stand by for orders II


「暇だよー」
 エーリカはベッドの上で寝転び、それまで手にしていた本を傍らに置いて嘆いた。相変わらず筋力トレーニングを続けていたトゥルーデは、そんな相棒の様子を見てやれやれと呟いた。
「今は出撃待機中だ」
 トゥルーデの言葉を受けてエーリカが返す。
「だとしても待機時間が長過ぎ」
「もう少し大人しく待てないのか。『待機時間が長いから』と、ミーナがわざわざ自室に戻っても良いと言ってくれなければ私達は--」
「それはそれで嬉しいけどさー」
 エーリカはベッドの枕に顔を埋めた。しばしの無言。一分程経ってからトゥルーデは気付いた。
「ハルトマン。まさか、寝てるんじゃないだろうな?」
 安らかな寝息が答えとなって返って来る。
「寝るな!」
「じゃあトゥルーデも一緒に横になって。そうしたら起きる」
「どう言う理屈だ」
 呆れるトゥルーデに、エーリカは言葉を続ける。
「二人で一緒にくっついてたら、何か有ってもすぐ反応出来る気がする」
「それだと私まで寝てしまうだろうが」
「あれえ? トゥルーデ、まさか私と一緒に寝るつもり?」
「この状況下で眠れるか!」
「じゃあ早く私の隣に来てよ。眠らないんでしょ? 一緒に居ようよ」
 ちょっとむくれた感じのエーリカを前に、トゥルーデは頭を掻いた。
「何か良い様に言いくるめられた気がする」

 その仕草はいつもと変わらず。
 ひとつのベッドで二人一緒になる事は、もう慣れっこだった。
 背を向け横になっている相棒を目にしつつ、トゥルーデは体を滑らせベッドと毛布の間に挟まる。仰向けに寝、天井を見る。
 そうしていると気配を感じたエーリカがこちらを向き、そっと体を抱きしめてきた。そっと、片腕で愛しの人を抱き寄せる。

 特に何かを言い合う訳では無かった。
 普段は愚痴も言えばちょっとした口喧嘩もする二人だが、こう言う時、抱きしめてお互いを感じるだけで、十分だった。
 制服を通して、相手の体の温もりを僅かに感じる。
 にっと、エーリカが笑った。トゥルーデもつられて微笑む。
 これがお互い非番の夜だったらこの先に色々なことが待っているのだが、生憎次の瞬間出撃の命令が下る、と言う可能性も有る。今はこれが限度。

 二人がこうして待っている前、出撃直前の状態でミーティングルームやハンガー内で随分待たされたものだ。しかし時間が経つに連れ状況がどんどん不明瞭になり「ひとまず自室で待機」とミーナが判断すると、やる気を削がれた一同は不完全燃焼の感覚で命令に従った。そしてそのまま待機時間は続き今に至る。
 これも戦いのうち、と言えばそれまでだが、やはり何事にもメリハリが欲しかった。

 いつしかエーリカはトゥルーデの腕の中でうつらうつらとし始めた。
 心得たもので、トゥルーデも無理には起こさず、そっと抱き寄せる。
 相棒はこう見えても国のトップエース、いや世界最強のウィッチなのだ。何が起きてもすぐに対応出来る。勿論、自分も。
 こんな、奇妙なゆとりにも似た感覚が出たのは何故かな、と自分の薬指に収まる指輪をぼんやりと見る。その輝きは衰える事なく、見る者に訴えかける。

 そうして、二人は緊張と眠気と言う、相反した奇妙な時間を共にする。
 いつか来る出撃命令、もしくは出撃解除の指示が出るまで。

end



コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