Crazy Consultant
501統合戦闘航空団 ロマーニャ基地
陽は沈み月が昇り皆は眠っている丑三つ時の食堂に一つの人影があった。
影の正体はゲルトルート・バルクホルン、カールスラントが誇るエースウィッチなのだが……。
「アレ、大尉?何やってんダ?」
こんな深夜に食堂に誰かいるなんて夢にも思わずに食堂へ足を踏み入れたエイラはぎょっとしてバルクホルンに話しかけた。
「エイラか、気にするな。眠れなくてコーヒーを飲んでいるだけだ」
それ逆効果ダロ……、思ったが言葉には出せなかった。
ぼそぼそとつぶやく大尉の背中はとても空虚で何かが壊れてしまったように見えたからだ。
「ア、 ああそうか、邪魔しちゃったナ」
「そういうお前は何をしているんだ、こんな夜中に」
自分も大尉と同じだよ、そう言ってエイラはココアを淹れてバルクホルンの横に座って一口飲んだ。甘味が体中に染み渡る。
「エイラ、何かあったのか。お姉ちゃんが相談に乗ってやるぞ」
宙を見つめながら唇をほとんど動かさずに呟いたバルクホルンの目にはおよそ生気と思われるものは存在せず何も映っていなかった。
これは何かあったんダナ……、バルクホルンがオカシイことを察したエイラは極力バルクホルンを刺激しないように会話に乗った。
「ちょっとサーニャと喧嘩してサ……サーニャは私のベッドで寝てるから床で寝てたんだけど目が覚めちゃっテ……」
嘘ではない、全部真実だ。そうでなければ深夜に食堂なんかに来たりしない。
「大尉こそどうしたんダ、いつもの大尉らしくないゾ」
「芳佳に抱きついたら『バルクホルンさんベタベタしないでください気持ち悪いです!』と言われてな……」
宮藤のあまりの妹らしさに精神を揺さぶられて暴走したのがすべての原因で、つまりは全て自業自得なわけだが今それを言ってしまうと確実にバルクホルンの精神は崩壊してしまいかねない。
「ソ、そうか……大変なんダナ、大尉も」
エイラのテンプレート的返答に対してバルクホルンは少しだけ表情を輝かせて
「大丈夫だ、カールスラントの誇る世界一のお姉ちゃんである私を甘く見るなよ。私はお姉ちゃんだぞ?これくらいのことでお姉ちゃんとしての私は死なない……ちなみに『お姉ちゃんネヴァーダイ』という言葉を生んだのは私だ、知っていたか?」
(これはどーしよーもネーナァ……)
自ら言葉にしたことが引き金となり自我が壊れ始めたバルクホルン、さすがのエイラもこれはフォローしきれないと決め、とにかく撤退することに決めた。
「じゃあ私は眠くなってきたしそろそろ帰るナ、大尉も元気だせヨ」
ココアを飲み終えて睡魔に再び思考を鈍らされ始めたエイラは椅子から立ち上がって出口へ歩こうとしたが、その動きはバルクホルンの怪力により阻止された。
「そういえばエイラには姉がいるんだったな!?確かアウロラという名前だったか?つまりエイラも私の妹ということだからこれからは私のことを『トゥルーデ姉チャン』と呼ぶんだ、これは上官命令だ!!レッツセイ!『お姉ちゃん!』マイシスター!!」
「オヤスミ大尉!ちゃんと病院いけヨ!!」
崩壊したバルクホルンの手を必至で振り払って食堂に響き渡る叫びを背中で聞きながらエイラは食堂から退散した。
「まったく……大尉はそろそろ病院行きダナ」
半ば本気でそう考えながらもエイラの意識はサーニャの方へ傾いていった。
(仲直りしないとダメだよナ~……何より大尉みたいになりたくないしナ…)
(よーしちょっと本気出すカ!)
一念発起したエイラはサーニャとの仲直り計画を開始するのだった。
同夜 バルクホルンの部屋
「よしかぁ~お姉ちゃんはここにいるぞ~よしかは可愛いなぁ~さすがはわたしの妹だぁ…フヒ……
あっ……おいおいよしかぁ、そんなところを触っちゃダメだぞ?
フヒッ……そういうのはよしかがもっと大人になってから教えてやるからなぁ~……フヒヒ……」
宮藤芳佳抱き枕を抱きしめてベッド(宮藤芳佳シーツ)の上をゴロゴロ転がるバルクホルンの姿がそこにはあった。
同室のエーリカ・ハルトマンは毛布の中で震えながら変わり果てた親友の姿に涙を流した。