√06「見馴れない風景」
ペリーヌは不思議そうな顔つきでこう言う。
「おかしな事を仰いますわ、今朝のメニューも……」
「ああ蒸かしたじゃがいもだったはずだが」
「エッ!?マルガリータとボロネーゼじゃなかっタカ?」
「金曜日は朝昼晩三食カレー、それ以外の朝食はじゃがいもを蒸かしたものと相場が決まっているだろ」
何がどうなってるんだ?
みんな嘘をついている素振りじゃないし、私の記憶違いかな……
あれ?やっぱり何かおかしい!
「バルクホルン大尉その髪型!ポニーテール!?」
「にっ似合ってないのか?可愛くないのか!?そうならはっきり言ってくれ!」
「そっ、そんなコトないヨ似合ってル、似合ってル」
私が寝てる間に束ねたのかな?寝てる間といえばまだ頭がズキズキするな。
でもなんだろうこの漠然とした違和感は……
その謎は解けねまま、私達は基地へと帰還した。
~自室~
私とペリーヌの墜落の報せは基地へと届いていた。頭痛を訴えた私はサーニャに心配され、無理矢理ベッドに押し込まれていた。
そのサーニャはベッドの横に椅子をつけてリンゴを剥いてくれている。
「エイラ、あ~んして!はい、あ~ん!」
「チョッチョット!サーニャ!」
サーニャは淋しげな顔をする。
何やってんだ!夢にまで見たシュチエーションじゃないか!ビビってどーする!
「たっ、食べる食べる折角サーニャが剥いてくれたんだシナ」
「はい!じゃぁ~あ~ん!」
「あっ、あ~ン……モグモグ」
「もう一つ、あ~ん!」
「あ~ン……モグモグ」
「うふっ、美味しい?」
「ウン、おいちィーッッォ~」
舌を噛んだ……
サーニャが微笑む、私も照れ隠しに笑った。
あ~んサーニャ可愛いな~何なの?ねえ何なのこれ、毎朝幸福を呼ぶ藍色の頭像にお祈りしていた御利益か何か?
それとも何かの御褒美なわけ?うんうん、ずっとサーニャだけを見つめて来たんだもんな。
そのサーニャがこっちを……見つめてるよ!あ~どーしよぉ~も~。
「あれ?エイラやっぱり顔赤いよ、熱……あるのかな?」
そう言ってサーニャはおでこを私のおでこにあてた。目の前にはサーニャの顔が迫る。
近い!近いよ!こんなに近くで見たのはサーニャが部屋を間違えて来た時、そっと寝顔を覗いた時以来だ。
私の吐息が加速している、ドキドキしてるのサーニャにバレちゃうかな?
あれ?気のせいかサーニャの吐息も荒い。あぁ私の頬にサーニャの吐息がかかって、ふぅ~んってかかって来るぅ。
なんだかサーニャの顔も真っ赤だし、目がとろ~んとして、目蓋が次第に閉じられて、唇が唇が……唇!?
こっこっこれって、もっもっもしかして、キッキッキキキキッ、キス!?
キス5秒前って事!!!
どーしよーして……いいのかな……
でももし勘違いでした、なんて事になったらサーニャに一生口聞いて貰えなくなっちゃう。
どうする!どうする?どうする……
~ザ・クイズショー~
あなたの選択があなたの運命を決める!さぁ今日も始まりました、人生の岐路ザ・クイズショー
司会進行はヘタレでお馴染みこの私、エイラ・イルマタル・ユーティライネンがお贈り致します。
そして本日の回答者はスオムスからお越しの公務員エイラ・イルマタル・ユーティライネンさんで~す。こんにちは
こっこんにちハ
あれ~少し緊張していますね~意気込みの程は?
がっ頑張りマス
ここは是非とも頑張って欲しい!さて現在エイラさんはセカンドステージまでクリア。
サーニャさんの好感度を50%獲得しているわけですが、次のサードステージの問題に正解すれば好感度が75%に!
現在のお友達から、なんと!一気に恋人になれるチャンスです!
だがしか~し!不正解の場合は今まで獲得して来た好感度がすべて水の泡!これぞ人生の縮図ザ・クイズショー。
ではエイラさんサードステージに挑戦しますか?ませんか?
……ちょっ挑戦しマス!
挑戦します出ました!そうでしょう挑戦するでしょう。
なんせ恋人になればあんな事やこんな事が出来ちゃうわけです、夢のウエディングベルも目直に迫って来ますからね~。
ではエイラさん準備はよろしいですか?
ハッハイ!
元気な声だ!それじゃ~いきますよ~問題!
今あなたの目の前に愛しのサーニャさんの唇があります。ここであなたが取るべき行動は?
A.キスする
B.キスしない
さぁどっち!?
……
さぁどうする?答えて!
→A.キスする
B.キスしない
そっちでいいのかぁ~?
