go go maniac
「詳しいって、何が?」
休憩時間、控えめな色のお菓子に手を伸ばしたトゥルーデは質問の内容が今ひとつ飲み込めず首を傾げた。
「例えばそうだな、あたしはメカに詳しいだろ? ストライカーユニットの整備や改造とかさ」
質問した当のシャーリーは自分を例に出して同意を求めた。
「まあ、確かにこの前は世話になった」
そう言うとクッキーをもそもそと食べるトゥルーデ。
「あのカリカリにチューンする作業は本当燃えたなあ。もうああ言う機会無いの?」
先日行った、トゥルーデのストライカーのチューニング作業を思い出すシャーリー。
「何度も有ってたまるか」
流石に御免だと言う表情を作る。
そんな二人の会話を端で聞いていたエーリカは、コーヒーをぐびっと飲むと、事も無げに言った。
「つまりは何かの専門家かどうかって話でしょ? なら私はトゥルーデの専門家かな」
「はあ!? いきなり何を言い出すかと思えば」
思わず声を荒げるトゥルーデ。そんな堅物少佐をニヤニヤと眺める自由なリベリアン。
「まあ確かにお前達はそうだよなあ」
「シャーリー、お前まで何て事を言うかと思えば。それに、ハルトマンと一緒にするな」
「じゃあお前は誰の事よく知ってるんだ?」
「待て待て。最初と質問の中身が変わってるぞ」
「あれ? ばれた?」
相変わらずのシャーリーにうんざりしたトゥルーデは、残りの小さなクッキーをひとつ口にするとコーヒーで流し込み席を立った。
「あれ? 怒っちゃったよ?」
ルッキーニが指差すも、シャーリーは大丈夫とばかりに頷いた。
「答は既に出ているから大丈夫だ、問題ない。だろうハルトマン?」
独り残されたカールスラントのウルトラエースは、当然とばかりに頷いて別のカラフルなお菓子を口にした。
「まあねー」
……折角の休憩が台無しだ。いや、いつもの事か。トゥルーデはそんな事を考え、少し早くなってしまった休憩の終わりを惜しむ事も無く、トレーニングの続きに取り組もうと準備を始める。
そこにやって来たのはエーリカ。
「トゥルーデ、忘れ物だよ」
差し出されたのは紙袋に入った何か。開けてみると、先程の休憩で出たサンドイッチが数切れ。
「いや、そんなに腹は減ってない」
「何年一緒に居ると思ってるの? トゥルーデはおやつにサンドイッチが出ると最初か最後に必ず一切れは食べるでしょ。さっき食べてなかったし」
確かにその通りなのだが、今ここで食べるのも気が引けるし、さりとて食べないと言う選択肢も折角持って来てくれた相棒に悪い気がして……。エーリカの顔を見、サンドイッチを見、ふうと息を付いた。
「じゃあ、頂くか」
「だよね。私も半分貰うからさ」
笑顔で横に座るエーリカ。トゥルーデも腰を下ろして、サンドイッチを頬張る。食べながら、エーリカが言った。
「さっきの話だけどさ」
「うん?」
「前にトゥルーデさ、『私と一緒に居る時が一番戦果を挙げられる』みたいな話、した事あったよね?」
「それは--、大分前の話だな」
「それって、やっぱり私の事詳しいって事にならない?」
「何が言いたい?」
「それはほら、やっぱり私達だから?」
珍しく、エーリカが指輪を付けた手をグーパーしてトゥルーデに見せた。控えめに煌めく指輪の輝きがトゥルーデの瞳の奥で瞬く。
「それはまあ。否定はしないが」
「しないんだ」
くすっと笑うエーリカ。
「でも、自分から『○○の専門家です』などと言い出したら、ろくでもない事が起きるフラグにしか思えないんだがな」
やんわりと己なりの答を探して言葉にするトゥルーデ。
「人と場合によってはそうかもね」
エーリカはそう言うと、トゥルーデの手を取った。その手にも、エーリカと同じ指輪があった。
「『専門家』かどうかはともかく、私はトゥルーデの事もっと良く知りたいと思うよ? トゥルーデは?」
「言わせる気か?」
「言葉ではっきり示してくれないとね」
「やれやれ」
エーリカはさっきからトゥルーデの手を握ったまま。そうして更に指を絡めてきた。だがトゥルーデは特に嫌がる素振りもなく自然に受け止める。
やがてトゥルーデは顔を少し紅くして、ぼそっと呟いた。
あまりよく聞こえなかったが、エーリカにはそれで十分だった。
end