last night


「除夜の鐘? 何だそれは」
 扶桑の伝統行事だと言う「年越し蕎麦」を夜食代わりに食べた後、トゥルーデは芳佳が口にした言葉をそのまま返した。
 大晦日、深夜の食堂では501の隊員達が同じ様に年越し蕎麦を振る舞われ、めいめいに味わっていた。
「鐘を突く事で聴いた人の煩悩が消えて良くなるんですよ」
 芳佳の曖昧な回答を聞いて、ふむ、と頷くトゥルーデ。
「なら501は煩悩まみれの連中だらけだから全員で聴かないとな」
「でも残念な事に扶桑から鐘は持って来てないんですよね……重いし大きいし、他にも色々理由はありますけど」
 すまなそうに答える芳佳。
「そうか、それは残念」
「煩悩まみれって誰のこと?」
 横で話を聞いていたエーリカが話に割って入ってきた。
「お・ま・え・だ、ハルトマン! 毎日毎晩、欲望まみれじゃないか」
「酷いよトゥルーデ。私の事何だと思ってるの」
 エーリカのぼやきをよそに、トゥルーデは頭を掻きむしって呻いた。
「お前がこんなだらしない事になってしまったのも、全てあいつのせいだ……今から502に殴り込みに行って奴が酷たらしく死ぬまで鉄拳制裁を加えたい」
「伯爵いじめないでよ。てか殺そうとしてるじゃんか。先生も悲しむよ」
 呆れ半分驚き半分でトゥルーデに声を掛けるエーリカ。
「何故そこで先生の名前が出て来る」
 不思議そうに答える堅物のカールスラント軍人。
「これだからトゥルーデは」
「意味が分からん」
「それにさあ」
 エーリカはトゥルーデの腕を掴むとそのまま引っ張り、まるでダンスを踊るかの様に部屋の中でくるくると二人で回った。
「トゥルーデこそ煩悩まみれじゃん。私の事どう思ってるの」
「お前の事? そりゃあ、私の大切な相棒だ」
「それだけ?」
 不意にぴたりと動きを止め、二人の指に煌めく指輪を見せ合う。
「私達婚約してるんだよ。式はこの先いつになるか分からないけど。そんな私達が、同じ部屋に一緒に居て、一緒に食事して、一緒に--」
「わあもういい、それ以上余計な事を言うな!」
 トゥルーデは顔を赤くし、エーリカの口を塞いだ。そうしてすぐに周りを見た。
 二人の奇行を見ていた隊員達は、口々にまた始まっただのいつもの事だなどと軽口を叩きつつ、ごく自然に視線を逸らした。
「ぐぬぬ」
 納得いかないトゥルーデの体に腕を回すと、ひょいと抱っこされる形になるカールスラントの金髪天使。
「ねえ、今夜は私達非番だしさあ……」
 エーリカはトゥルーデの耳元で何かヒソヒソと囁いた。
「おい!」
 大声を出して否定するも、再度また何か二言三言囁かれると蒸気が出そうな程赤面し、そのままエーリカをお姫様抱っこしたまま、そそくさと食堂を後にした。
「確かに、ハルトマンの言う通りかもなぁ」
 様子を見ていたシャーリーは蕎麦をこぼして涙目のルッキーニをあやしながら、にやっと笑って呟いた。

end



コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