無題


オラーシャなどの寒冷国ではウォッカなどのアルコール度数の高い酒が好まれている。
成人だけの飲み物というわけではなく若者たちにも人気が高く国民的な飲料として広く浸透している。
それは連合軍第501統合戦闘航空団に所属するオラーシャ出身の無口な少女も例外ではなかった。
サーニャ・V・リトヴャク中尉は夜間哨戒から帰った後にウォッカを飲むことが習慣になっている。アルコールでぽかぽかとした状態で気持ちよく眠りに就くのだ。
ナイトウィッチにとっての睡眠は非常に重要な事なので寝ることに彼女は妥協しない。
そもそもの飲酒の始まりの原因は本国からの支援物資の中には毎回ウォッカが詰められていたからなのだが。
今回はどんなのが送られてきたのかな?
そんなことを考えながら送られてきた物資をチェックするのが彼女は好きだった。
というわけで今朝も彼女のお楽しみの時間が始まる。
棚からグラスを取り出してベッド横の机に酒瓶と並ぶように置き自身もベッドに腰掛ける。
あとはグラスに注いで一人で晩酌(朝だが)をするだけなのだが……生憎瓶は空っぽになっていた。
そういえば切れてたんだった、そんなことを半分寝ている頭で思考しながら部屋の隅に置かれた木箱から新しい瓶を取り出す。
その瓶には緑の字で『SPIRYTUS REKTYFIKOWANY』と書かれているのに、可憐な乙女気付くことはなかったが……。

時と場所は変わって朝の食堂。
サーニャを除いた501メンバー全員が集まり朝食を摂っていた、ちなみにメニューは宮藤がロマーニャの市場で買ったスズキを塩焼きにしたシンプルな焼き魚と味噌汁だ。
「やはり扶桑料理は心に染みるな、宮藤!おかわりだ!」
「はい、どうぞ。みなさんもたくさんあるので遠慮せずに食べてくださいね!」
自分の料理を褒められた宮藤は嬉しそうにご飯をよそって坂本に手渡す。
「あれ?エイラさん、サーニャちゃんはどうしたんですか?」
「なに言ってんだオマエ?サーニャは夜間哨戒だったから今は寝てるゾ」
「え!!私うっかりサーニャちゃんの分まで作っちゃいました!!」
「よぉし!それなら私がもらおう!」
坂本がサーニャの分の料理を頂こうと手を伸ばしたその時、食堂のドアが開いた。
噂をすればなんとやら、開いたドアから出てきたのはサーニャ本人だった、パジャマ姿でしかも見るからにアルコールに冒されてはいたが。ちゃんとサーニャだった。
「よおサーニャ!おはよう!」
身なりについては敢えて触れずいつも通りの挨拶を投げかけてみるシャーリー。
「………」
サーニャは何も答えずにエイラの席まで歩いて行き彼女の手を握って席を立たせた。
「オ、オイサーニャ!?一体何のつもりダ!?」
愛しのサーニャに突然手を握られあたふたしながらエイラは問いを投げるがサーニャは何も言わずに食堂からエイラを引っ張って出て行ってしまった。
「どうしたんだろね~、サーニャん」
エーリカ・ハルトマンはニヒヒとまさしく悪魔のような笑みを浮かべて”私は何もしてませんよ”的なオーラを出しながら朝食を終えた。

