fifth element


 警報が鳴り、ブリーフィングルームで作戦概要を聞き、直ちに編隊を組み出撃。いつものルーチンワークだ。
 トゥルーデは二挺のMG42を構えて飛んでいる。後ろにはぴったりと「相棒」たるエーリカが付いている。
 つつ、とエーリカがトゥルーデの横に並んで声を掛けた。
「トゥルーデ、どうしたのボケっとして」
 少しムッとした感じで答える堅物大尉。
「そんな事は無い。しゃんとしてるぞ」
「そろそろ会敵予想位置だよ?」
「敵居ないよ~」
 後ろからエーリカの声が聞こえた。
「お腹空いた~」
「ん?」
 真横からも声が聞こえる。幻聴では無いな、と思い視線を向けると、そこにはエーリカが居た。
 問題無い。
 真後ろにはエーリカが居た。
 斜め後方にはエーリカが居た。
「んんん????」
 トゥルーデは目を疑った。エーリカが、増えた?
「どうしたのトゥルーデ。私の顔に何か付いてる?」
「ネウロイ倒しに来たんじゃないの?」
「ねえトゥルーデ、お腹空いた~。何かお菓子ちょうだい」
「そろそろ目標ポイントなんだけどなー。敵居ないよ?」
「帰って寝たい~」
「お、おい? 一体どう言う事だ?」
 トゥルーデがざっと見ただけでも、エーリカが五人居る。
「なっ、何故だ!?」
「おかしなトゥルーデ。普通じゃん」
「普通じゃ無いだろう! 何でお前が五人も居るんだ?」
「トゥルーデ、寝惚けてる?」
 もう一度自分の身の回りを見て、困惑しつつ呟く。
「まさか冗談半分にウルスラが混じっていても……いやそれでも双子だから二人だよな」
 混乱しつつある相棒の大尉を前に、好き勝手飛び回る五人のエーリカ。
「見て見てトゥルーデ。私達五倍の戦力だよ?」
「トゥルーデお腹空いた~」
「ネウロイ居ないね?」
「晩ご飯何かな? 今日の食事当番誰だっけ」
「早く帰って寝たい」
 トゥルーデはぐぬぬ、と唸った。
「ハルトマン……。お前ら、五人になっても全然まとまりが無いじゃないか」
「だって私は私だし」
「トゥルーデ、敵居ないなら帰ろうよ~」
「お菓子~お腹減った~」
「あ、ミーナ聞こえてる? そろそろ帰って良い?」
「あー眠いよー」
「うぉぉい! 私にどうしろと言うんだ!」

 はっ、と目が覚める。
 がばっとベッドから身を起こす。
 さっきのは……夢?
 トゥルーデの横ですやすやと眠るエーリカをじっと見る。周囲も念の為確認する。問題無い。エーリカは一人だけだった。
 いや、当たり前の話だ。なら、先程見た光景は一体?
 混乱するトゥルーデに気付いたのか、ふわあ、とあくびをしながらエーリカが起きた。
「どしたの、トゥルーデ?」

 話を聞いたエーリカはくすくすと笑った。
「何で私がそんな増えてるの。トゥルーデ欲張りなんだから」
「それが何故欲張り扱いにされるのかよく解らないんだが」
「私が欲しかったんでしょ、たくさん」
「一人で十分だ」
 答を聞いたエーリカはちょっとむすっとした表情を作る。
「何でよ。まるで厄介者みたいな言い方」
「そうじゃない」
「じゃあ、なんで?」
「言わせる気か……それは、その」
 言葉に詰まるトゥルーデの頬にそっと手を当てたエーリカは、そのままゆっくり口付けを交わす。
 しばしの無音状態。
 唇を離すと、トゥルーデはぼそっと呟いた。
「こ、こう言う事を……フラウ、お前と一緒に居るんだから、何人もいっぺんになんて、愛せない」
「小っ恥ずかしい事さらっと言うんだね、トゥルーデ」
「お前が言えと言ったから!」
「でもまあ、トゥルーデは真面目だもんね。それで良いと思うよ」
「何だその上から目線は」
「まあ良いじゃない。それに、そう言う夢を見るって事は」
「そうだな。フラウ、お前の事を考え過ぎていたのかもな」
 頷くと、トゥルーデはそっとエーリカを抱きしめた。そして呟く。
「誕生日、おめでとう」
「ありがと。最初に祝ってくれて嬉しい」
「当たり前だろう」
 トゥルーデは、エーリカに手を重ね、お揃いの指輪を見せあった。曇り無く輝くその指輪は二人の薬指にしっかりとはまっていて。
「私達、夫婦、ですからね」
 くすっと笑うエーリカ。つられてふっと微笑むトゥルーデ。
「で、起床までもう少しあるけど、どうする?」
「そうだな……って、私を抱き枕にして寝るつもりだな?」
「ばれた?」
「何年一緒に居ると思ってるんだ」
「じゃあ、そう言う事で宜しく」
 エーリカはトゥルーデの胸に顔を埋め、間も無く寝息を立てた。
「まったく……」

 そうだな。お前はお前一人でいい。何故なら、それがフラウ、お前だからだ。

 トゥルーデはそう独りごちると、優しくエーリカの頭を撫で、ゆっくり目を閉じた。

end


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