from 501 for love
それは、ガリア解放後、501が解散しカールスラント出身の三人がサン・トロン基地に駐留している時の話。
「ねえミーナ。伯爵から手紙来たよ」
エーリカは「検閲済」の印が押された一枚の封筒を手にしていた。
「伯爵……?」
「ヴァルトルート・クルピンスキーだ。私達がJG52で一緒に居た頃からの腐れ縁だ。今は502に居ると聞いたが」
トゥルーデが説明する。
「あら。久々のお手紙? 良いじゃない。せっかくだから返事でも書いたら?」
ミーナがくすっと笑うも、エーリカの微妙な表情を見て、あら? と首を傾げる。
「ちょっと気になるんだよね~。ねえ、トゥルーデも、どう思う?」
便箋を渡されたトゥルーデは、つらつらと書き綴られたカールスラント語の言葉を読んだ。季節の挨拶(とても適当であった)に始まり、502に移ってからの激戦続き(描写は大変適当であった)、次々と新しいウィッチが招聘されて活気が出ている事(何故か全員のバストの感触まで仔細に書かれていた)、カールスラントの皆は大変元気であること……等。
「何だ、あいつは相変わらずだな。……って、これは?」
トゥルーデは気になる箇所を見つけた。暗号でもなく、平文でもなく、それでいてヴァルトルート独特の言い回し……つまり有り体に言うなら
「どうやって501はガリアを解放出来たのか」
と言う疑問がさりげなく、小さく綴られていた。
「ミーナ。これは」
途中から一緒になって手紙を読んでいたミーナは、顔を上げてトゥルーデの目を見た。
「そうね。恐らく502は、私達がどうやってガリアのネウロイの巣を破壊したか、その具体的な方法を知りたがっているんだわ」
「でも、その事は最重要機密で、私達もおいそれと話す訳には」
困り顔のトゥルーデ。
「それに、コアの破壊方法がねー。成り行き上と言え、イレギュラー続きだったからね。あれと同じ事、さすがに再現出来ないと思うけどねー」
激戦を振り返り、両手を頭の後ろで組むエーリカ。
「でもクルピンスキー中尉を通じてこう言う手紙をわざわざ私達に送ってくると言う事は……502は喉から手が出る程機密情報を欲しがっているに違いないわ」
ミーナは察すると、502の知った顔を思い出した。特に同郷で、過去に何度かウィッチ(部下)の争奪戦を繰り広げたラルの顔を思い出し……眉間に皺が寄る。
「どうしたミーナ。困った事でも?」
ちょっとした変化を見て取ったトゥルーデは、顔色を窺い心配する。
「ラル少佐と、前にちょっと色々有ってね。あんなに激しく口論したのは珍しい、って思い出して」
「ミーナがラル少佐と口論? 一体何が有ったんだ?」
びっくりするトゥルーデ。思い出したくないとばかりに、ミーナが答える。
「どのウィッチをどこのJFWが獲得するか、色々もめてね。他にもあの人、ウチ(501)の所属ウィッチを無理に引き抜こうとしたり……思い出しただけで胃がキリキリしてきたわ」
「おいおい大丈夫かミーナ」
心配するトゥルーデを見、笑顔を作るミーナ。
「まあ、501が解散した今となっては笑い話よね。解散とは言っても、今もまだ色々あるけれど」
エーリカは再び手にした手紙をひらひらさせながら、ミーナとトゥルーデに聞いた。
「それで、伯爵からの手紙、どうやって返事すればいい?」
ミーナはしばし沈思。トゥルーデもどうすべきか考える。そうして、ミーナはエーリカを見て言った。
「そうね。色々有ったのは確かだけど、あちらも困ってるのだから、私達の得た経験とデータは伝えたい。それが私達の共通の目的に繋がるのだから」
エーリカは喜んで笑った。
