめたまま、リーネに声をかける。
「あの……リーネちゃん?」
「にゃに? 芳佳ひゃん」
芳佳の指を咥えているので、呂律が回らないリーネ。
「もう離していいよ。そこに絆創膏あるから……」
台所に常備されている小さな救急箱を見ながら芳佳が言う。
万が一の時にミーナが用意してくれたものだ。
「あ、ごめん……」
リーネは慌てて芳佳の指から口を離す。
彼女の顔も芳佳と同じくらい真っ赤になっていた。
「へへ、でも嬉しかったよ」
絆創膏を貼り終えた芳佳が、リーネの手をとって微笑む。
「え?」
「ほら、私っていつも治療する側だからこうやって誰かに手当てしてもらう事、あんまりなかったし……」
「手当てって……私、指咥えただけだよ」
「それだって立派な手当てだよ。だって、リーネちゃんは私の出血を早く止めたくて、指を咥えてくれたんでしょ?
恥ずかしかったけど……ありがとう」
「芳佳ちゃん……」
「それから、さっき私の指が綺麗だって言ってくれたけどリーネちゃんの指のほうがずっと綺麗だよ」
「え? そんなことないよ! 芳佳ちゃんの指のほうが綺麗だって」
「あ~。お2人さん、イチャイチャしてるとこ悪いんだけど、朝食はまだかな? 腹減っちゃってさ……」
シャーリーを初め、501の隊員たちが次々と食堂にやって来る。
みんなが来たことで芳佳とリーネはようやく、自分達の世界から抜け出すことができた。
「わっ、ご、ごめんなさい! すぐ用意しま~す」
「全く、キッチンはイチャイチャする場所じゃなくってよ」
慌てて朝食の準備に戻る芳佳たちを見て、ペリーヌが呆れるように呟いた。
――そして、朝食の時間……
「はい。芳佳ちゃん、あ~んして」
「ええ!? 私、自分で食べれるよ」
「遠慮しないで。芳佳ちゃんが怪我したのって私のせいでもあるんだし、今日は私が芳佳ちゃんの腕の代わりになるって決めたんだから」
「で、でも……怪我したの左手の親指だけだから……」
「いいからいいから。はい、あ~ん」
「う、うん。あ、あ~ん……」
最初は周りの目を気にして乗り気ではなかった芳佳も、リーネの可愛らしい仕草と表情には敵わず、口をあーんと開けてリーネが差し出したサラダを食べる。
「うん……リーネちゃんのサラダ、とっても美味しいよ」
「ふふっ、ありがと」
「なぁ、ペリーヌ」
「何かしら、シャーリーさん」
「なんか、朝から熱くないか?」
「そ、そうですわね。特に真正面が……」
芳佳とリーネの席と向かい合う形で座っているシャーリーとペリーヌは、朝から甘過ぎる2人を見せつけられてすでにお腹いっぱいの気分だ。
そんな2人を尻目に芳佳たちは尚も、イチャイチャを続ける。
「ねぇ、今度は私があ~んしていい?」
「えっ、いいの?」
「うん。リーネちゃん、あ~んして」
「あ~ん……うん、芳佳ちゃんのお味噌汁も美味しいよ」
「えへへ、ありがと」
「……なるべく視界に入れないようにしよう」
「そうですわね。それが懸命ですわ」
他の隊員たちもシャーリー達と同様に、2人の好きなようにさせることに決めたらしく、みんな特に芳佳たちを注意することなく自分たちの食事を続けた。
その後2人は、昼食と夕食も同じようにあーんして食べさせあうのだが、それはまた別のお話。
~Fin~