thanksgiving


 サトゥルヌス祭が無事行われ、盛り上がる502の面々。貴重な物資を送り届けたエイラとサーニャもその輪の中でもてなされた。
「本当、助かりました。お礼を言わせてください」
「いやーそんなたいした事は~」
 サーシャに言われてにやけるエイラ。
「でも、本当に大変だったんですね。物資を無事届けられて良かった」
 サーニャはエイラの横で周囲の様子を見ながら、話を聞いていた。
「ええ。少し前に、厄介なネウロイが出現して、貯蔵庫や重要施設をやられたの。暫くの間、食事も満足に出来なかったわ」
 エディータが忌々しげに呟く。
「え! それマズイじゃないか」
「問題無い。次の補給実施に向けて、既に手は打ってある」
 ラルが澄ました顔で答えた。
「ひとまずは、サトゥルヌス祭が無事出来ただけでも」
 サーシャの言葉を聞いて頷くエイラ。
「なるほど。ま、 スオムス ウチ も結構厳しいけど、やっぱり放っておけないからな~」
 そう答えつつ、ちらっと昔の相棒を見る。
 ニパの相手は扶桑のウィッチ達だろうか? 楽しげに会話してる。一人は体躯は小さいが気性の荒そうなウィッチ、もうひとりは……見た事も聞いた事もないウィッチだ。

 エイラはするっと立ち話の輪を離れ、ニパの横に立った。
「おいニパ。彼女達、扶桑の?」
「あ、イッル。紹介するよ。こっちはカンノ」
 話を振られた直枝は食べかけの料理を頬張りながら片手を上げて挨拶した。
「おう、オレは管野直枝、宜しく。今回は助かったぜ。久々に旨いメシが食えた」
「いやーそれ程でも。で、こっちの子は?」
「ひかりって言うんだ。この前、テストに合格して502に入ったんだ」
 紹介されて、改めてお辞儀するひかり。
「はじめまして。雁淵ひかりです。宜しくお願いします」
「私はエイラ・イルマタル・ユーティライネン。ついこの前まで501に居て今はスオムス軍に所属してるゾ。んで雁淵、テストって何?」
「それはまあ、色々有って」
「ニパ、何でお前が言い淀むんだよ。普通、JFWって実力のあるウィッチが各国から送られるんじゃないのか?」
「本当はお姉ちゃんが来るはずだったんですけど、あっ、私のお姉ちゃんは凄いんです。扶桑で映画の主人公になる位凄くて、固有魔法も……」
「お姉さんの話はいいよ。で、何でここに?」
「お姉ちゃん、ここに来る直前で、ネウロイと戦って大けがしちゃって。私が代わりにって、無理を言ってお願いしたんです」
「そっか。お姉さん早く良くなると良いな。でも、それでテスト? 何したの?」
「はい。あそこの塔をてっぺんまで、魔法力使って両手だけで登りました」
「ぅえっ……本当に?」
「はい」
「凄い根性だな」
「ありがとうございます。でも、あの時管野さんの応援がなかったら、私ここに居られたかどうか」
「べ、別にオレは何もしてねえぞ」
「へー。『扶桑のウィッチは熱い』って、 502 こっち でもそうなのか」
「それ、どう言う意味だ」
「501にも妙に気合に入った扶桑のウィッチが居てさー。てか、同郷のよしみで知ってるんじゃないのか?」
 エイラの問いかけに、直枝は前に読んだ新聞記事を思い出して頷いた。
「まあ、な」
「管野さん、初対面の相手を威嚇しちゃダメですよ」
「んだと? 誰がんな事した!?」
「ほら、今もしてるじゃないですか~」