サーニャの部屋

部屋に入るなりサーニャはエイラ共々ベッドに倒れ込み、サーニャの両腕を掴んで身動き出来ないようにした。
「サ、サーニャ?どどどどどうしたンダ……?」
突然押し倒されたエイラはひどく動揺しながらもいつもとは違うサーニャの異変を感じ取っていた。
(さ、サーニャの息が凄く酒臭いゾ!?いつもとは違う酒を飲んだノカ!?)
「エイラ…可愛い」
(サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!! サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!! サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!! サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!!)
サーニャがアルコールに支配されているのは理解できたがサーニャに押し倒されているという状況のせいで気が動転して「あぅ…ぅぅ///」だとか「さ、さーにゃ…//」だとか「うぅ…ァ///」としか言葉を発せなくなってしまうエイラ。
そんな彼女を見て優しく艶美な笑みをサーニャは顔に浮かべる。
そしてサーニャはパニック状態のエイラに顔を近づけ……唇を重ねた。エイラはさらなるパニックに襲われ体が強張ってしまうのが分かったが、嫌な心地はしなかった。
サーニャはお構いなしにエイラの唇をこじ開け舌を口内に侵入させエイラの口内を蹂躙した。サーニャのキスはアルコールの香りがした。
熱いキスを交わしながら(サーニャの一方的な攻めだが)、サーニャは自らの手をエイラのズボンの中へと……。
「サ、サーニャ!!ストップ!ストップダ!」
ぎりぎりの所でエイラが叫んでサーニャを止めた、サーニャは不思議そうな顔をして
どうしたの、もっとイイことをしましょう、といった目でエイラを見つめた。
「サーニャ!私はサーニャが好きダ!大好きダ!付き合ってクダサイ!!」
彼女が今まで生きてきた内で一番勇気を振り絞った行動だった。エイラは真っ赤になり目をぎゅっとつぶってサーニャの反応を待っていたが……
数秒間の間が空いたあとサーニャがパタリとエイラの上に倒れ落ちた。
「やっと、言ってくれた……、ずっと待ってたのよ?エイラが『好き』って言ってくれるのを……」
かすれたような涙声でエイラを抱きしめるサーニャ。否、すでに彼女はエイラの長髪に顔を埋め子供の如く泣いていた。
一方のエイラは突然押し倒されてキスされるわ思い切って告白してみたら抱きついてくるわで何が起こっているのやら未だによく分からない。
サーニャが酒に飲まれたノカ?酒って怖イナ……。
冷静に今回の一事の感想を脳に浮かべていたエイラだったが不意にサーニャが起き上がり、エイラの目を見つめ返してきた。
うェ、まさかまたじゃないだろウナ……。
先程までのサーニャを思い出し少しギクリとするエイラにサーニャは天使のように言った。
「私もエイラが好き。エイラ、大好き」
「わわわわわ私も好きダゾ!!大好きダゾ!!」
「じゃあ、続きをしましょう?」
ニコッと天使のような微笑みを浮かべながらサーニャは再びエイラのズボンへ向け手を伸ばそうとする。
「ストップ!!ストップ!!サーニャ!!!」
エイラは再びサーニャの手を止めさせて言い放った。
「そそそそういうのはまだ早いと思うナ!!ああああ後2,3年経ってからにしヨウ!!それがイイ!!」
サーニャは思ったよりも幾分か外れた答えに一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔になってエイラに抱きついた。
「じゃあ、それまで我慢するわ」
「そそそうダナ、それがイイ。ウン」
「でも、キスなら問題ないでしょう?」
「あゥ、ウン……キスなら…大丈夫ダ、問題ナイ」
二人は互いの思いを確かめるように優しくキスをした。今の二人にとってはそれだけで十二分に幸せだった。

サーニャの部屋の外

「ちぇ~、せっかくビデオ回してんのにィ~これじゃあ面白くないよー!!」
悪態を吐くのは”黒い悪魔”ことエーリカ・ハルトマン。
二人の思い出を記録に残してやろう、という”親切”でサーニャの部屋の酒をすり替えたのだが、これではちっとも面白くない。いや、ちょっとは面白いけどわざわざ妹から最新のカメラを送って貰ったのにこれでは期待はずれだ。
あのヘタレめ、勇気を出す方向が違うわ!!とレンズの中のエイラを睨みつけるが残念ながらその思いは本人には届かない。
「あーあ、虚しくなってきちゃった、もっかい寝よ」
これ以上張っても事は進展しないだろう、そう決めてハルトマンは自室へ向けて歩き出した。
「今度は少佐に飲ませてみよっかな~♪」
キューピッドのような悪魔のイタズラは更に加速する。

END


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