thus spake elder sister


 その日の天気は荒れ模様で、夜まで雷が止まない。
 そんな中夜間哨戒に出たエイラとサーニャを見送った後、トゥルーデとエーリカはハンガーから部屋に戻る。
 途中、廊下でエーリカが袖を引っ張る。何か面白いものでも見つけたのか、そのまま袖をくいっと引っ張ると、とある部屋へ向かおうとする。何だ何だと言いながらも付いて行くトゥルーデ。

 そこはミーティングルーム。夕食後、暇を持て余したウィッチ達がくつろいでいた。
 ソファーに寝転び暇そうにトランプ遊びをしていたシャーリーとルッキーニがカールスラントのエース二人に気付き、手招きする。
「いよっ、どうしたよ、二人して。一緒に何かゲームでもするか?」
 シャーリーが何枚かの手札を持ちつつ、二人に声を掛けた。
「いや~何か面白い事有りそうかなって」
 エーリカが答える。
「ねえシャーリー、あたしトランプ遊び飽きた~」
 ルッキーニがカードを放り出す。
「おいおい、まだ少ししかやってないだろ」
「カードゲームか。今は良い」
 一瞥をくれた後、つまらなそうに言ったトゥルーデをちらっと上目遣いに見ると、シャーリーは懐から一本の瓶を取り出した。
「なら、これなんかどうよ?」
 トゥルーデは、差し出されたボトルを手に取った。装飾されたラベルにブリタニア語で何か書かれている。
「ん? これは酒か?」
「そう。あたしの国からやって来た、バーボ……」
「何だ、騙される様な話でも聞かされるのか」
「どうしてそう言う流れに?」
「いや、何でもない。……で?」
「これを景気付けに皆で飲もうじゃないかって話さ」
 シャーリーの台詞を聞いた直後、辺りに素早く目をやり確認するトゥルーデ。
「どうした?」
「もしこの場に少佐が居たら……と思った」
「あー……。今は居ないから大丈夫っしょ」
「ミーナもなんか色々悩んでるみたいだよ」
 エーリカがぼそっと呟き、大尉ふたりは溜め息を付いた。

 めいめいがグラス代わりに用意したカップに、琥珀色の液体が注がれる。
「水で割ると飲みやすいよ。氷が有れば良いんだけどな」
「簡単に水割りで良いだろう」
「まずはストレートで香りを楽しむ……ってね」
「何とも形容し難い匂いだな」
「まー、最初は皆そう言うわな。さあ、乾杯!」
 いつの間にか他のウィッチ達も加わり、さながらちょっとした宴会となった。

 程良く酔いが回ってきた所で、先に転た寝し始めたルッキーニを膝枕しながら、シャーリーがトゥルーデに向かって、不意に言った。
「なあ、あんたにとって『妹』って何だ?」
「何だいきなり。どう言う意味だ」
 片方の眉を上げて、ちらっとシャーリーの表情を伺うトゥルーデ。
「そのまんまさ。妹となると目の色が変わるのは501の皆が知ってる。いや、ひょっとしたら大陸を超えてアフリカまで……」
「アフリカぁ? まさかマルセイユか、あのお喋りめ」
 地名を聞いて即座に個人名を出して罵るトゥルーデを見て、横でくすくす笑うエーリカ。
「ま、ともかくどうなのよ。前にも確か妹について熱く語ってたじゃないか、中佐の前でさ」
 ニヤニヤ顔のシャーリーに対し、トゥルーデはこほんと一つ咳をすると、言葉を選ぶ様に語り始めた。
「ミーナの時のアレはまあ、勢いで言ってしまった事も有るが……つまり何が言いたいかと言うと、皆大切な仲間、つまり家族であると言う事はすなわち私の妹と言う事だ。だからミーナも私の妹だ。そこで一緒に飲んでいる宮藤もリーネも、勿論ペリーヌも私の妹だぞ」
「えっ、わたくしもですの?」
「芳佳ちゃん、私達家族なんだって! もうずっと一緒だよ。だよね?」
「えっ? う、うん……」
 突然名前が出て来て仰天するペリーヌ、言葉の意味を別のものと解釈して芳佳に迫るリーネ。そんな外野をよそにトゥルーデは話を続ける。
「エイラとシャーリー、ルッキーニは生意気な妹と言った感じだな。サーニャはいかにも可憐で儚げな妹と言った感じだが」
「じゃあ少佐は」
「兄か父と錯覚する事も有るが、家族という意味では妹だ」
「何か論理が飛躍してる様な」
「ならトゥルーデ、私も妹?」
 突然のエーリカの問いに、トゥルーデは即答する。
「エーリカは違う。エーリカの妹のウルスラ……ウーシュは妹である事に間違いは無いが」
「へぇ、私、妹じゃないんだ」
「当たり前だろう。見ろエーリカ」
 トゥルーデは横に座るエーリカの手を取った。そして自分の薬指にもある、美しく輝く同じデザインの指輪を見せる。
「お前は私の大切な相棒で、夫婦だ」
「トゥルーデ……」
「今度は惚気かよ~。どうしたんだ堅物、飲み過ぎか?」
 シャーリーにつっこまれ、はっと我に返る。自分の言った事、した事に気付く。
 やおら立ち上がると、エーリカの腕を引っ張った。
「もう寝る」
 それだけ言い残して、残りのウイスキーを一気に呷ると、部屋から出て行った。
「参ったね、あそこまで言われちゃ」
 シャーリーは苦笑いした。

 部屋に戻るなり、そのままベッドに倒れ込む堅物大尉。
「しまった……失言だった」
 ベッドのシーツをぐいと握りしめ、歯がみするトゥルーデ。酔いのせいか恥ずかしさか、頬が真っ赤だ。
「さっきの言った事? 気にすることないよ。てか、今更だと思うよトゥルーデ。気にしない」
「私が気にするんだ」
「良いじゃない、私の素敵な旦那様? それともお嫁さん?」
「エーリカ……」
 絡み付く様に抱きついてきたエーリカを受け止めるトゥルーデ。
「お酒のせいってことにする? それとも」
「いや」
 トゥルーデは、エーリカをぎゅっと強く抱き返すと、唇を重ねた。
「これが私の答え、で良いか?」
「キザなんだかおバカなんだか本当に酔っ払ってるのか分からないよ。でもトゥルーデ、可愛い」
 エーリカは微笑むと、愛しの人を優しく抱きしめ、もう一度口吻を交わした。

end


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