sleepiness


 哨戒に出る者、訓練する者、料理当番を任される者、デスクワークをこなす者……そうした隊員達の活動と喧噪とは少し離れた場所、つまり自室に籠もる二人が居た。夜間哨戒を専門とするサーニャと、彼女の大切なひと、エイラであった。部屋は相変わらず分厚いカーテンに仕切られ、外からの眩しい陽射しが入る事は無い。本が読める程度の僅かな灯りを付けて、二人はベッドの上で本を読んだり、寝しなのホットミルクを飲んだり、少々のお喋りを楽しむ。

「ねえ、エイラ」
 その日のサーニャは、文庫化された本を何頁かめくっていたが、ふうと息をつくと、傍らでタロットを適当に弄っていたエイラを呼んだ。
「ん? どしたサーニャ?」
 手元のタロットを慣れた手つきでさばくエイラ。
「どうしてエイラはエイラなの?」
 その質問に、エイラはサーニャの手元をちらっと見て答えた。
「何かの文学でも読んだのカ? どっかで聞いたセリフダナ」
「気になったから……」
 サーニャは抱き枕をぎゅっと抱きしめ、答えを待っていた。
 エイラは気怠そうにタロットを一枚めくると、カードをちらっと見て戻した。そうして少し考えた後、呟いた。
「そうだな。私はどうなっても、何があっても私ダヨ。敵と戦ってる時も。サーニャと一緒に居る時も。私が一人でサーニャの夜間哨戒の帰りを待ってる時も。誰が何と言おうが、私は私ナンダ」
 サーニャはじっとエイラを見ていた。
「こういう答えじゃダメ?」
 少し呼吸を置いてから、サーニャは微笑んだ。
「ううん。エイラらしいなって」
「ナンダヨー、聞かれたから真面目に答えたのに」
「だって。いつもエイラってタロットで手元や言う事誤魔化したりするでしょ?」
「そ、そんな事は無いゾ?」
「嘘」
「うう……」
 気まずい沈黙がしばし。
「でもね、エイラ」
 サーニャは愛しの人の名を呼んだ。
「エイラが今話してくれたこと。とっても嬉しい。私の質問に答えてくれたから」
「な、ナンダヨもう。ほら、今夜も夜間哨戒有るから寝ないと」
 照れ隠しか、横になったサーニャに、そっと毛布を掛けてあげるエイラ。
「うん。ねえ、エイラ……」
 サーニャは少し体を動かすと、耳元でエイラに何か一言、呟いた。
 それを聞いたエイラは顔を真っ赤にして毛布を頭から被った。

end


Ⅱ:1674
Ⅲ:1675

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