as your elder sister
それは、とある激戦地から遠く離れたもうひとつの激戦地、ブリタニア海岸沿いでの出来事。
基地のテラスから、ドーバー海峡を抜けた北海の方を眺め、腕組みしつつトゥルーデは言った。
「なあ、ハルトマン」
「どうしたのさ、トゥルーデ」
「502の皆は元気だろうか」
堅物大尉の問いに、テラスの手摺に肘をつきつつ、適当に受け答えするエーリカ。
「元気っしょ。この前もラル隊長と先生と伯爵から手紙来たじゃん。新聞でこっちの話が載ってるとか、色々書いてあった」
「そうだったな」
「私達、有名人らしいよ」
「否定はしないが……私達ばかり目立ってもな。それに、気になるんだ」
「? 502の皆なら……」
「噂で聞いたぞ。502に有望なウィッチが配属されるとか言う」
相棒の口調に熱がこもりつつある事にはあえてつっこまないエーリカ。ぼそっと呟く。
「トゥルーデにしては耳が早いね」
「そ れ だ !」
「ええ~?」
面倒臭そうにトゥルーデの顔を見る。また何かに目覚めたか、発作を起こしたかの様な雰囲気を察して幻滅するエーリカ。
「姉妹が来るそうじゃないか。是非お姉さんと話をしたい」
「何でそっち」
「妹の素晴らしさをどれだけ承知しているか、同じ姉の立場として伺いたいものだ」
「伺ってどうするの」
「私にもクリスと言う可愛い妹が居る。502に配属される姉妹ウィッチはよく知らないが、ここは腹を割って話し合ってみたいものだ」
「話して何になるの」
「そして妹さんにも会ってみたい。出来れば私の妹にもなってくれないだろうか」
「トゥルーデ、頭大丈夫?」
「ウチ(501)には私の『妹』と呼ぶに相応しい隊員が何人も居る。実に幸せなことだ。しかし、他の部隊にもそう言うウィッチが居るなら話はまた別だ」
熱っぽく語る“お姉ちゃん”を前に、エーリカは呆れ顔で答えた。
「なら会ってくれば?」
「良いのか?」
目を輝かせたトゥルーデ。任務を放り出して本気でここを飛び出しかねない勢いだ。
「ダメに決まってるでしょ。ミーナに怒られるよ」
「そうか、……そうだよな」
「そこでしょげられても」
「うーむ、どうにかしてコンタクトを取りたいが、どうして良いか分からない」
「こだわるね、トゥルーデ。そんなに気になるなら手紙でも書けば?」
「手紙か。しかしそこまですると馬鹿だと思われるような」
「自覚あるじゃん」
「うっ……ハルトマン、お前がまさか常識人ぶるとは」
「少なくとも妹に関してはねー。トゥルーデ、本当、しっかりしてよ。そんなんじゃ、クリスも不安になるよ?」
ウミネコの鳴き声が近くで聞こえる。鳥達にもからかわれている様に聞こえて、トゥルーデは手摺に手を置き、恥じた。
「す、すまない。ついカーッとなって」
「ま、いいんだけどね」
諦め顔のエーリカ。らしくなく顔を赤くするトゥルーデ。
海からの冷たい風が二人の頬を撫でる。
「しかし」
改めて海の向こうを見るトゥルーデ。
「502は戦力的に大丈夫だろうか?」
エーリカはちらっとトゥルーデの横顔を見た。先程までとはうって変わって、軍人としての険しい顔立ちであった。
「我々も、他に割ける程戦力の余裕は無い。だが、同胞として、同じ戦友として、同じウィッチとして心配だ。向こうが」
エーリカは頷いて、手摺に手を置くトゥルーデにそっと手を重ねた。
「言えてる」
海鳥の鳴き声が時折響き、波打ち際の音が寂しげに聞こえる。二人はそのまま、じっと海の向こうを見た。
刹那。
けたたましくサイレンが基地に鳴り響く。敵の来襲を告げるその音に、二人は顔を上げ、表情を硬くする。
「我々は、我々に出来る事をしよう。行くぞハルトマン」
「了解」
二人は揃って掛け出した。
end