coffee talk


「さあ、出来たぞ。こっちがミーナ、こっちはエーリカのだ」
 簡易ストーブで沸かしたお湯でコーヒーを淹れたトゥルーデは、ミーナとエーリカにマグカップを渡した。
 そこは解放間も無いカールスラントのベルリン。瓦礫の山もまだ完全には片付いていない。作業の合間にと、休憩時間にミーナがこっそり持って来たコーヒー豆をミルでじっくり挽き、トゥルーデはお湯当番。エーリカは近くの青空市に居た露天商から買い付けて来た幾つかのお菓子を即席のテーブルに広げる。
「何だか夢みたいね」
 ミーナはマグカップを手に微笑んだ。
「そうだな」
 トゥルーデも頷く。
「やっぱり本物のコーヒーは美味しいね。でも、ちゃんとしたカフェでお茶したかったなー」
 エーリカはコーヒーを飲みながら、笑顔。
「解放したとは言え、まだ復興は始まったばかりだからな。すぐには無理だ」
 真面目な口調のトゥルーデ。でも表情はどこか穏やかで柔らかだ。
「そうね。でも半分だけど、あの時の約束は叶えたでしょ?」
 ミーナが茶目っ気たっぷりに笑った。トゥルーデは少々むっとした表情で言った。
「あのな、ミーナ。私とエーリカがあの時お前を助けなかったら--」
「はいトゥルーデそこまでー」
 エーリカが割って入る。
「次の約束はね。ベルリンにちゃんとしたカフェが出来たら、みんなでまたお茶しようよ。やっぱりベルリンは良いとこだよね」
 エーリカの言葉に頷くミーナ。
「そうね。その時は必ず」
「おいおい、またそうやって約束の安請け合いか? 不吉だぞ」
「でもトゥルーデは、私に何か有ってもきっと助けてくれるでしょ? 前と同じ様に」
 そうミーナは言うと悪戯っぽく笑った。
「ミーナ、洒落になってないぞ。あの時私がどんな気持ちで居たかわかって--」
「確かに、トゥルーデとエーリカには迷惑を掛けたわ。二人がいなかったらこうして今コーヒーを振る舞う事も出来なかったでしょうね。でも、だからこそ二人を信頼してるのよ?」
 そう言って微笑むとミーナはコーヒーを一口楽しむ。
「何か上手く話をすり替えてないか?」
 訝るトゥルーデ。
「トゥルーデ、文句ばかり言ってないで。せっかくの美味しいコーヒー、冷めちゃうよ」
 コーヒーを飲み、お菓子を食べるエーリカ。一口食べて、びっくりして言った。
「うわ、このお菓子凄く甘いよ。ねえトゥルーデ、怒ってると糖分足りてないって証拠だから、はい、あーん」
「エーリカ、お前って奴は」
「じゃあ私からもはい、あーんして?」
 ミーナもお菓子をつまんでトゥルーデに。
「お前ら……、二人して何なんだ一体」
 文句を言いながら、二人が差し出したお菓子を続けざまに口にする。
「どう? 美味しい?」
 エーリカの問いに答えるトゥルーデ。
「確かにうまい。……でも、まだ大変な状況だろうに、よくこんな見事なお菓子を作れるものだな」
「それが人類の逞しさ、強さの証でもあると思うの」
 ミーナはマグカップを両手で大事そうに持ち、辺りを見回した。
 ちょうど午後の一息と見え、それまであちこちで作業をしていた人々もそれぞれめいめいが暫しの休憩を取っている。

「ベルリンの次は、何処になるんだろうか」
 ぽつりと呟くトゥルーデ。
「さあ。こればっかりは私達だけでは決められないから」
 ミーナも憂いの色が滲む瞳の色で答える。
「まだまだ先は長いよね。……あ、最後のひとついただきっ」
 エーリカが目ざとくお菓子を食べ尽くす。
「私はさっき二人から貰った分しか食べて無いのだが」
 空になった皿を見て思わず呟くトゥルーデ。
「次の楽しみに取っておくと良いよ。約束だよ?」
「どんな約束だ。それに約束したところで、どうせお前が全部食べるんだろう?」
「なんだ、トゥルーデ分かってるじゃん」
「何年一緒にやってきたと思ってるんだ?」
 ミーナは501のウルトラエース同士の会話を聞いて、くすっと笑った。
「ミーナ、何がおかしい?」
「いえ、何だか良いわね、と思って」
「?」
 首を傾げたトゥルーデの袖、微笑むミーナの肩を、エーリカがつつく。
「ねえ二人とも見て、飛行機雲。今の時間帯は航空機飛ぶ予定無い筈だけど。もしかして何処かのウィッチかな?」
 じっと見ていたミーナは少し前の事を思い出して言った。
「前みたいに宮藤さんだったら、今度もみんなで助けに行かないとね」
「流石に今は、それは無いだろう」
 芳佳は基地で料理当番、今は何かを作っている筈だった。しかし問題が有ればすぐに飛んでいくのもまた芳佳。それは皆が分かっている事でもあった。
 三人はマグカップを手にしたまま、一筋の飛行機雲を、そして取り戻した大空を、見る。
 蒼のキャンバスにすーっと描かれた純白のラインが、やがて端からじわじわと消えていく。
 マグカップからほのかに立ち上る湯気が、ゆっくりとなびく。
 祖国の地を踏みしめたウィッチ達を包み込む、束の間の休息がそこにあった。

end



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