silver and gold dance


 その日はサーニャ、エイラと共に夜間戦闘に出撃したトゥルーデとエーリカ。当該空域にて不穏な動きが有る、と監視網から情報が上がって来た為だ。ミーナは
「あんまりアテにならないけど……万が一当たりでも困るわね」
 と、夜間戦闘のエース、そして501のダブルエースを揃って出撃させたのだった。

「ああ、今のところ問題無い。通信状況も好調だ。方位1-5-2を高度6000で飛行中。サーニャの魔導針にも反応は無い」
 トゥルーデは辺りを警戒しつつ飛行する。しかし至って真面目なのはトゥルーデのみで、エーリカはサーニャとたわいもないお喋り、エイラはそんな二人を見て妬いたりへこんだり。
「お前達……随分と楽しそうだな。まるでピクニックだな」
 トゥルーデは三人を振り返ると苦々しい顔をする。
「私は全然楽しくナイ!」
 ぷんすかと怒るエイラ。それを見たサーニャはくすっと笑った。エーリカは頭の後ろで手を組み、くるりとロールして見せて
「だって、敵出てこないし」
 と至って気楽。
「ハルトマン! お前はいつもいつも……」
 “相棒”に向かって雷を落とす堅物大尉。他人事みたいにぼんやり見ているエイラは暇そうに呟く。
「まーた始まったヨ」
「エイラ。バルクホルンさんの言う事も尤もだから」
「何だよサーニャ。さっきまで中尉と楽しそうに話してたくせに」
「エイラ。もしかして」
「な、ナンダヨ」
 刹那。
 サーニャの魔導針が反応した。それまでの気怠さは何処へやら、一斉に身構える一同。漆黒の周囲に目をやり、襲撃に備える。
 しかし、サーニャは反応のあった魔導針が、不思議な波長を示す事に奇妙な違和感を覚えていた。いつもなら赤く光る魔導針が……別の色に光っている。
「新手のネウロイか?」
 両手にMG42を構えたトゥルーデがサーニャに聞く。オラーシャの夜戦エースは頭を横に振った。
「ネウロイは周囲には居ません。この反応……不思議なんです。誰かに呼びかけられてるみたいで」
「呼びかけって、誰に?」
「あ、待って……声が聞こえる……」
「声?」
「ねえ、あれ……」
「!?」
 エーリカが指し示す先には、淡い金色に輝く、ネウロイではないが明らかに人類及びその兵器には見えない「何者か」の姿が有った。
「何だあれは」
 トゥルーデは躊躇わず銃口を向けたが、サーニャが制止した。
「待ってください……私に問い掛けてきてます」
「な、なんだって? どう言う事だ」
 状況が分からないトゥルーデは、ひとまず全員にサーニャを守るフォーメーションを指示する。
「『聞きたい事がある』って言ってます……」
「サーニャが質問されてるのか?」
「こんなの見た事ない光景だね」
 エーリカがうーん、と呟く。
「我々とコンタクトを取ろうとしているのか……しかしネウロイではないのに、じゃああの物体は一体何なんだ……司令所、聞こえるか。こちらヴァイス・フュンフ、未知の物体とコンタクトしている……司令所、聞こえるか、応答しろ」
 その時、ごうっと言う謎の風圧を一瞬感じたかと思うと、その場に居る四人全員に、奇妙な……幼な子のそれに聞こえた……口調で、質問が頭の中に「声」として聞こえた。
『どうして、ネウロイはこの世界にいるの?』
「な、なんだ? いきなり謎の声が」
「私も聞こえたゾ。ネウロイの存在の事を聞いてきてるゾ」
「幻聴じゃないんだね」
「それは、昔から『怪異』というかたちで出ている事は知られているけど……今の様な姿形で現れたのは1914年と言われてます」
「サーニャ、真面目に答えてるヨ」
『どんなしゅるいがいるの? あたらしいのみつけたら、なまえつけていい?』
 新たな“質問”に、一同は驚き、狼狽した。
「な、名前だと?」
「ネウロイに名前? 通称で付いてるのは幾つか有るけど……」
「そう言うの、真面目に考えた事無かったかもナア」
「私達が名前を決める事は出来ません。でも、ニックネームで呼ぶこともあるから、新しいしゅるいをみつけたら名付けてみて。あと新しいのが出たらおしえてくれるとうれしいです」
「サーニャがさっきから真面目に答えてるゾ」
「サーにゃん、こう言うところは真面目なんだよね」
「お前達感心してる場合か。司令所と連絡が取れないんだぞ」
 割と呑気なエイラとエーリカ、ひとり動揺を隠せないトゥルーデ。
『うん、みつけてみる。ありがとうございました。さようなら』
「さようなら」
 サーニャがそう言って手を振ると、光っていた物体は数回点滅を繰り返し、しゅっと音速以上の速度でその場から去った。

