alive III
結局二人して寝過ごした後、遅い朝食を取るカールスラントのエース二人。温かいコーヒーに、ハムと野菜を挟んだ簡単なサンドイッチを食べる。ミーナとハイデマリーは、それぞれ既に任務に就いている様だった。この日は特に出撃も無く、気怠いとも言うべき、珍しく平和な雰囲気が基地内に漂っている。
食事の最中、思い出したかの様にエーリカが呟いた。
「そう言えばさ」
「ん? どうした?」
「夢は夢占いで使われる位に重要、って話もあるよね」
コーヒーを飲んでいたトゥルーデの手が、ぴくりと止まる。じろり、とエーリカを見据える。
「何が言いたい」
「いやーそれってさ、つまりはトゥルーデにとって何かの暗示じゃないかなって」
そう言うと、エーリカはサンドイッチを一切れ、もくっと口にし、もぐもぐと噛み砕く。
「暗示って、何の?」
「私も分からない」
訝しげに聞くトゥルーデに、素っ気なく答えるエーリカ。
「言っておいてそれか」
「これが例えばエイラなら占いに詳しいから何か知ってるかなーとか思ったんだけどね」
数ヶ月前まで501JFWに居た仲間を思い出し、懐かしそうにエーリカが言った。スオムスのエースを思い出したトゥルーデは疑惑の眼差しでエーリカを見て言った。
「あいつはそう言うとこ、結構適当な感じがするが」
「まあねえ」
「そもそも。お前は、最初は夢だから心配するなと言っておいて、今になって何かの暗示とか言い出すとか、一体どう言うつもりだ」
寝直してやっと落ち着いたのに、とぶつくさ言いつつ、もう一切れ、サンドイッチを口にする。さっぱりしたパンにみずみずしい野菜、しっかりした味のハムがなかなか食欲をそそる。
「夢で苦しんでるトゥルーデ見たらさ、何か良い解決法とか無いかなって」
エーリカの弁明を聞いたトゥルーデは、じと目で言った。
「本心は?」
「色々調べたら面白いかなーってね」
さらっと言ってのけたエーリカを見、トゥルーデは思わず声を上げた。
「お前! やっぱり私で遊んでるじゃないか」
「そんな事無いよ。トゥルーデの事、色々知りたいなって」
「今更、私の何を知ろうと言うのか……」
そう呟きかけて、サンドイッチを持つ手が止まる。
「あれぇ? トゥルーデ、顔赤いよ?」
「何でも無い」
「自分で言ってて恥ずかしくなったとか」
「う、うるさい!」
ぱくっとサンドイッチを食べたエーリカは、目の前で恥じらう愛しの人を見て、ふふふと笑った。
「大丈夫だって」
「何が」
「今夜一緒に寝る理由、出来たよね」
意味有りげににやけるエーリカ。
「全く、どこまでも享楽的だな」
「人生は楽しまないとね」
「お前だけ楽しんでも……」
「何言ってるの、トゥルーデも一緒に、だよ?」
当り前の様にさらっと言われ、返す言葉も無いトゥルーデ。
呆れた顔を前に、エーリカは涼しい顔。
続く食事。
暫くして、金髪の天使は、にしし、と笑った。
「また何か悪い事考えてる顔してるぞ」
「酷いなあ。今夜の事考えてただけだって」
「何だかな」
「トゥルーデも、まんざらでもない顔してるし」
「なっ!? そ、そんな事は……」
「お互い様。今更、だよね。私達」
けどね、と言葉を続けるエーリカ。
「だからこそ、楽しいし、嬉しいんだけどね」
そう言ってから、とびきりの笑顔を見せられては、トゥルーデも、ただ苦笑いするしか無かった。
end