「ありがとう。ミーナならそう言うと思った。でも、方法はどうやって? 検閲厳しいのに」
ミーナはさも当然とばかりに言った。
「マイクロフィルムを使います。これに機密文書を焼き付けて、渡せば」
「なるほど」
納得のトゥルーデ。ミーナは最近伝え聞く話を思い出し呟いた。
「確か、最近聞いた話だと、補給が苦しいそうね、502は」
「ああ。只でさえ輸送ルートが限られているからな」
相槌を打つトゥルーデ。ミーナは少し考えた後、“作戦”を立案した。
「ではこうしましょう。怪しまれないよう、年末に行われるサトゥルヌス祭に合わせて、スオムス軍からの物資補給を使いましょう。補給の荷物の中にマイクロフィルムを紛れ込ませます」
「まるでスパイみたいだね」
感心するエーリカ。
「みたい、じゃなくてそう言う事するのよ」
ミーナは苦笑した。
「上層部にバレたら懲罰モノだけど、まあ、仕方ないわよね」
ミーナは、手元に残るガリア解放時の状況に関する資料を集め、基地にある特殊な装置を使ってマイクロフィルムを生成した。検閲でバレないよう、小さな断片に切り分けた。
「これをロケットペンダントの中に入れて、補給物資のお菓子に紛れ込ませましょう」
「お菓子の箱にはちゃんと伯爵宛って書いておかないとね~。伯爵の好きなお菓子って何だったかなー」
呑気に答えるエーリカ。
「クルピンスキーの奴大丈夫か? マイクロフィルムに気付かずに、お菓子と一緒に呑み込んだりしたらコトだぞ」
心配するトゥルーデ。
「それは……相手を信じるしかないわね」
苦笑するミーナ。
サン・トロン基地の中にあっても、やはりミーナは501の司令であった。手回しの速さ、手際の良さは見事である。
「“補給”は万全を期して、スオムス軍に手を回しましょう。確かあちらには今、エイラさんとサーニャさんが居る筈。彼女達に物資補給の護衛を依頼しましょう。彼女達なら、きっとうまくやってくれるわ」
「流石ミーナ。見事な手配だ」
感心するトゥルーデ。
「後でラル少佐から何かリアクションが有れば嬉しいけど……、まあ、ああ言う人だから期待はしないわ。それでも何かしら役に立てば」
「達観してるね、ミーナ」
エーリカが呟く。
「損得ではないから、こう言う事は。困っている同胞を放ってはおけないから」
それから暫く経った、サトゥルヌス祭前の、ある日の事。
スオムス軍のとある基地で、輸送ソリに積み込まれた荷物を確認し、エイラは大仰に指差し点検して声を上げ、MG42を担いだ。
「よぉーし、全ての荷物積み込み完了。サーニャ、準備は?」
「うん。いつでも大丈夫」
フリーガーハマーを担ぎ、サーニャは頷いた。二人の衣装は、祭の時に着る赤い衣装であった。あくまでも表向きは“サトゥルヌス祭の為の補給”であることのアピールの一環だった。
「例のアレも積み込んだし、じゃあ出発しようかー。しかしミーナ中佐から私達に直々のご指名とはビックリダナ」
「大切な物資なんですって。あと色々と」
「確かに。まあ私も、ニパが502でどうなってるか、ちょっと気にはなるし」
「ちょっと……?」
「も、勿論。ちょっとだけダゾ? 多分。……変な意味じゃないからナ?」
「分かってる」
くすっと笑うサーニャ。
「なあサーニャ。知っての通り、向こうは激戦地で、道中、予期せぬネウロイが突発的に出て来るかも知れない。気を抜かずに行こう」
「分かった。エイラとなら大丈夫……だと思う」
「何か有ったら、私はサーニャを守るよ」
「でも、荷物も大事」
「分かってるッテ」
二人は静かに、ゆっくりと離陸した。輸送ソリも、後を追う様に、滑り出した。
目指すは502の本拠地、ペテルブルグ。
end