「あ、居なくなった」
「消えるの早っ!」
「バルクホルンさん、さっきまでの反応、無くなりました。周囲には私達の他、何も居ません」
「な、何だったんだ一体……司令所、こちらヴァイス・フュンフ、応答願う」
『トゥルーデ聞こえる? 一体何が有ったの? さっきから通信が途絶したから掩護を送る手筈を……』
 無線の向こうから、焦りが混じるミーナの声が聞こえた。トゥルーデは周囲に居る三人の顔を見た後、はあとため息をついて言った。
「いや。ネウロイとの戦闘ではなかったよ。今現在も周囲にネウロイの反応はない。掩護は不要だ。これから帰還する」
『トゥルーデ、一体何が有ったの?』
 同じミーナからの無線を聞く三人は、互いの顔を見て、くすっと笑った。
「安心してくれ。一言で言うと、みんな無事だ。話すと長くなるから、帰還してからゆっくり話すよ。それで良いか?」
 心配するミーナは帰還を許可した。トゥルーデは頷くと、三人と共に基地を目指し、Uターンした。遅く出て来た月の光に照らされた四人は、銀色の軌跡を描いて「我が家」へ帰った。

 ひとまずシャワーを浴びてさっぱりした四人は、執務室でミーナと美緒に事の次第を話したが、二人共腑に落ちないと言った表情をしていた。
「ネウロイに化かされていたとかじゃないのか」
 美緒はそう呟いたが、サーニャは頭を振った。
「ネウロイではありませんでした。それに敵意は感じませんでしたし、実際に攻撃も有りませんでした」
「さしずめ、知的好奇心の塊って感じだったナ」
 呑気に答えるエイラ。
「私も、あの場ではどうして良いか分からなかった。ともかく、怪我もなく無事に帰って来れて何よりだったが……」
 トゥルーデの真面目だが要領を得ない回答を聞き、ミーナと美緒は顔を見合わせた。
「『空を飛んでいると、不思議な体験をする事が有る』と聞いた事はあるけど……四人揃ってと言うのも不思議よね」
「トゥルーデ、報告書よろしく~」
「こんな事、どうやって報告書に書けば良いのやら」
「報告を聞いている私達だってそうだぞ。どうすれば良いんだ」
 トゥルーデと美緒は揃ってこめかみに指を当てた。そんな二人を見て、ミーナは苦笑するしかなかった。

「で、こんな明け方にトゥルーデは報告書を書いていると」
「ハルトマン、お前が書けって言ったんじゃないか」
 自室に戻り、机に向かって報告書をまとめるトゥルーデ。エーリカが背後から覗き込んでいる。
 起きた事をありのままに書いたが、意味が分からない。そもそも公式な記録に残して良いのか。不真面目だと上から言われたりしないか心配だ。その前に、これを読んだミーナが頭痛を起こさないかが心配だった。
「しかし、あの場に居た四人だけに声が聞こえると言うのも不思議な体験だったな」
「なんだか子供みたいな口ぶりだったよね」
「そうだな。一体あれは何なのか……分かる筈もない」
「じゃあ、監視網が『怪しい』って言ってた原因はこれ?」
「明日以降何も無ければ多分そうだろうな」
「何だったんだろうねえ」
「全員が答えを知りたがってるだろうが……無理だな」
「トゥルーデ何それ。エイラの口調が移った?」
「そう言うんじゃない。大体ハルトマン、お前は緊張感が足りなかったぞ」
「サーにゃんが危険じゃないって言うから……トゥルーデこそ気張り過ぎ」
「何か有ったらと、最悪の状況を常に考慮するのも」
「はいはい。トゥルーデは真面目過ぎるんだから」
 エーリカはそっと後ろからトゥルーデを抱きしめた。
「報告書、明日の朝までで良いんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、少し休もうよ……私眠いよ」
「そうやってまた私を引きずり込もうとしてるな?」
「だってー」
 トゥルーデの手に、自らの手を重ねるエーリカ。微かにお互いの指輪の感触が交わる。
 エーリカの意図する事はすぐに分かった。
 ふっと苦笑するかの如く息をつくと、わかった、と呟くトゥルーデ。
「今日はまあ……無事帰って来れて良かったよ、フラウ」
「だよね。トゥルーデもおつかれ~」
 エーリカは相棒の腕を引っ張るとそのままずるずるとベッドに寝転がった。一緒に引きずられ、ベッドに入る。
(しかし、こんな日もあるのか。……いや、良いのか、これで?)
 そんな疑問も、いとしの人からキスをされ、そうして安らかな寝息を立てる様子を見ると、氷の如く溶けていく。
「まあ、良いか……」
 トゥルーデはエーリカをそっと抱き寄せ、浅い眠りに誘われた。

end



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