wish


 ハンガーの隅で、ペンを片手にきゅっきゅと何かを描くニパ。傍らでそれを見るサーシャ。腕組みしつつ手から指が唇に微かに触れているが、癖なのかたまたまなのかは本人にも分からない。
「あの時はごめんなさい」
 こそっと、呟くサーシャ。
「こっちこそ、説明不足で、誤解させちゃって……」
 苦笑いするニパ。
「私が早とちりしたせい。でも」
 サーシャの言葉が止まる。ペンを持つ手も止まり、振り返るニパ。
「?」
「あれは悪戯書きかと思ったわ。てんとう虫にしては、その」
「悪かったね。ワタシは絵がヘタだから。……ひどい、笑う事無いじゃないか」
 思い出して、ふふっと笑うサーシャをなじるニパ。けれど本気で怒っている風ではなかった。
「ごめんなさい。ても、あんな絵でも、貴女が必死に書いてたと思うと」
 サーシャは尚も笑った。目尻に少し涙が滲む。
「他の、絵の上手い人に頼む?」
「それはダメです」
 即答するサーシャに、理由を聞くニパ。少し間をおいて、サーシャは目を逸らして、ぼそっと呟いた。
「描いた人の思いが、伝わらないから。残らないから」
 そのことばが何を意味しているか、ニパは一瞬分からなかったが、サーシャの表情を見て、悟った。何故かサーシャの恥じらいが、自分にも伝染したみたいで、目を合わせられない。
「だから、もう一度、描いてくれますか? 出来ればもう少し上達してるともっと嬉しいけど」
「描きますよ。でもワタシ、絵心無いから我慢してくださいよ」
「冗談ですよ。分かってます。気持ちだけでも十分だから」
 サーシャは柔らかな微笑みでニパに応えた。

 二人のストライカーユニットには、それぞれお互いの描いた、祈りと願いのサインが隠されている。それを知るのは二人の秘密。


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