puppy love


 夏だと言うのに、この肌寒さは一体何だろう。
 朝一番に起き、ベランダに出たトゥルーデは訝しんだ。
 夏ならば朝でもそれなりに温度は高い筈。ところが思わず起きてしまう様な寒さ、これは……
「まさかネウロイの仕業か?」
 思考が口に出てしまう。
 ……聞いた事が有る。低温を発生させて湖や周辺を凍らせてしまうネウロイが居ると言う事を。そしてそれを502が以前に撃破したと言う事も。
 まさかベルリンにも同種の個体が? いや、そもそも何故このタイミングで?
 考え込んでいると、背後に人の気配を察し、ふと振り返った。
 エーリカだった。
「珍しいな、いつもは私が幾ら怒鳴っても起きないお前が」
「風邪引きそうな位に寒いじゃん。そりゃあ起きるよ」
 幼子の様に毛布を抱え、引きずっていた。
「その毛布、どうした」
「寒いから」
「小さな子供じゃないんだから」
「それとこれとは話が別。貴重な熱源もどっか行ったと思ったらここに居るし」
 昨日は一緒に寝ていたのだったが、熱源扱いされるとは。少々落胆するトゥルーデ。
「まあ良い。私はこれから--」
 トゥルーデの言葉を遮るエーリカ。
「ミーナの所行って聞くんでしょ。この低温の原因は一体何だって」
「よく分かってるな」
 エーリカは悪戯っぽく笑ってトゥルーデに言った。
「ミーナはこう言ってたよ。低気圧の影響で一時的に寒くなってるって」
「“言ってた”……と言う事は既にミーナに聞いたのか」
「まあね。ミーナ、徹夜で書類と格闘してたから」
「またか。無理しやがって。徹夜続きで心配だ、様子を見に行こう」
「ついでにコーヒーも貰いたいな。すっかり目が覚めちゃったし」
 じゃあ行くか、とトゥルーデ声を掛けるとエーリカはとことこと付いて来た。
「毛布は畳んだ方が良い」
「じゃあトゥルーデに任せた」
「おい」
 渡された毛布は仄かに温かかった。ばさっとはたいて埃を払ってから慣れた手付きで畳む。
「あ、見てトゥルーデ。日の出」
 エーリカが指差す方角から、陽の光が出て来る。一筋の光が、辺りをさっと照らす。不意に温められた地面には靄が掛かり、基地周辺が幻想的な雰囲気となる。
「珍しいね」
「ああ」
 二人してベランダから辺りを見回す。
「今日も何か良い事起きると良いね」
 エーリカはそう言うと、横に立ってトゥルーデの頬に軽く口づけをした。
 にしし、と笑って一歩下がると、先にミーナの所へ向かう。
「あ、待て、エーリカ」
 毛布を抱えたまま、トゥルーデはエーリカを追った。彼女とは幾度となく繰り返しこう言う事は経験している筈なのに今のこの感覚は何だろう? 唇の当たった頬に手をやる。
「あ、トゥルーデもしかして照れてる? 初恋?」
「何でだ」
 ツッコミを入れつつも、エーリカの茶々を完全に否定出来ない堅物軍人は微笑みつつ頭を振り、愛しの天使の後を追った。

end



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