 一方でエイラの抜けたテーブルでは、サーシャとサーニャが同郷同士と言う事で、しみじみと話をしていた。
「そう。離ればなれになったご家族を捜して……大変ね」
「はい。なかなか手がかりが見つからなくて。エイラに無理を言って、一緒に各地を巡っているのですけど」
「私の家族も遠くに疎開してるけど。貴女のご家族も、無事見つかると良いですね」
「ありがとうございます」
「ユーティライネン少尉はスオムス出身と聞いてますから、もしかしたらこの周辺の地理にも詳しいかも知れませんね。そう言えば、 502 うち にもスオムス出身のウィッチが居ます。まあ、問題児ですけど」
「問題児……まさか、軍紀違反とか?」
「そう言うのではなくて。どう言う訳か、戦闘と関係無い事ばかりでストライカーユニットを壊しまくるんです」
「大変なんですね。素行に問題とか」
「本当、不運というか。でも、悪い子じゃないんですよ。人を思いやる心は有って、この前も私のストライカーユニットにテントウムシ……あっ、この話は聞かなかった事に」
「?」
「テントウムシがどうかしたの、サーシャさん?」
 気付けば真横にニパが居た。予想以上の近距離も相まって、顔を真っ赤にするサーシャ。
「さりげなく人の話を立ち聞きしないで!」
「さっきワタシとイッルの事話してたから何かなって」
「イッル? ユーティライネン少尉の事?」
「ワタシとイッルは同じ部隊に所属してたんだ。こう見えてワタシ達……うひゃあ!」
「んー、前より少し大きくなってる気がしないでもないな」
 背後から忍び寄り、仲間の胸を揉みし抱くスオムスのスーパーエース。
「エイラ、ニパさんにいきなり何してるの」
「ちょっとしたスキンシップだって」
 エイラをたしなめるサーニャ、とりあえず感触を確かめて頷くエイラ。様子を見てびっくりするサーシャ。
「離せイッル!」
 ニパが身を翻すよりも早くぱっと手を離したエイラは、ニパの手をぐいと引くと、顔を突き合わせてこそこそと話し始めた。
「それより。あの502のオラーシャの大尉。彼女と何か有ったのか?」
「ふええっ!? な、何が? 何も、その、何も無いよ」
「ほほぅ。私にはそうは見えなかったけどな。ニパも奥手に見えて案外やるなと思ったんだけどなー。違うのか」
 にやけるエイラ。
「イッル酷い!」
「折角の機会なんだし、仲良くなっておいた方が良いと思うけどな。彼女、なかなかの美人じゃないか」
「ほっといてくれ! 別にそう言うんじゃ……」
「ホントかー? せっかくのサトゥルヌス祭なんだし、少し位話しても罰は当たらないぞ。私達もこの衣装だし。話して楽になれ、ホレホレ」
「お祭りとか服とか関係無いじゃん」
「私とニパの仲じゃないか。そうだ、なら私が話してあげようじゃないか。ええっと、ポクルイーシキン大尉?」
「はい?」
 呼ばれて振り返るサーシャを前に、ニパを無理矢理引き合わせて話し始めるエイラ。
「私が言うのも何だけど、ニパは悪い奴じゃないぞ。何だかんだでしょっちゅうストライカーユニット壊してるだろうけど、運が絶望的に無いだけで、腕は確かだぞ」
「トゲのある言い方だなあ」
「はあ……」
 エイラの話を聞いてはいるが、いまいち事情が飲み込めないサーシャ。
「こいつは仲間への思いやりも有るし、まあたまにと言うかしょっちゅうツイてないけど、同じ戦友として……」
「もう良いからイッル! やめて!」
「えー何で。せっかくお前の事話してやろうと思ったのに」
「そう言うイッルはどうなんだよ!? サーニャさんとは仲良くしてるの?」
「そりゃあもう……ってサーニャ?」
「エイラ。あんまり人をからかうの、良くない」
 エイラの背後から、ぴしゃりと叱るサーニャ。エイラは縮こまった。
「ご、ごめんなさい」
「あらあら。二人共、仲が良いのね」
 サーシャがくすっと笑った。
「一緒に旅してますから」
 さらっと答えるサーニャに、何故か動揺を隠せないエイラ。それを見てにやつくニパ。
「何だよ。イッルだってサーニャさんと……」
「ニパさん。久しぶりの再会だからってはしゃぎすぎは良くないですよ」
「は、はい……」
 サーシャに言われ、思わず口ごもるニパ。
 ここでニパはエイラを見た。同じ目で、エイラもニパの事を見ていた。
(やっぱりオラーシャのウィッチってアレだよな)
(わかる)
 アイコンタクトで会話して、にやけるスオムスのウィッチ二人。そんな二人を見て、何故かもやもやするオラーシャの魔女二人。

「やあ、君達が今日の神聖な祭の救世主かい?」
「どちらさまで?」
 問い掛けたエイラに、気の抜けたシャンパンが入ったグラスを片手に現れた長身のウィッチはウィンクしながら声を掛けた。
「はじめまして。僕はヴァルトルート・クルピンスキー。中尉だよ」
「どうも、はじめまして」
 挨拶したサーニャの前に、本能的に立ち塞がるエイラ。理由は分からないが、サーニャを守ると言う防衛意識が働いた。そんなエイラを見てヴァルトルートは笑った。
「大丈夫。誰も取って喰ったりはしないよ。僕はカールスラント出身でね。501にも三人カールスラントのウィッチが居たよね。ええっと確か、エーリカ・ハルトマンと、もうひとり頭の固いシスコン軍人が居たでしょ? その二人とは昔からの付き合いの戦友なんだ」
「へえ。世界は狭いな」
「中でもハルトマンは、僕の可愛い教え子でね」
「中尉は教官だったのか」
「そうだとも。楽しい夜の軍隊“性活”をエンジョイすべく、僕のてk……いてててて! 先生、痛い、痛い! 耳引っ張らないで!」
「こいつの言う事は一言も信じなくて良いですから。どうぞごゆっくり」
 エディータが笑顔のまま、ヴァルトルートの耳をつまみ、引きちぎりそうな勢いで何処かへ連れて行った。
 呆気にとられるエイラとサーニャ。
「ここも十分おかしい奴揃いだな」
 ぽつりと呟いたエイラの言葉に、サーニャは無言で頷いた。

 派手な赤い衣装でやって来た二人は周囲からはやや浮いている様に見えたが、賑やかなサトゥルヌス祭の中ではむしろ救世主的な存在であった。
 エイラは赤い三角の帽子の端を少しいじりながら、サーニャに言った。
「ま、とりあえず無事任務完了で良かったよ。帰ったら例の件、報告しないと」
「そうね。私達の任務はこれまで」
 肩の荷が下りた、とばかりに、ふっと微笑む二人。
「あの、宜しければお料理もっと如何ですか? 頂いた物資で色々作ったんです」
「おいしいですよ! 私なんてもう五杯もおかわりしちゃいましたから」
 二人のもとに、定子とジョゼが来た。
「ありがとう。ここは賑やかでいいとこだな」
 エイラはそう答えた。サーニャも嬉しそうに、後に続いた。

end


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