meteor shower


 ハイデマリーが苦戦している。その報を受けたトゥルーデとエーリカは急ぎ出撃の準備を行い、暗闇の支配する空へと飛び立った。計器飛行でハイデマリーの交戦ポイントへと急ぐ。
「カールスラント一のナイトウィッチが苦戦する程の相手だ。我々も気を付けないとな」
「そうだね。で、敵のサイズに形状は?」
「……そう言えば、ハイデマリー大尉からの連絡では、そこまでは聞いていない様だが」
 二人はMG42の動作確認を改めて行い、ストライカーユニットのエンジンに魔力を注ぎ込み、力強く加速する。
 エーリカが、何かに気付いた様で、さっきからちらちらと何処かを見ている。
「どうしたハルトマン。何か有ったか」
「うん? 後で話すよ」
「戦う前から気を散らすな。油断大敵だぞ」
「はいはい。そう言えばトゥルーデには……」
「……ん? どうかしたか?」
「何でもない。さっさと行こう」

 接近しているうち、ハイデマリーの交戦ポイントはすぐに判別出来た。時折断続的に放たれる銃弾と曳航弾、漆黒のネウロイから放たれる禍々しいビームの束が、闇夜に時折見える。
「あそこだ。高度を上げて、一気に突っ込んでカタを付ける」
 二丁の銃を構え、戦闘の構えを取るトゥルーデ。二人揃って上昇する。
「了解。おーい、ハイデマリー大尉、助けに来たよー」
 無線で呼び掛けるエーリカ。
『二人共、気を付けて。このネウロイは闇に紛れて、なかなか手強い』
 既に長時間対峙しているハイデマリーは呼吸がやや荒い。掩護しないと危険だと無線越しに分かる。
「大丈夫かハイデマリー大尉? しかしハイデマリー大尉がここまで苦戦するとは相当だな」
 呼び掛けつつ、周囲を見回すトゥルーデ。
「ハイデマリー大尉には姿が見えないの?」
 エーリカは思い出したかの様に問い掛けた。ハイデマリーの固有魔法は夜間視能力。月明かりの無い夜でも、魔導針と合わせてネウロイを容易に捕捉する事が可能な筈であった。
『まるで敵の周辺に靄が掛かったみたいです。恐らく自身から何かの妨害物質的な何かが出ているみたいで、私の固有魔法でも……っ!』
 無線にノイズが走る。ハイデマリーのシールドが一瞬光る。相当の衝撃である事が分かる。
「いかん。ハイデマリー大尉を一刻も早く……」
「あ」
「どうした?」
 エーリカの呟きに、思わず空を見上げるトゥルーデ。
 一瞬、ひゅんと何かが光った。まるで夜空を一瞬だけナイフで裂いた様に輝きを見せ、ぱあっと明るく輝いてから、何事も無かったかの様に静けさが戻る。
「何だ、今のは」
「流星群、かなあ」
「今の時期に流星群など有ったか? 予定変更、まずはハイデマリー大尉と合流だ」
「了解」
 二人は牽制の射撃を行いながらハイデマリーの傍に寄り添った。
「大丈夫かハイデマリー大尉、怪我は」
「何とか。でも残弾僅少」
「三人居れば何とかなるよ」
「数が揃えばと言う問題でも……ん?」
 トゥルーデも気付いた。先程エーリカが言った様に、“流星群”らしき星の輝きが見える。しかも、少しずつ増えている事に。
「どうしましたバルクホルン大尉」
 ハイデマリーは夜空を見上げるトゥルーデの顔色を窺った。
「なあ、ハイデマリー大尉」
「何でしょう」
「ナイトウィッチにこんな事を言うのも何だが……、この空の一瞬の輝き、使えないか?」
 真顔のトゥルーデに、ハイデマリーは控えめな笑顔で答えた。
「奇遇ですね。私も同じ事を考えていました。流星が光る瞬間、僅かにですが、本体が見えるんです」
 トゥルーデは、力強く頷いた。
「なら、我々に指示を頼む。同時に攻撃すれば、或いは」
「天体任せとは、面白い作戦ですね。……行きましょう」
「二人してずるいな。先に見つけたの、私だからね」
 エーリカは面白半分にからかいながら、二人と共に飛行する。時折飛んで来るビームをトゥルーデと一緒に防御しつつ、ハイデマリーを護る。
 三人は編隊を組み、ネウロイと交戦を続ける。夜空を観察していると……時折、流星が重なり、まるで雨の様に降るタイミングが有る。ハイデマリーも魔力を使い、敵の位置を見極めていた。
「バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、良いですか。敵、前方右斜め四度……いえ、五度」
 刹那。
 三人を支援するかの如く、空がぱあっと輝いた。まるでシャワーの様に、流星嵐が到来したのだ。トゥルーデとエーリカには見えずとも、ハイデマリーの瞳には、はっきりとそのシルエットが浮かんだ。
「今です!」
 揃って銃弾を撃ち込んだ先には……確かな手応え。靄の中に紛れていたネウロイが金属的な断末魔を上げ、爆発した。すぐに靄も晴れ、辺りはネウロイの遺した塵が舞った。
 その上空から、降り注ぐ流星群。

「凄いね。こんなに流星見えるなんて」
 エーリカはさっさと銃を担ぐと、後ろ手に腕を回し、空を見上げた。
「今回は、助かりました。二人の掩護が無ければどうなっていたか」
「いや。強敵を相手にたった一人で持ち堪えたハイデマリー大尉があればこその武勲だ。流石はエースのナイトウィッチだ」
 謙遜し合う二人の大尉。
「もう、カタイんだからトゥルーデも、ハイデマリー大尉も。ほら」
 エーリカはトゥルーデとハイデマリーの肩を掴むと、ぐいと引っ張り空へと顔を向けさせる。
「え?」
「おい何するんだ」
「多分、あそこから飛んで来るんだと思う」
 エーリカが指す方向から、あちこちへと流星が煌めく。
「放射点、ですね。流星群は放射点から色々な方向へと輝くんです」
「博識だな、ハイデマリー大尉」
「いえ、本で読んだだけですから」
 少し会話している間でも、流星群はその勢いを強め、三人を明るく輝かす。
「それにしても凄い数だ……こんな星空は、今まで見た事が無い」
 トゥルーデは、しばし見とれた。
「私もです」
「私もー」
 ハイデマリーとエーリカが揃って相槌を打つ。
「ミーナもこの空、見えているだろうか」
 ぽつりと呟いたトゥルーデ。耳元にセットした無線に、すぐに返事があった。
『基地からも綺麗に見えているわよ。みんなお疲れ様。無事で良かったわ』

「ねえ、もう少し見ていたいな」
 エーリカはトゥルーデの肩を抱き寄せ、悪戯っぽく笑った。
「我々は流星群の見物に来たんじゃないんだぞ」
「でも、もう少しだけ、“観察”したい気持ちは有ります」
 ハイデマリーも微笑んだ。
「ほら、トゥルーデ」
 エーリカは二対一だといわんばかりにトゥルーデの腕をぐいと掴む。
「ああもう、分かった。だから引っ張るなハルトマン」
 頭上に煌めく光のシャワーは、三人を祝福するかのよう。
 三人はゆっくりと漂うかの様に空を浮かび、夜空の輝きに酔いしれた。

end



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