√27「たったひとつの冴えたやりかた」
私が取るべき最良の方法はこれしかない……
「サーニャ、ワタシの血を吸ってくれないカ、どうせ吸われるのならサーニャに吸って欲しいんダナ」
「それだけはできないよ……血を吸ってしまったらエイラがエイラじゃなくちゃうもの……」
「かまわないさサーニャのしもべとして生きて生けるならナ、もう他に方法はないんダ」
「まだ……方法はあるわ……」
そう言うとサーニャはベルトをたくし上げる。目を背けあたふたしだす私を余所にサーニャはベルトの中へ手を差し入れるのだった。
そしてスボンに添えらえたガーターから銀色に輝くナイフを引き抜くと、それを私に手渡した。
「私が死ねば彼女達は解放される……エイラ私を殺して!」
「サーニャ!!!」
なんて事言うんだサーニャ!私がサーニャを殺すなんて、そんな事出来るはずないだろ!
だけど……そうしないと隊のみんなは永遠に……どうすればいいんだ。
私は……
★サーニャの胸に銀のナイフを突き刺したんダナ。
なんて……そんな選択肢、選べっこないよ!
……私は自分の胸に銀のナイフを突き刺した。
「エイラ!!!」
「これで……サーニャに……血を吸って貰えるカナ……」
「エイラは馬鹿だよ……こんな私のために……馬鹿よ……」
そう言いながらサーニャは私に抱きついて来た。
そしてサーニャの唇が私の唇に触れる。
あぁ私は幸せだ。私は死ぬのか、サーニャのしもべとして生きて行くのか。
そのどちらだとしてもこの私の最後の記憶が、夢にまで見たこんなに素敵な結末なのだから。
そして私は意識を失った。
~起床~
私は目覚める、なにやら夢をみていた気もするけどあれは夢なんかじゃない。
全身に温かく心地良い温もりが伝わって来る。私は愛しのサーニャに抱かれたまま眠っていたようだ。
私は生きている、記憶もはっきりしている。サーニャのしもべとなったわけでもないらしい。
「気分はどうエイラ?」
「とっても幸せダヨ、だってワタシのファーストキス……サーニャに捧げたんダカンナ」
「!!!あっあれはキスじゃないもん……最初のキスはエイラからって……そう決め……!!!」
私は唇でサーニャの唇を塞いだ。私にとって二度目のファーストキスだった。
夜の静けさの中、私達は抱き合い続けた。空に浮かぶ金色の満月だけがそっと私達を見つめていた。
しばらくしてサーニャは語ってくれた、あの時のキスについて。
あの時私の命は尽きようとしていた、その私にサーニャはバンパイアとしての不死身の命を分け与えてくれたのだと言う。
だがその事でサーニャはバンパイアとしての全ての能力を失ってしまったのだ、その不死身の肉体さえも。
「本当に良かったノカ?私なんかのためにサ」
「うん……たとえ永遠でもエイラのいない人生なんて」
そして私達はまたキスをした。それは私にとって誓いを意味するキスだった。
サーニャは永遠の命と引き替えに、普通の人間として私との刹那な寿命を選んでくれた。
限られたその日々を、私は一生サーニャに捧げる誓いをした。
~翌日~
基地は普段と変わらぬ朝を迎えていた。サーニャがバンパイアとしての能力を失った事で隊員みんなの呪縛も解かれたからだ。
結果的にサーニャが普通の人間として生まれ変わる事こそが、私達にとってたったひとつの冴えたやりかただったんだ。
そして私とサーニャはキッチンにいた。
今朝の朝食当番が私達二人だったからだけど、私にとってはちょっとした新婚夫婦イベントだ。
鼻歌なんて歌いながら私が野菜を刻んでいるとサーニャが話しかけて来た。
もしかして朝一番のキスのおねだりとか?もうサーニャったら果てしなく可愛いなぁ!
「あのねエイラ……実は私……もう一つエイラに隠していた事があるの……」
「!!!」
なんだんだ隠し事って!まさか‘実は男でした!’とか言うんじゃないよな!
私は考え得る最悪の告白を想定したが、今の私にはなんの問題もなかった。
たとえサーニャが男だってかまわない、彼女のすべてを受け入れる!その自信があった。
なぜならこの身を一生サーニャに捧げると、そう誓ったのだから!
「あのね……」
「ウン」
「実はね……」
「ウ、ウン」
「昨日の朝食でトマト料理をリクエストしたのは……私なの……」
「……」
……許せなかった。
私はサーニャにトマトをぶつけた。
エンディンクNo.02「たったひとつの冴えたやりかた」
~おしまい~