無題
満月の夜。
私はミーナ中佐に志願して今日は夜間哨戒に行かせてもらうことになった。もちろんサーニャと。
静かな暗闇の中、はぐれないように手をつないでしばらく飛ぶ。
今日はネウロイも出なくて平和そうだ。といってもワタシはサーニャみたいな広域探索が出来るわけでもないから、なんとなくだけどな。
「…月が綺麗、ダナ」
「うん…。知ってる?エイラ。今、世界中のナイトウィッチ達が月面反射を利用した通信システムを作ろうとしててね、それでお互い月が見えるところなら世界中のどことでも…」
「あっ、それよりさーサーニャ!」
サーニャは1人で夜間哨戒している時に他のナイトウィッチ達と通信しながら飛ぶことが多いからか、通信については普段の大人しさからは想像もつかないほどよく喋る。
…よく通信してQSLカードも交換しあう仲のハイデマリー少佐にちょっとだけ嫉妬してるのはここだけの話だ。
通信についてサーニャのマシンガントークを聞くのが嫌なわけではないけど、今日はもっと別のことについて話すつもりだったので語り出そうとするサーニャを慌てて止めた。
話を遮られたサーニャは怒ってるというより、きょとんとしていた。
「…なぁに、エイラ?…あっ、私喋りすぎちゃったかしら…」
「そ、そうじゃないんダ!」
そうじゃ、ないんだけど…ともごもごと口ごもる。
不自然なワタシの態度にサーニャは不安そうだ。
「あの…、サーニャはっ……この戦争が終わったら、オラーシャにご両親を探しに行くんだろ?」
「うん…。」
それがどうしたの、と不安そうな瞳で問いかけてくるように思えた。
「それで、その探しに行くのにワタシも一緒に行くっていうのは…言ったよナ。
で…、オラーシャに行く前に、スオムスに寄って欲しいんダ!」
「えっ…、スオムスに…?どうして?」
「スオムスで会ってほしい人もいるし…それに、スオムスってすっごい綺麗なんダ!
森があってさ、湖があってさ。夏にはベリーをたくさん摘んでジャムを作るんダ。
そのジャムを紅茶に入れて飲んだっていい。オラーシャではそうするんだろ?
サーニャにも気に入ってもらえると思う!」
サーニャの問いかけには答えになってないけど、ワタシは一気にまくし立てた。
でも本当に言いたいことはこんなことじゃない。
「で…っ、………オラーシャでご両親を見つけたら、わ、ワタシとスオムスに住んでくれないカ!!」
沈黙。
サーニャがどんな表情をしているのか怖くて目をつむったまま開けられない。いつの間にか繋いでいた手も離れていた。
………いつまで経っても返事がない。おそるおそる目を開けてみた。
すると…サーニャが泣いていた。
「さっ、サーニャ!!どっ、どうしたんダ!?どっか痛いのカ!?そ、それとも…泣くほど嫌だった…のか…?」
焦ってサーニャの周りをぐるぐる飛んだが泣き止む気配がない。
「さ、サーニャァ……ごめん……」
こっちまで悲しくなってきて、しょんぼりしながらサーニャに謝る。
「ちがっ、違うの……嬉しくて…」
「えっ?」
「私、嬉しい…!私も…、エイラとずっと一緒にいたいって…思ってたから…。」
「ほ、本当かサーニャ?」
「本当よ、エイラ。こちらこそ、私とずっと…ずっと一緒にいてください…!」
「や……やったあああぁぁぁ!!」
ワタシは嬉しくて嬉しくてつい叫んでしまった。
まさかサーニャも同じ気持ちでいてくれたなんて思ってもみなかったから。
「ありがとう、サーニャ。ワタシ、サーニャを幸せにするように頑張るから!」
そう言ってワタシはサーニャの左手をとって、薬指にそっと口付けをする。
「エ、エイラ…。」
サーニャの顔が真っ赤に染まる。
「まだ今は指輪…買ってあげられないけど、いつか戦争が終わったら必ず買うから。…待っててくれるか?」
「………はい………。」
顔を真っ赤にしたままサーニャは小さな声で答えた。
照れてるサーニャを見たらつられて自分も照れてきてしまう。
ガラにもないことしちゃったからなー…。
あぁ、でもこれだけは言っておかなきゃ。
「そ、そういえばさっき月が綺麗って言ったのは扶桑の言葉でー…」
「知ってるわ、エイラ。」
今度はサーニャがワタシの言葉を遮る。
そしてにっこりと満面の笑みでこう言った。
「私も愛してる、エイラ。」
-END-