A.キスする
→B.キスしない
本当にそっちでいいのか~?さぁどうする!時間がないぞ~さぁさぁ早く!
残念、時間切れだぁ~!!!
~自室~
どうする!どうする?どうする……
無限回廊から抜け出せずにいた私に、サーニャがそっと囁く。
「ねぇいつもみたいに早くしてよ……キス、誰も視てないよ」
「あわわわわっ、キスってサーニャ、キスっテ!」
「ふふっ可笑しなエイラ、もしかして風邪?でもエイラのなら染っても平気、だって私達……恋人同士なんだもん!」
恋人同士!?第一いつもみたいにっていつキスしたんだっけ?
この私がサーニャとの思い出を忘れるはずないし……
無意識で告白とかしちゃったのかな?
「恋人同士って、あの……いつから私達付き合ってるんだッケ?」
「そんな……ひどいよエイラ!あの日の事を忘れるなんて」
「アノ日???」
「うん私がわざと部屋を間違えたあの日、そのままエイラに押し倒されて……(ポッ)」
サーニャはシーツにのの字を書いている、顔はさらに赤く染まっていく。
サーニャを押し倒しただって!いったい何処のどいつだ……って私なのか???
確かにあの日の事は覚えている、一晩中悶々として一睡も出来なかったんだから。
たけど押し倒してなんかいないぞ、そっと寝顔を覗いただけで何も出来なかったんだ。
やっぱり何かおかしい!私の記憶や経験と、周りの人のそれとが食い違っているのは確かだ。
どうする私?
……まっいっか、こうしてサーニャと恋人同士になれたわけだしさ♪
……よくねーよ!
何考えてるんだ私!確かにサーニャと恋人同士になりたいよ、なれて確かに嬉しいよ。
だけど幸せってものは……サーニャの気持ちだけは自分の手で掴み取らなくちゃ駄目なんだ!
偶然の産物なんかで与えられていいはずがない。そんなものに何の意味がある?そうだよなダニエル!
私は本棚横にある藍色の頭像を見つめる、ダニエルはサーニャの次に大切な私の親友だ。
人には言えない悩みを顔色一つ変えずに聞いてくれるダニエル、嬉しい時も悲しい時もいつも傍にいてくれるダニエル。
‘おまえの言う通りだ’
そのダニエルが私の心に語りかけて来る、私は決心を固めた。
「サーニャこれからみんなのとこに行く一緒に来てクレ」
「どうしたのエイラ!?」
「訳は後で話すけど……たぶんワタシはサーニャの知ってるエイラじゃナインダ!」
~ダイニング~
ダイニングには他のみんながいて、昼食兼三時のお茶の最中だった。
そして予想以上に深刻な事態を目撃する。
「坂本少佐眼帯が右目じゃなくて左目になってル!」
「いや私の眼帯は元々左目だが」
「ペリーヌ眼鏡はどうした!」
「そんな物必要ありませんわ、わたくしの視力は2.0ですもの」
「バルクホルン大尉その髪型!おだんごヘアー!?」
「にっ似合ってないのか?可愛くないのか!?だからいつもみたいにトゥルーデ姉ちゃんと呼んでくれないのか?」
トゥルーデ姉ちゃんって何の事だよ!もしかして……ここはお姉ちゃんワールドなのか?
これは小一時間前よりも記憶の誤差が開いている。頭痛による一時的な記憶障害なら誤差は縮まるはずなのに。
たぶん何処かに時空の歪みが存在して、その歪みは現在も拡大している。
歪みが拡大するにつれ別の時空に飛ばされて、時空認識能力のある私だけが記憶と経験を維持しているんだ。
やはりサーニャと恋人同士になれたなんて浮かれてる場合じゃない。
「ワタシはこの世界の人間じゃない、別世界の人間なンダ」
「エイラあんた宇宙人だったの!」
「そーじゃナイ、私はパラレルワールドから来たエイラなンダ」
『パラレルワールド!?』「でも仮にそんな世界が存在したとして世界間を移動できるのかしら」
みんなが訝しげな表情で見つめ合う、私だって状況を把握しきれていないからこれ以上説明のしようがなかった。
だけどその時思わぬ認識者が口を開いた。
「そういえば……聞いた事がある!」
『知っているのか?シャーリー!』
「あたしは音速の壁を超えた女だぜ、いずれは時空の壁をも超える為に超光速タキオンエンジンの研究をしているからな」
『お~流石シャーリー!ただのメカマニアじゃなかったか!』
全員が羨望の眼差しでシャーリー大尉を見上げる。
そして彼女は嬉々として解説し出した。
そして私達はその解説を……
★聞いたんダナ。
→
√18へ
★聞き流したんダナ。
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√19へ
※この選択によるフラグチェックはありません。
・量子的多重世界間移動に抵抗を感じる方は√18へ。
・設定よりテンポを重視する方は√19へ進んで下さい。