deep red


「珍しい食材? 一体、何だ?」
 扶桑から届いた荷物。その幾つかを芳佳と美緒が取り分けせっせと梱包を解き、いそいそと厨房へ運ぶ姿を見、トゥルーデは首を傾げた。
 それから一日、芳佳は厨房に掛かりっきりで……たまにリーネが手伝っていた様だ……翌日になってもまだ厨房で作業を続けていた。そんな彼女を見て、トゥルーデは一体何が起きているのか、と疑念を抱く。
「さあね~。気になる?」
 横を歩いていたエーリカに脇をつつかれ、うーん、と唸った後感想を呟く。
「まあ……またこの前の肝油みたいにきついのは勘弁して貰いたいが」
「じゃあ、ちょっと様子、見に行こうか」
「いや、扶桑の食べ物は扶桑人に任せた方が良い」
「珍しく乗り気じゃないね、トゥルーデ。肝油でりた?」
「懲りたと言うよりも……いや、何でもない」
「じゃあ行こうよ」
 結局エーリカに袖を引っ張られ、厨房へと向かった。

 厨房の中は湯気に満ちていた。
「何だこの大量の水蒸気は? 何が有った?」
「おお、バルクホルンとハルトマンか」
 腕組みして様子を見ていた美緒が二人に気付き、顔を向けた。
「やっほー。遊びに来たよ」
 エーリカは手を振ると、のんびり厨房を眺めている。
「少佐。これは一体?」
 トゥルーデは美緒に問うた。
「赤飯を蒸している」
「赤飯?」
「あ、バルクホルンさん」
 蒸し器の前で火加減を見ていた芳佳もトゥルーデ達に気付いて、姿を見せた。
「宮藤、お前昨日から何をやっているんだ? そんなに時間の掛かる食材、というか料理なのか」
「はい。お赤飯を作るには、時間が掛かるんです」
「そうだぞバルクホルン。昨日から餅米を漬け込み、小豆を下茹でして……まあ、私は横で見ていただけだがな」
 豪快に笑いながら、美緒は説明した。
「はあ……」
「ミーナとペリーヌも先程様子を見に来ていたぞ。リーネも時々宮藤を手伝っている。実に有り難いな」
「そうか、なるほど」
 説明を受け、少々引っ掛かる部分を感じたトゥルーデは、素直に疑問をぶつけてみた。
「しかし、何故にそんなに手間の掛かる料理を? 扶桑ではこれが当たり前なのか?」
 芳佳は火加減をもう一度確認すると、トゥルーデに顔を向けて説明した。
「お赤飯は、扶桑ではおめでたい席には欠かせない料理なんです。あと栄養もあって腹持ちも良いので、海軍でも活用していますよ」
「ほほう。そういうものなのか」
 少しほっとした表情のトゥルーデを見て、美緒はまた笑った。
「安心しろ、味は悪くないぞ! 是非とも食べて貰いたいものだな!」
「あ、もう出来ますよ。坂本さん、少し味見してもらえます?」
「ご苦労、宮藤! 戴くとしよう」
 大きな蒸し器から、蒸し布ごとどっさりと湯気の立つ塊が取り出され……ゆうに501の人数分は有りそうだ……、芳佳は慣れた手つきでおひつに移すと、赤飯をお椀によそい、箸と共に美緒に手渡した。
「では早速」
 美緒は頷いて箸を取った。
 トゥルーデにとって、赤飯は初めて見るものだった。米に豆が混ざっているが、何と言ってもピンクにも見える不思議な色をしているのが気になる。色使いから、扶桑の米菓子か? とも思う。
 一口二口、ぱくっと食べた美緒はひとつ頷いた。
「流石だ宮藤! 美味いぞ! よく頑張ったな。皆も喜ぶぞ」
「ありがとうございます! あ、良かったらバルクホルンさんとハルトマンさんも食べます?」
「夕食で出るのだろう? なら……」
「出来たても美味しいですよ?」
「貰おうよ、トゥルーデ」
 エーリカに促される。
「まあ、少しなら」
「はい、どうぞ」

 二人にもお椀が渡される。トゥルーデはてっきり普通の米と思っていたが、箸でつまんだ瞬間、粘度、いや硬さが違う事に気付く。怪訝な表情のまま口にする。粘り気と硬さも、普段出される白米と全く異なる。豆は小さめで、特徴的な色味だ。味は……想像していたものと違う。
「なるほど。これが扶桑の」
 不思議そうな顔をして、一口、二口と食べるトゥルーデ。
「へー。変わってるね。いつも食べてる白いご飯と違う」
 エーリカが素直な感想を口にする。
「まあ、初めて食べる時はそうなるかもな。ああ、胡麻塩を掛けると良いのだがな。有るか、宮藤?」
「勿論です坂本さん。はい、お二人共、どうぞ」
 既に用意してある辺り手際が良い。胡麻塩をぱらぱらと掛けられると、ほのかな塩分がまた風味を引き立たせる。
「ほう。これはまた……」
 改めて口にして、頷くトゥルーデ。それを見た美緒は頷き、芳佳にご苦労、と改めて声を掛けた。
 味見を終えたトゥルーデは芳佳に礼を言ってお椀とお箸を返す。エーリカはおかわりしたい様子だったがトゥルーデが止めた。

「しかし、何故に今日、赤飯を? 今日は特に何かを祝う日ではないと思ったのだが」
 味見を終えて、美味しかったと芳佳に感想を言った後、またも浮かんだ素朴な疑問を呟くトゥルーデ。
「それは、久々に扶桑から様々な物資が届いたからな。その祝い……、と言う事では駄目か?」
 美緒は珍しく、少し言い訳めいた口調で答えた。
「坂本さんが久々に食べたいって言うので作りました」
 しれっと言う芳佳に、おいこら、と少しばかり顔を赤らめて小言を言う美緒。
「なるほど、まあ、良いんじゃないか。少佐も宮藤も。確かに補給はめでたい事だし」
 トゥルーデはそんな二人のやり取りを見て、くすっと笑い、二人に言った。
「ねえトゥルーデ」
 エーリカが腕を絡めて、トゥルーデに聞いてきた。
「ん? どうしたハルトマン」
「私達もお祝いする時に、これ作って貰おうよ」
「何故に?」
「んー。何となく? 色が綺麗だから? じゃダメかな?」
「私に聞かれても困る。第一、作るの大変だから迷惑だろうに」
 話を聞いていた芳佳は、二人を見て聞いた。
「お二人共、何かお祝い事でもあったんですか? ご希望と有ればいつでも」
「まあ、毎日がお祝いだよね。私達って」
「何だそれ」
 二人の会話を聞いていた芳佳は、意味がよく飲み込めないながらも、頷いた。
「? 分かりました。またすぐお作りします。まずは今晩お出ししますから」
「ありがとね、ミヤフジ」
 ウインクして喜ぶエーリカを前に、トゥルーデは想わず名前で聞き返してしまう。
「おい、エーリカ良いのかそんな簡単に頼んで」
「だって、そうだし。違う?」
「いやまあ、お前が言うなら……」
「お前達も、蒸し上がりの赤飯みたいに熱々だな!」
 カールスラントのエース二人を見ていた美緒は、腕組みして大いに笑った。

end



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