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「まったく、年も暮れてもう新年だと言うのに、出撃とは」
「まあまあトゥルーデ。無事片付いたから良かったじゃん」
海上を高高度で飛行するトゥルーデとエーリカ。ネウロイ出現の報を聞き、即出撃即撃墜を果たして帰還の途中である。
新年祝いでうかれていた501のメンバーに緊張が走るもそこは最先任尉官たるトゥルーデ、敵の規模を聞くやエーリカただ一人連れ、すぐさま空へと駆け昇る。皆が出る幕ではない、のんびりしていろと格好付けたが、正直な所、皆が楽しみにしていたせっかくの新年祝いを“敵”に台無しにして欲しくなかった。
それに。
トゥルーデは独りごちた。
(自分には、そう言う祝いの場は……)
「相応しくない、とか思ってるんでしょ」
突然耳元で囁かれ、ぎくりと身を翻すトゥルーデ。エーリカはにししと笑って言葉を続けた。
「トゥルーデも勿体ない性格してるよね。新年祝い、年に一度しか無いんだよ? ならいっそ楽しく祝わないと」
「どこぞのお気楽リベリアンみたいな事を言うな。それに、私は軍人だ。遊びに来てるんじゃない」
「どうしたのトゥルーデ? なんかちょっと昔に戻ったみたい」
ずい、とエーリカに顔を近付けられて思わず仰け反る。
「お前こそ何だハルトマン。新年祝いを私にフイにされて不満か?」
「まあ、それも少しは有るけどさ。それよりも、ね」
指差されて戸惑うカールスラントの堅物エース。
「な、何が言いたい」
「じゃあ、こうすれば分かる?」
手を取られ、指を絡められる。そこで、はたと気付く。
(……そうだった。私達は)
「ね? 分かったって顔してる」
エーリカが悪戯っぽく笑う。
今は戦闘の最中、失いたくないので二人を結ぶ指輪はポケットの中に仕舞ってある。だけど、外してもその痕は消える事無く残り、再びそれが戻る事を待ちわびている。つまり……。
「私達だけでも、少しは分かち合おうよ」
「……」
無言のトゥルーデに、エーリカは遥か遠い地上、海の端に見える街の光を見つけ、トゥルーデにほらあれ、と意識を向けさせる。
何処の街か、地名は分からなかったが、ちらちらと瞬く街路の灯りからは、間違い無く新しい年の始まりを祝っている事が見て取れる。
「例えば、あの街もそう。私達が居るから、平和で居られるんだよ」
「お仕着せがましい言い方だな、ハルトマン」
苦笑するトゥルーデ。
「確かにちょっと言い過ぎたかな。でも、事実でしょ? 現にさっき私達倒してきたし」
「まあ、な」
もう一度エーリカはトゥルーデと指を絡ませた。そのままそっと空の上で抱き合う。
街の灯りがより明るくなった。ちらりと腕時計を見る。十二時を過ぎていた。つまりは、新しい年が今まさに始まったと言う事実。
「今年も宜しくね、トゥルーデ」
くっつきそうな程の距離で、とびっきりの笑顔で言われ、流石の堅物大尉も、完敗だとばかりにふっと笑みを零す。
「そうだな。宜しく、エーリカ」
そのまま二人の唇が軽く重なる。
「続きは、帰ってからね」
「帰ったら、皆まだ起きて祝いだの何だのやってるだろう? 大丈夫なのか?」
「それが終わってからだよ。色々楽しんじゃおうよ。付き合って貰うからね、トゥルーデ」
「分かったよ、エーリカ」
「やった。愛してるトゥルーデ」
「私もだ」
もう一度キスを交わす二人。二人の帰るべき“わが家”が遠くに見える。トゥルーデは流れゆく風に髪を揺らしながら、思う。
皆はどんなどんちゃん騒ぎをしているのか……容易に想像出来るが、とりあえずは無事に帰れる事を感謝しないと。
それは、横に居る彼女に対しても。ちらりと愛しの人を見る。視線が合った金髪の少女は、にかっと笑顔を見せた。
「トゥルーデ、やっといつものトゥルーデに戻った」
「何だそれ」
「さあね」
くすくす笑うエーリカ、やれやれと苦笑するトゥルーデ。
二人の「飛翔」は、まだまだ続く。
end