flight tracking


 その日も基地は慌ただしかった。訓練、実戦、テスト飛行、書類業務……あらゆる事が一気に降り掛かるのは最前線たる所以か。
 ミーナはデスクワークもそこそこに、先日ウルスラが持ち込んだ試験機のテスト続行を望んだ。
「止めろミーナ! また何か有ったらどうするつもりだ!」
 声を荒げたのは他ならぬトゥルーデ。天から真っ逆さまにネウロイの巣へと墜ちていくミーナの腕を掴み、生還させた、501の戦闘隊長。
「この前の事は済まなかったと思っているわ」
「なら尚更どうして!?」
「もし今後の戦闘で通常のレシプロ機のストライカーが無理なら、選択肢のひとつとして有っても良いでしょう」
「しかし!」
「大丈夫。今回はただのテストだから。ハルトマン中尉にも参加してもらうから大丈夫でしょう」
「ウルスラには私からも言っておくよ」
 横で様子を見ていたエーリカが言った。が、昇進したての少佐殿はどうにも納得出来ない。
「分かった。なら私が至近距離でミーナの様子を見よう。それならどうだ」
「ストライカーユニットの速度的に無理でしょう」
「加速と最高速は付いて行けずとも、何か有った時の保険にはなるだろう」
「私、随分と信用を失ったのね」
 あらあら、とミーナは苦笑した。
 
 その赤く塗られたストライカーユットは立派に磨き上げられ、発進のときを待っていた。
「私はいつでも行けるぞ」
「じゃあ、行きましょうか」
 ミーナはふわりと跳ぶとそのまま両足をストライカーユニットに潜らせる。
 まずはトゥルーデが先行し、ミーナが後追いと言うかたちで次々と離陸する。
「今回はただのテスト飛行なのに、どうしてバルクホルン少佐はあんなに苛立っているのでしょう?」
 計測機器を前にぼそっと呟いた双子の妹の疑問に、姉がさらっと答える。
「ウルスラにはちょっと分かりにくいかもね」
「一応、私もあの戦闘の時、現場に居たのですが」
「まあ、肩組んでた者同士じゃないし」
 双子の姉はそう言うと、空を眺めた。

 途中までは順調、いやむしろ快調だった。ミーナはそう自分に言い聞かせていた。あの時はがむしゃらに飛び続け、結果墜落寸前の憂き目に遭ったが。
 それ程負荷の掛からない筈のテスト飛行ですら、地味につらい。ウィッチとしてのあがりを目前に、魔法力の減退が始まっている事を改めて痛感する。誕生日がそう遠くない彼女も同じ気持ちなのかしら、と、ちらりと後方を追尾するトゥルーデを見る。

 一陣の風が、ミーナを包み、抜けていった。それはよくある上空の乱気流のひとつ。天の悪戯。
 それがミーナに、ずしりと重くのしかかる。
 慌てて飛行姿勢を修正する。したつもりだった。慌てたのがそもそものミスの始まりだった。咳き込む様にジェットストライカーのエーテル噴流が乱れる。急いでスロットルを全開にしてはいけない事をミーナが忘れる訳ではなかった。だが不運は続き、やがて噴流は収まり、ミーナの魔法力を吸い尽くしたストライカー共々、自由落下となる。

 一瞬気を失った気がした。あの時の様に。

 はっとして目を開けると、トゥルーデがミーナを抱きかかえていた。まるで、先日相棒にした様に、お姫様抱っこのかたちを取っていた。

「私は同じ事を二度言いたくないのだが」
 険しい顔で睨みつけるトゥルーデ。また罵声が飛んでくるのかと、思わず身構えるミーナ。
 だが、新しい「少佐」からはすぐに笑みが出た。苦笑と諭しの混じる微笑み。
「私はエイラの様に未来予知は出来ない。だが、状況を想像して予め準備しておく事は出来る」
「それが的中したって事よね。今回もトゥルーデに迷惑掛けたわね」
 ごめんなさい、と謝るミーナに、トゥルーデは顔を向けた。
「色々焦る気持ちは私も一緒だ。だが、無理は良くない」
 そう言うと、小さく、馬鹿野郎、と呟いた。

「さあ、テストは中止だ。まずは戻って食事だ」
 ミーナを抱えたまま、一直線に基地へ戻るトゥルーデ。
「今日の食事当番は誰かしら」
「私だ。ミーナの魔法力が早く回復する様に、栄養のある献立を考えないと」
「まあ、今日は何から何まで頼もしいわね」
「ミーナ程じゃないさ」
 二人は笑いあった。

「だってさ、ウルスラ」
 エーリカは無線で聞いていた二人の会話の感想を、同じく聞いていたウルスラに求めた。
「やっぱり、分かる様でいまいち分かりません」
「ま、ウルスラはそれでいいのかもね……出来れば分かる様になると嬉しいけど、って、あーっ、ミーナ、お姫様抱っこ、ずるーい!」
 エーリカはゆっくり着陸態勢に入ったトゥルーデ達を見つけ、滑走路に走っていった。

end



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