between the shallow dreams


 それは嫌な夢だった……とだけ、記憶している。
 その日も哨戒任務だったトゥルーデは帰投した際ミーナから日頃の疲れを指摘され、ならばとミーティングルームの片隅で十五分程度の仮眠を取ったのだが、その浅い眠りの中で“何か”を見ていた様だった。
 はっと目を開けると、眼前にはエーリカが居て、悪戯っぽく笑っていた。
「ああ、ハルトマンか。どうした」
「トゥルーデこそどうしたのさ。普段だったら休憩中でも何かしてるでしょ」
 そう言うと、エーリカはトゥルーデの手を取って自分の頬に当てる。トゥルーデも自然な形で受け入れる。
「ミーナに最近色々やり過ぎだと言われてな。少し仮眠でも、と思ったのだが」
「それであんなにうなされてたんだ」
「何故私が悪夢を見ていたと分かる?」
 堅物大尉に聞かれたエーリカは微笑んだ。
「眠りながら眉間に皺寄せてさ。歯を食いしばって低く唸ってたら、そりゃ凄い夢見てるんだろうなって」
「見ていたのか、私を」
「勿論」
 嗚呼、とトゥルーデはため息を漏らす。無様な姿を見られてしまったと言う恥ずかしさ。
「大丈夫。見てたの私だけだから」
 思わず、えっ、と声を上げるトゥルーデ。エーリカはそんな相棒を見て言葉を続けた。
「今はみんな、各自トレーニングに任務に、任務上がりの休憩中。ここには誰も居ないよ」
 辺りを見る。普段賑やかなミーティングルームは珍しくトゥルーデとエーリカの貸し切り状態。
「そ、そうか。皆が来ても邪魔にならない様にと端に居たのだが」
「そんなに気を遣わなくても大丈夫だって。トゥルーデ相変わらずだね」
「やっぱり、部屋に戻って少し--」
 立ち上がりかけたトゥルーデ。彼女の服の裾を引っ張って強引に座らせるエーリカ。
「良いじゃん、ここでも。ミーティングルームのソファーの方が、座り心地良いんだよね」
「いや、寝るにはちゃんとベッドで寝た方が--」
「こんな昼間からガッツリ寝るの? 夜間哨戒でも無いのに? 夜中に目、冴えるよ」
 そう言うと、エーリカは部屋のカーテンをさーっと閉めた。外からの陽が和らぎ、カーテン越しに控えめなオレンジ色の光が降り注ぐ。
「うん。良い雰囲気」
 エーリカは一人頷き、トゥルーデの横に腰掛け、体を相棒に預けた。
「おい、ハルトマン」
「トゥルーデ見てたら私も眠くなって来ちゃった。一緒に寝よ?」
「良いのか、ミーティングルームを独占して」
「たまには良いじゃん。それに、トゥルーデ、また瞼が」
「え……」
 エーリカはトゥルーデの顔をそっとすくうと、瞼にキスをした。
「くすぐったい」
「じゃあ」
 エーリカは改めて、トゥルーデの唇に、自分の唇を重ねた。そっとかわすキスは、優しく、少し長く。ふっと距離を縮め、そっと抱き合う。
「これでどう?」
 エーリカを緩く抱きしめたトゥルーデは、愛しの彼女に問われ、曖昧に答える。
「うん。まあ、その……」
「トゥルーデ、おねむだね。じゃあ、一緒に」
 何処から持って来たのか、ブランケットを二人の全身にふぁさっとかけて、ゆるゆると横になる。
「私と一緒だから、悪い夢は見ないよ」
「本当か?」
「だって、一緒に居るし。ずっとね」
 そう言ってはにかんだエーリカを見て、トゥルーデは思わず微笑んだ。愛しの人を呼ぶ。
「そうだったな、フラウ」
 二人抱き合ったまま、微睡みの中へ。二人を淡く包み込む陽の光はとても優しく神々しく、束の間の平穏を演出する。

(……今の私は、夢の中の私なのか、それとも)

 そんな想いが一瞬頭を過るも、眠気と、服越しに感じるエーリカの温もりを感じるうち、意識が途切れ途切れになり、やがてふと途絶えた。


 それはとても素敵な夢だった、とトゥルーデは記憶している。
 どんな内容だったかは思い出せないが、表現が困難な程、幸福感に満ちた夢だった、と。その事を夕食の時、愛しのひとに伝えると、ふふふ、と笑った。
「ね? 言った通りでしょ?」


end



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